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第106話 VSパラディオン⑪

「ふぅ。到着っと」


 暴れているパラディオンをグリムに託して俺は鈴風と合流。


「たった数十メートルの距離にどれだけ時間を掛けてるのですか」


 そう思うのなら自分が来ればいいのに、待ってるだけだもんなぁ。

 まぁラビットAが動けないから仕方ない部分もあるけど。


「あのままのパラディオンを放置できないから仕方ないだろ」

「そう。それです! 何ですがあのドラゴンは!!」


 鈴風がずいっと近寄って俺を問い詰める。

 そういえば軽く話はしたけど、ちゃんとした説明はしてなかったな。


「ちょっと前に言っただろ。海竜と同格のドラゴンを紹介するって」


 まだパラディオンに会う前で、海竜と戦わせないための苦肉の策だったけど。

 実際は海竜はおらず、同格どころか格上のドラゴンで、しかも勝手に喧嘩を吹っ掛けて……うん。全く意味がなかったな。

 そのことは鈴風も覚えていたようで、そういえばと呟く。


「そういえば言ってましたね。いいでしょう。シュート、あのドラゴンと戦わせなさい」


 いやお前、約束破ったから無効だろ……と言いたいところだが、復活したバトルジャンキーに何を言っても無駄。

 ったく。マジで全然変わってないのな。


「……この件が全部片付いてからな」

「約束ですよ!」


 まぁグリムが可哀想になるだけでこの場が収まるならそれでいい。

 つーか、そのグリムなんだけど、さっきからグリムは『シュート! 我、もう死んじゃう!?』だの、『あっ翼は駄目。もう一枚も無くなると、我はドレイクになるではないか!』だの。

 いやぁ本当に情けない。

 俺が以前見た威厳あるドラゴン姿は実は夢か幻だったのではないかとすら思う。


「……あの姿を見ても本当に戦いたいって思うの?」


 だけどあの姿を見た俺と鈴風の感想は全く違うみたいで。


「あのドラゴン。口ではああ言っておりますが、実際には傷一つ負っていません。それに周りに気を使う余裕もあるようですし……ドラゴンの格はともかく、戦闘技術はパラディオンと比べるまでもなく上かと」

「……そうなの?」


 確かに口ではああ言ってるが、致命傷はなくどれも紙一重で避けている。

 そしてパラディオンの放電やブレスも避けつつも、それがティータたちの防御魔法に上手く命中して洞窟に被害が及んでいない。


「つーか、余裕ならあんな情けない姿を見せるなよ」

「そこは飼い主に似ただけでは?」

「あ~確かにシュートはいっつもあんな感じだわ」


 ほっとけ。

 というか、ナビ子にだけは言われたくないんだが?

 お前だっていつも騒いでるだろうに。


「とにかく、あのドラゴンとは後日戦うとして、今はリベンジが最優先です」

「……俺は鈴風に武器を貸せばいいのか?」


 それが俺が呼ばれた理由だろう。

 理不尽バリアに対抗できるように俺が合成した武器を鈴風に貸す。


「だけど……今はそんな大した武器は持ってないぞ」


 もちろん合成した武器はそれなりにある。

 けど……正直、武器の優先度は低いんだよなぁ。

 一つはファーレン商会にレベルの低い量産型魔剣や属性武器を卸しているから、他の武器を作る気力ってあんま沸かないんだよねぇ。

 それに俺には俺にはラビットファイアとブラストガンがあるし。

 カードだから壊れる心配もないし、他の武器を使う予定もない。

 同様にラビットAのボーパルソードなど、仲間用にも一つ作れば十分だし。

 そして最大の理由がガロン。

 せっかく俺の合成よりも優秀な武器を作る鍛冶師がいるのに、俺が作っても……ねぇ。

 だからそのガロンの武器ならあるが……それじゃあパラディオンの理不尽バリアは破れないだろうし。

 

 結果、今貸し出せるのはファーレン商会に卸している高くて星3レベルの量産型魔剣や属性武器。

 鈴風が愛用している星4の静嵐刀に比べると性能は遥かに落ちる。

 そもそも卸している武器に薙刀はない。


 まぁ武芸百般スキルを持っている鈴風ならどんな武器も使いこなせるだろうし、理不尽バリアを無効化するだけなら俺が合成した武器なら星1でもいいんだろうけどさ。


 だが俺の言葉に鈴風は首を振る。


「いいえ。シュートから武器は借りません」

「はぁ!? じゃあどうす……」

「ウサ子がどう言おうが、どんなに畑違いだろうが、シュートから武器を借りれば……同じプレーヤーのシュート相手の力を借りれば、どうしても負けた気分になります」


 俺が言い終わる前に鈴風が言葉を被せる。

 ラビットAがどんな説得したか俺は知らない。

 畑違いの意味も分からんし……。

 でも、やはり同じプレーヤーのって部分に色々と鈴風の葛藤があるような気がする。


 しかし、武器を借りずにどうリベンジする気だ?


「ですが……同じプレーヤーのシュートにではなく、なんちゃって鍛冶師のシュートになら話は別です」

「誰がなんちゃって鍛冶師だ!!」


 なんて酷いことを言うんだ。


「ぷぷぷっ。なんちゃって鍛冶師だって」

「黙れ。なんちゃって妖精」

「はぁっ!? 誰がなんちゃって妖精よ!!」

「お前だお前!!」


 ったく。

 なんちゃって鍛冶師とか、まるで俺がナビ子と同レベルみたいじゃないか。

 このまま俺とナビ子が言い争いを……ってとこで、鈴風がパンパンと手を叩いて静止する。


「漫才をする時間はありません」


 ……そもそも鈴風がなんちゃって鍛冶師とか言った所為なんだが?

 だが鈴風は意に介した様子もなく4枚のカードを取り出し俺に差し出す。


「……これは?」

「シュートから武器を借りるのではなく、わたくしが武器を提供するので、その武器でわたくしの新しい武器を作りなさい」


 なるほど。

 プレーヤーのシュートに借りを作るんじゃなくて、なんちゃって鍛冶師のシュートに武器開発の依頼をすると。

 俺をプレーヤーじゃなく鍛冶師にする辺りが畑違いって意味かな?

 そして素材も提供することで、更に借りを作った印象も減らす。


 それが鈴風なりの妥協点なんだろうなぁ。

 ……なんちゃっては余計だけど。


「……ふぅ。分かったよ」


 もちろん俺に断る選択肢はない。

 それは鈴風のためでも、説得したラビットAのためでもない。

 ましてやパラディオンを倒すためだとかとんでもない。


 もっと単純な理由。

 だって俺はコレクターだから。

 せっかく新しい武器を登録できるチャンス。

 見過ごせるわけないよなぁ?

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