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第100話 VSパラディオン⑤

「ま~すたっ!」

「おわっ」


 全くもってこの場に似つかわしくない可愛らしい声とともに背中に衝撃を受ける。

 後ろを振り向くと、そこには飛行型のセレンが俺に抱きついていた。

 海水の無くなった今、人魚型ではなく飛行型に変身したのは分かる。

 分かるが……何してるんだこいつは?


「おいこらセレン。離れろ」

「やだも~ん」


 そう言ってセレンは抱きついたまま顔をぐりぐりと擦りつける。


「へへ~。マスターだ~いすき!」

「いや、ほんと離れろって!?」


 んなことしてる場合じゃないっての!?

 つーか、ナビ子の視線がもの凄く痛いし。

 何でいつもみたいに『シュートさいてー』って言ってくれないの!?

 いや、別にさいてーって言われたいわけじゃないけど。

 言われなきゃ言われないで不穏というか、逆にガチっぽくて。

 ……うん。これならさいてーと言われた方がなんぼかマシだ。


「だってだって。マスターってば、もう一人のアタイばっか構って、アタイのことをちっとも構ってくれないんだもん」

「それは海の中なんだから仕方ないだろ!?」


 まぁ仮に地上だったとしても、飛行型のセレンを構うかは微妙だが。

 人魚の方はまともなのに、何でこっちはこうも子供っぽいのか。

 話せるようになる前までは普通だったのになぁ。


「はぁこれだからアタイは……」

「なに唐突にアタイをディスってんのよおおおお!!」


 先ほどまでの蔑みの視線から一転、怒りの形相へ。

 うんうん、やはりナビ子はこうでなくちゃ。

 ともあれ俺は無理やりセレンを引きはがす。


「む~。マスターってばひっど~い!」

「ひどいじゃないっ! 今の状況を考えろ!」

「う~。ちゃんと考えてるもん。中断中の今しかチャンスがないから来たのに~」


 あっ一応状況は理解してたのか。

 確かに今は中断中……というか、ラビットA待ちの状況だった。

 そう考えると、今のうちに合流して体勢を立て直すのは間違ってはいない。

 問題は飛行型セレンの性格があれだっただけ。

 いや、もう一つ。

 変身後のラビットAの行動もだ。


 まさか戦わないと言い出すとは完全に予想外だった。

 そして予想外だと思っていたのは俺たちだけでなく、変身するのを待っていたパラディオンも。

 ようやく真剣勝負が出来るかと思っていた矢先のこれだ。


 肩透かしを食らったパラディオンの怒りの矛先が全てこちらへと向かう。


「小僧、貴様やる気はあるのか!?」


 やる気なんか最初からねーよ!!

 図鑑を取られたくないから仕方なくやってるんだ。

 もちろんそんなこと言えないけど。


「安心しろ。ここからちゃんと相手してやるよ」


 そう、ラビットAが戦闘放棄した今、俺がやらなくちゃいけない。


「ほう? ちゃんと我を楽しませることが出来るのであろうな?」


 それ趣旨変わってるだろ!?

 この戦闘の目的は俺が知識の書を持つに相応しいか確かめることで、パラディオンが楽しめるかどうかは関係ないだろうが!


 もちろん俺にパラディオンを楽しませるような戦いを期待してもらっては困る。

 さっき同様、搦手を駆使して戦うだけ。


「では行くぞ!」


 もうこちらに時間を与えるつもりはないようだ。

 パラディオンの口から水が発射される。

 周囲の海水が無くなってブレスをハッキリと視認することが出来たが、こりゃまさに水の波動砲だ。


 当たれば大ダメージなのは間違いない。

 が、俺の身体能力は霊薬によるドーピングで鈴風も自分以上だと認めているくらい。

 海中じゃなければ避けるくらいは出来る。


「セレン!」

「マスター! まったねー!」


 俺は横に、セレンは飛び上がってブレスを避ける。


「ダークミスト!」


 移動しながら俺はダークミストの魔法カードを解放(リリース)

 パラディオンの周囲に煙幕が発生する。


「目眩ましか。このような物が通用するわけなかろうが!」


 ダークミストは毒ガスでも何でもない、ただの煙幕の魔法。

 パラディオンが振り払っただけでダークミストはあえなく霧散する。

 が、それくらい俺だって計算済み。


「ダークミスト!」


 俺は続けて二枚目のダークミストを解放(リリース)

 通常の魔法と違い、魔法カードは解放(リリース)するだけで発動。

 一瞬で霧散したところで何度も使えばいいだけ。


「ナビ子。何枚使ってもいいから、パラディオンの視界を塞ぎ続けてくれ」

「あいよっ!」


 三枚目からナビ子に任せる。

 正直なところ、視界を塞いだところで気配察知くらい出来るだろうから、居場所はバレバレだろうが、煙幕プラス移動し続ければ狙いを定めるのは困難のはず。

 その間に俺は増援を……。


「アッタイはマッスターのおっよめっさん♪」

「ぶっ!?」


 空から聞こえてきた歌声に思わず噴き出す。

 おそらく人魚型と同じく歌姫スキルを使用しているのだろうが……なんちゅう歌を歌ってるんだ。

 セレンの歌に合わせてクリオネ……ではなく、今度は小鳥の群れがパラディオンを襲う。


「……良かったわね。可愛いお嫁さんで」

「……やっぱりアタイっ子はどうしようもないな」

「だからアタイで括んなっつってんでしょ!」

「ナビ子が皮肉ってくるからだろ! いいからダークミストを唱えてろ!」

「分かってるわよ!」


 ったく。今は言い争ってる場合じゃないっての。


 ともあれ第二ラウンドの先手を取ることには成功したっぽい。

 気を取り直してさっき仕掛けた増援を改めて投入。


「ティータ、メーブ!」


 まずは俺が最も頼りにしている妖精女王の二人を解放(リリース)

 解放(リリース)する際に、現状をできる限り思い浮かべながら解放(リリース)することで、二人にも現状を共有できるようにしておくことも忘れない。


「お久しゅうございます我が主」

「うん。メーブ、久しぶり……かな?」


 数日しか経ってないような気もするが、それ以前はほぼ毎日のように召喚していたのだから、久しぶりでも間違いないよな。


「現状は把握してるか?」

「ええ。なにやら大ピンチの様子で」

「ああ、だから色々と助けてもらうぞ」

「お任せください」


 よし、メーブは大丈夫そう。

 一方で同じく召喚したティータは何やら困惑している様子。


「あ、あのマスター」

「どうしたティータ?」


 もしかして現状の共有に失敗したか?


「ちょうど今、アズリア様も修羅場ってまして……」

「えっ!?」


 しまったあああ!?

 そういやティータにはアクアパッツァに残してきたアズリアの補助を任せているんだった!


「ああいえ、こちらに比べると修羅場とは言えませんし、問題ないと思います!」


 ……いや、問題ないって言っても、すごい気になるんだが。

 修羅場って何してるんだよ!?

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