第104話 VSパラディオン⑨
負けたことを認めないパラディオンがブチギレて始まった第三ラウンド。
電撃を纏ったことにより縛りが通用せず、本気のガチンコ勝負になるかと思いきや。
次の瞬間、パラディオンはその纏った電撃を一気に解放。
俺に向けて……ではなく、全体への全周囲無差別攻撃だった。
「ナビ子!」
「うん。エアリアルバリア!」
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エアリアルバリア【風属性】レア度:☆☆☆☆
上級風魔法。
風属性の防御魔法では最大級の魔法。
使用者を中心に風の防御結界を張る。
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防御力という点ではプリズムガードやプリズムエリアよりも劣るが、全周囲に向けて放った電撃はブレスよりも威力が低そうなのでこれで十分。
俺たち以外の仲間、ティータとグリコは俺たちと同じくエアリアルバリアを。
闇属性の防御魔法を使用しているのはメーブとペル。
アークはペルの防御魔法で守られている。
「あれっ!? セレンは?」
見るとセレンが何処にもいない。
「うっそ。もしかして今の電撃でやられちゃった!?」
アサシンビーに続きセレンも!?
俺は慌ててカードを確認……戻ってきてない。
良かった。まだ生きてる。
「マスターひっどーい。勝手にアタイを殺さないでよ」
「うおっなんだ。こっちに来て……」
セレンの声がしたので振り返り絶句。
何故かセレンはネレイドの女王を抱きかかえていた。
「おま……何してるの?」
「もしかして……人質?」
「いやいや、流石にそれはマズいだろ!」
ただでさえブチギレてるのに、火に油を注ぐような真似したらどうなるか。
「違うよ!! アタイはそんなマスターみたいな真似はしないもん」
「お、おう」
どうやら人質にするつもりではないようだが……あれ?
なんか俺がディスられたのは気の所為だろうか。
人質って言ったのはナビ子なんだけどなぁ。
「アタイは女王さんの結界が無くなってたから保護しただけなの!」
「えっマジ!?」
俺が女王に確認すると、女王はコクリと頷く。
マジか……海水が無くなって地上に降りてからはパラディオンが死角になって女王の姿が確認できてなかったが、そんなことになってたとは。
「え、ええ。あの……パラディオン様がお怒りになられた後に急に……」
「そこで慌ててアタイが助けに行ったの。アタイがいなかったら、女王さんはビリビリで確実に死んでたね!」
そう言ってセレンはえっへんと胸を張る。
「女王さんは人魚仲間だからね。助け合わないと!」
そう思ってたからこそセレンは誰よりも早く女王のピンチに気づいたのだろう。
……今の姿が飛行型で全く説得力はないけどさ。
ともあれ、今回ばかりは本当に助かった。
「よしよし。よくやったぞセレン」
「えへへ。マスターのお嫁さんとして当然のことをしただけだよ」
「うん。お嫁さんじゃないけどね」
だからナビ子も俺にジト目を向けるんじゃない!
「とにかく女王も無事で良かったよ」
「あ、あの……わたくしのことはエライネと……」
……意外と余裕があるよなこの女王も。
そしてナビ子はジト目を強めるんじゃない!
「にしても……」
そこまで言って俺は大きく息を吸い込む。
「だああああ! あのクソドラゴン。何考えてやがる!」
思わず叫ばずにはいられない。
いくらキレたと言ってもだ!
我を忘れて孫のように可愛がってた女王を危険にさらしてどうする!
「そんだけシュートの煽りに耐えられなかったんでしょ」
「いやいや、全然煽ってないだろ」
全力を出さなかったのは自業自得とか、相手は邪神だから卑怯な手を使って何が悪いとかは言ったけど。
それは煽りじゃない……よな?
後は回復を餌に脅した……ってそれも大概だけど、負けを認めないのが悪いんだし。
「例えば世界一位の格ゲープレイヤーがいるとして」
「はっ? お前何言ってんの?」
いきなり世界一位の格ゲープレイヤーとか……流石にここで世間話をしている余裕はないぞ。
「いいから聞きなさい。その世界一位の格ゲープレイヤーが格ゲー初心者とその格ゲーで戦うことになったの。どうなると思う?」
「……そりゃ世界一位さんが勝つに決まってる」
「当然よね。だから世界一位は必殺技を封印して基本技だけしか使わないことにしたの」
「……それでも世界一位さんが勝ちそうだけど」
「そう思うよね。実際世界一位は胸を貸すつもりで戦ったでしょうし。でも、その初心者はバグ技とハメ技で世界一位を倒しちゃったの。んで、その時初心者が『よわっ世界一位よわっ。ねぇ初心者に負けてどんな気持ち? ねぇ今どんな気持ち』って言ったの」
「……最低だな」
「世界一位はそんな初心者にバグ技やハメ技は大会では禁止だし、普通の対戦でも暗黙のルールで禁止になっていると大人な対応で答えるの。そしたらその初心者は『世界一位が負けた言い訳とか雑魚乙~』って返すの。そりゃプッツンするのも当然よね」
「俺はそんなに煽ってねー!!」
あれだろ。
パラディオンが世界一位で俺がそのムカつく初心者だって言いたいんだろ。
「シュートさいてー」
「なに取って付けたようにさいてーとか言っちゃってんの!?」
これ、絶対さっきのジト目分も含んでやがる。
「でも実際あのドラゴンにはそう思われちゃったんでしょ」
……真意はどうあれ、パラディオンがそう捉えたのは間違いない。
「これ……どうすればいいと思う?」
「例えばね。さっきの世界一位の手元に金属バットがあったらさ。破壊し尽くすまで止まらないと思わない」
「……思う……じゃねーよ! どうするんだよこれ!」
「知らないわよ! どーすんのよこれ! 何とかしないとこの洞窟無くなっちゃうわよ!」
結局のところ、俺と同じくナビ子も例え話して現実逃避するレベルでテンパっていたわけだ。
パラディオンは全周囲電撃攻撃の後もブレスや炎まで撒き散らし手のつけられない状況になっている。
早く取り押さえたいけど、引き続き電撃を纏っていて、縛るのは不可能。
さっきみたいに腕を切り落としても……我に返るどころか、更に暴れまくるだろう。
かと言って、このまま落ち着くまで待っていたら、確実に洞窟が崩壊してしまう。
最悪、俺たちは防御魔法があるから崩壊しても死なないだろうが、ネレイドの国は……。
止めることが出来ないのであれば、残る選択肢は唯一つ。
「こうなったらもう殺すしか……」
「や、止めてくださいまし!!」
女王が涙目で懇願する。
うん。そんな姿もうつくし……じゃない。
ネレイドの国も大事だが、女王にとってパラディオンは命の恩人でもあり育ての親みたいなもの。
殺すわけにもいかない……か。
八方塞がりかと思ったそんなとき。
「シューーーート!!!」
大声で俺を呼ぶ声が聞こえた。
声がした方向へ振り返る。
「シュート! さっさとこちらに来なさい!」
「きゅぺぇ」
さっきまで不貞腐れていた姿はどこへやら。
すっかり元通りになった鈴風と、ウサギ姿でばたんきゅー状態のラビットAの姿があった。




