閑話 ラビットAと鈴風
今回は閑話。
「第99話 VSパラディオン④」
ラビットAが変身した後のラビットA視点です。
「ほんっとにシュートってばお尻に火がつかないと本気を出さないんだから!!」
シュートがダークミストを唱えてから機敏に移動する。
あんな動きができるなら、いつもやればいいのに。
いっつもあたしやティータを頼ってばっかで。
……頼られるのは嫌いじゃないけど、あたし達カードモンスターはシュートの格好いいところも見たいんだよ。
「……いいなぁティータとメーブ」
たった今召喚されたティータとメーブを本当に羨ましいと思う。
シュートの戦ってる姿を近くで見れて……そして一緒に戦えて。
あたしだってシュートと一緒に戦いたいのに。
それもこれも全部鈴風のせいよね。
一人で突っ走って、返り討ちに遭って、ふて腐れて。
このまま鈴風をほっとけば、鈴風はきっと駄目になっちゃう。
何かある度に才能がないからとか言って逃げるようになる。
だからあのドラゴンは鈴風が倒さなくちゃ駄目なの!
こんなことで逃げ続けることになるなんて絶対に許さないんだから!
あたしは鈴風に手を差し伸べる。
「ほら鈴風。あのドラゴンにリベンジに行くよ!」
「……もういいのです。ほっといて下さい」
でも、鈴風はその手を一瞥してからプイッと目を背ける。
もういいとか全然思ってもないくせに。
「あたしだって、あのドラゴンと鈴風がガチで戦って本当に鈴風が負けたんなら何にも言わないよ。でも今回は違う。あたしは鈴風が負けただなんて思ってない。だってあのドラゴンすっごく弱いもん」
鈴風との戦いを見て分かったけど、あのドラゴン、多分今までまともな戦いをしたことないんじゃないかな。
身体能力とスキルが凄いだけで、戦い方がへっぽこなんだもん。
鈴風もそれが分かっているから。
実力で負けたと思っていないから拗ねている。
もし本当に実力で負けたと思ってるなら、絶対に拗ねない!
負けたとしてもスッキリと満足している!
「……なんと言おうと攻撃が通じなかった時点でわたくしの負けです」
「あんなのただのズルっこじゃん」
そう。覚醒した人以外無効化するなんてバリアはただのズルっこ。
そのスキルだって自分で努力して習得したわけじゃなく、ただ神の世界で生まれたから手に入れただけ。
そんなの本人の実力でも……ましてや才能でもない。
「それを才能のせいにして逃げるのは違うよ」
「違うと言われようとも攻撃が通じないのは事実ではありませんか」
「だったら通じる攻撃をすればいいだけじゃん」
確かに鈴風の攻撃は全部無効化された。
でも無効化されない攻撃だってあった。
最後にムサシが投げた手裏剣。
そしてシュートやセレンの攻撃が通じている理由。
「シュートの合成した武器なら無効化されないんだから、シュートから武器を借りれば鈴風の攻撃は通じるよね」
「ですからシュートに施しを受けるくらいなら負けたままの方が……」
「それが違うの!!」
これが鈴風の悪いところ。
鈴風は才能という言葉に大きなコンプレックスを抱いている。
理由も聞いたけど……違う世界で生活していた頃の話で、正直あたしには殆ど理解できなかったけど、多分いくら努力しても才能がある人間には敵わない的な内容だったと思う。
そして鈴風はシュートを努力していない才能だけの人間だと思っている。
だから才能あるシュートに借りを作ることは負けと同じ。
いや負けるよりも嫌なことなんだ。
……馬鹿馬鹿しいよね。
「畑違いの相手に何嫉妬してんだか」
「……どういう意味です?」
「シュートがさっき言ってたの。自分は決して努力してないわけじゃない。ただ鈴風とは努力の方向が違うんだって」
「努力の……方向性?」
ついさっきシュートがあたしに聞かせてくれた言葉だ。
戦闘のために努力はせずとも、カード集めのための努力なら怠らない。
その過程で覚醒したのなら、それを才能という言葉で片付けないでくれと。
どちらかと言うと、あたしも鈴風と同じく、いつも戦いをサボろうとするシュートは努力をしない怠け者だと思っていた。
でも、それと同時にカードに懸ける情熱も知っていた。
だからシュートのこの言葉にはすごくしっくり来た。
「あたしは、じーちゃが好きなの」
「……じーちゃ? 確かドワーフの鍛冶師だという?」
あたしが突然話を変えたものだから鈴風は少し戸惑いながら答える。
鈴風はじーちゃに会ったことないけど、あたしが何回か話したから覚えてたみたい。
「うん。そのじーちゃ。じーちゃはね。どうやったら強い武器が打てるか、いっつもそればっかり考えてるの。何度も何度も図面を引いたり打ち直したり。最近はシュートやアズーの無茶振りで忙しそうにしてるけど、それでも時間を見つけては武器を打ってるの」
「……それがどうしたのです?」
「んとね。鈴風は鍛冶を頑張ってるじーちゃの努力が足りないって思う?」
「思いません」
「そだよね。戦闘訓練を頑張ってなくても鍛冶を頑張ってるんだから、いっぱい努力してるもん。シュートだっておんなじ。だから畑違いなの」
「戦闘の努力をしてなくても他で努力をしている……と」
「うん。努力の方向性は微妙だけどね」
カード集めに努力するって世界中でもシュートだけだろうけど。
でも、鈴風のシュートへの認識は少しは改められたかな?
「んじゃ次ね。じーちゃが丹精込めて作った武器を鈴風にあげるって言ったらどうする? 施しはいらないって断る?」
「それは……おそらく断りません」
「じゃあシュートの武器だって断らなくていいじゃない」
「ですが……」
そこはまだ渋るんだ。
「じーちゃは鍛冶で努力している。シュートだってカード集めで努力している。じゃあ鈴風は? 鈴風は戦いの努力をしてるんでしょ? じゃあさ……あのドラゴンにリベンジする方法があるってのに、変なプライドで
それをしないのは努力を怠ってるってことじゃない? 鈴風の方が怠け者じゃん」
「!?」
「そもそも武器を借りることを施しって言うんだったら、今の鈴風の武器はどうなのよ。自分で素材集めをして、自分で打ったの? 違うでしょ。運営から貰ったものでしょ」
「…………」
あたしの言葉に反論できないのか鈴風が黙り込む。
……もう少しかな。
「大体、同じプレーヤー出身だからって。鈴風はシュートに対抗意識を燃やしすぎ。タイプが全く違うんだから、気にすることなんか全くないじゃない。ほら、シュートなんて唯のカード馬鹿なんだから、武器を借りるじゃなくて、使ってあげるくらいで……」
あっ!? 駄目!? 時間が!?
――ボフン
「きゅぺぇ……」
覚醒スキルの時間が終了。
魔力切れで倒れ込む。
後もうちょっとで言いたいことが全部言えたのに。
絶対シュートとナビ子の漫才で時間を取られたせいだ!
「きゅぺぇ……きゅぎゅか。はやくしなーと、きゅートが全部終わらせーかも」
だってあのドラゴン、本当はよわーだから。
シュートが本気を出しちゃったら簡単に倒せちゃう。
一応、時間稼ぎってお願いしたけど……あんまり遅いとやっつけちゃうかもよ。
「きゅったら、きゅぎゅか、ずっと負け犬のままになっちゃーよ」
だからね鈴風。
変なプライドなんか捨てて、早くあのドラゴンをやっつけなよ。




