第99話 VSパラディオン④
「「パワーアップ!?」」
広場全体を包み込むぶくぶくハウスを展開したラビットAは、間髪入れずにパワーアップと叫んで光に包まれる。
「な、ナビ子。パワーアップってあれだよなあれ。ラビットAが女の子になっちゃうやつ」
「そ、そうよ。本家覚醒スキルよ」
本家覚醒スキルて……確かに覚醒の文字を見たのは最初だけども。
「でもあれって、一ヶ月以上魔力を溜めないと使えないって話じゃなかったか?」
鈴風との決闘からまだ半月くらいしか経ってないから、まだ使えないはず。
「そのはずだけど……もしかしたら今溜まっている分だけで無理やり変身しようとしてるんじゃない?」
「無理やりって……それってラビットAに悪影響とかないのか?」
「普通なら身体に影響がありそうだけど、ラビットAはカードモンスターだから大丈夫だと思う。多分変身時間が短いくらいじゃないかな」
そっか。
無理やり力を引き出すって今後一切魔法が使えなくなったり、寿命が縮んだり、最悪力を使い果たして死んだりするイメージがあったけど、ラビットAがカードモンスターである以上、元通りにはなるのか。
まぁ溜め込んだ魔力が少ない分、変身時間はあの時よりも短いのは仕方ないとして。
あの時が5分も保ってなかったから、今回はそれこそ2、3分ってとこか?
その上、変身が解けると魔力ゼロで、もれなくきゅぺぇ状態になるおまけ付き。
「なぁナビ子。なんかさ、逆に追い詰められた気しない?」
「……気のせいよきっと」
「……そうかなぁ」
だってさ。そのその2、3分でパラディオンを倒さなかったら、その時点でラビットAの敗北確定。
イコール俺たちの詰み。
「ラビットAがやる気になってくれたのは助かるんだけど、何でもっと堅実にやらないんだよ」
ラビットAなら元のままでもパラディオンといい勝負ができるはずなのに。
「そりゃあキレちゃったからでしょ」
ごもっともな話で。
「それにね。ラビットAがぶくぶくハウスを使ったのって、変身中に自由に移動できるようにじゃないの?」
「なるほど!」
確かに若干の泥濘や湿気はあるものの、海水のないこの状況は地上とほぼ変わらない。
そして変身中のラビットAなら、テレポートを駆使した先手必勝並の攻撃も可能。
別にキレて自棄になったわけじゃなく、ちゃんと考えての行動でもあるのか。
やはり、こと戦闘に関しては頼りになる。
なおラビットAのことが気になって仕方がないが、当然パラディオンの方にも意識は向けている。
何せ地上に降りたせいで3リスのプリズムエリアの範囲外だし。
3リスがプリズムエリアを張り直すまで、ブレスがきてもたんと対処できるよう準備はしている。
……まぁパラディオンの様子をうかがう限りでは大丈夫そうだけど。
ぶくぶくハウスで海水が無くなったことに驚いたのも一瞬だけ。
そこからは俺たち同様、興味深そうにラビットAを観察していた。
どうやら変身が終わるまでは手を出すつもりはないらしい。
パラディオンの本当の目的は俺たちを殺すことではなく、俺が知識の書を持つに相応しいか確かめること。
さっきまでは俺たちを殺すつもりで攻撃をしてきたわけだが……それくらい対処できて当然。
死んだらそれまでとでも思っているんだろう。
今はちゃんと実力を出そうとしてるんだから……その間に攻撃するような無粋な真似はしないと。
……まぁパラディオンも鈴風やラビットAと同じく、ただのバトルジャンキーなだけかもしれんがね。
そうこうしている間にラビットAの変身が終了。
ラビットAを包んでいた光が落ち着くと、そこにはウサ耳女子中学生風のラビットAの姿が。
「いや~ん。ラビットAかっわいー!」
この姿のラビットAを見るのは二回目。
流石にナビ子のようにはしゃぎはしないが……うん。確かにかわいい。
しかも実力はウサギの頃よりも何倍もある。
本当はもっと時間をかけて愛でたい所ではあるが、如何せん時間がない。
「よしいけラビットA。一気にやっちゃえ!」
「うんうん。ばーっとね!」
俺とナビ子は完全に観戦モード。
もちろん防御の準備はバッチリで。
そしてパラディオンの方もどっしり構えて待ち構える。
だがここでラビットAが誰もが予想だにしなかった一言を放つ。
「じゃあシュート。後はよろしくねー」
そう言ってパラディオンや俺たちから背を向けるラビットA。
「「ちょっっと待ったああああ!!」」
「なに? 時間がないんだけど?」
「「知ってるよ!!」」
俺とナビ子の止めに、心底うざそうに振り返るラビットA。
「時間がないから早く戦わないと!?」
「そーよそーよ!」
「はっ? 戦わないけど」
「何故!?」
「もしかしてラビットAってば反抗期? 戦えって言ったから戦いたくなくなっちゃった?」
んなわけねーだろ。
でも、戦わないなら何で変身したし!?
というか、本当に時間が勿体ないんだってば!?
「だって、あれはあたしの獲物じゃないし」
「……ラビットAって一人称あたしなんだ」
「良かった……アタイじゃなくて本当に良かった」
「はぁ!? シュートなにアタイをディスってんの!?」
「別にアタイをディスってるわけじゃねーよ。ただ誰かさんのせいでアタイの印象が悪すぎなのが悪いんだよ!」
「その誰かさんって誰なのよ!!」
「時間がないって言ってるでしょ! 漫才する余裕があるなら、あたしは
もういらないよね」
「「ごめんなさい」」
いや、別に漫才やってるわけじゃないんだけども。
全部アタイが悪いんだ。うん、アタイのせいにしとこう。
「つーかさぁ、もう十分手伝ったでしょ?」
「「何を?」」
そりゃいつもは助けられてるけども、今回に関しては何かしてもらった覚えがない。
そう思っていると、ラビットAはこの空間を示す。
手伝ったって……ぶくぶくハウスのことか!?
「ねっ。戦いやすくなったでしょ」
さっき俺が思ったことをそのまま返される。
「それに、これなら皆を呼び出せるでしょ? 時間稼ぎにピッタリじゃない」
確かに海水がなくなった今、ティータやメーブなど出せなかった仲間も呼び出せることが出来る。
「そのために……これを?」
「じゃなきゃこんな面倒なことしない」
……自分が戦いやすいためじゃなかったのか。
「って!? じゃあ何で変身したし!?」
わざわざ貴重な覚醒スキルを使う必要なんてない。
「そりゃやることがあるからに決まってるじゃない」
「……ちなみにそのやることって?」
俺がそう言うとラビットAは鈴風の方を見る。
「そこでイジケている分からず屋を説得することよ」




