第96話 VSパラディオン
実力を示せという理不尽な理由で、パラディオンと戦うことになってしまったわけだが。
非常に不本意ではあるが、バインダーを手放す訳にはいかないから仕方がない。
「ナビ子! ひとまず離れるぞ!」
「あいよ!」
とにかくこんな至近距離は俺たちの間合いではないため、ひとまず離れて様子を見る。
警戒を怠らないよう後方に退くと、直後何かが俺の目の前を通り過ぎて……とてつもない風圧が俺を襲う。
「うわっ!?」
「いやあああ~!?」
海中で下がろうと少し地面から浮いた状態だから、踏ん張りが効かず、10メートルくらい吹き飛ばされる。
「な、何だったんだ今のは」
「よ、よかったじゃない。お望み通り離れられたわよ」
「……声が震えてんぞ」
怖かったくせに虚勢を張るんじゃない。
それよりも何だったんだとパラディオンを見ると……さっきまで俺たちがいた地面に大きな手形の跡が。
目の前を通り過ぎたのはパラディオンの腕で……俺たちを叩き潰そうと。
後ろに下がるのが一瞬でも遅れていたら、今頃ペシャンコになっていたわけで。
「ちょ、ちょっとシュート。あれガチなやつだって!?」
「だよな!? あれマジで死ぬやつだろ!?」
実力を示せってんなら、鈴風の時みたいに好きに攻撃させろって!!
これじゃ殺す気満々じゃねーか。
「いいことシュート。絶対に近づいちゃ駄目だかんね」
「分かってるよ」
絶対に手や尻尾が届かない位置をキープしつつ、何をおいてもやることは一つ。
応援を呼ぶこと。
こうなったら総力戦で挑むしかない。
とはいっても、現状呼び出せるモンスターが殆どいない。
パラディオンの威圧により星4以下のモンスターが戦力にならないのは確認済み。
つまり戦力になるのは、星5かつ海中で行動できるモンスターのみ。
結果的にEセイレーンのセレン、Eカーバンクルの3リス、ラビットAの乗り物として活躍していたコールとここ数日共にしたモンスターのみということになる。
正直ジェット君が使えないのがかなり痛い。
移動制限をかけられたようなものだからな。
ともあれ無理を言っても仕方がない。
ひとまず俺はセレンと3リスを召喚。
それを見たパラディオンが予想外だったようで驚きを顕にする。
「モンスター召喚が駄目とは言わないよな?」
俺の実力を示せって話だったが、タイマンじゃないと駄目とは言ってない。
そもそもこれだって俺のスキルなんだから、文句を言われる筋合いはない。
「然り。それも貴様の実力であるからの……しかし、覚醒したセイレーンと覚醒したカーバンクルか。流石に少々驚かされたぞ」
「「へっ?」」
パラディオンのその言葉に俺とナビ子の方が驚く。
「えええっ!? セレンとチコたちって覚醒してるの!?」
「……えと。アタクシにも何のことやら」
ナビ子の言葉にセレンも困惑した様子で答える。
本人たちにも自覚はないようだ。
というか、セレンたちは星5。
覚醒って星6のことだよな?
非常に気になる発言だったが、今は戦闘中。
問いただす前にパラディオンの口が大きく開く。
――ブレス!?
そう思うやパラディオンの口から巨大な渦潮がこちらに向かって襲いかかってきた。
だからあんなの直撃したら死ぬっての!?
ジェット君がいない状況では避ける事もできない。
防御魔法を……と思った所で飛び出したのはクコ、チコ、リコの3リス。
3リスは3方に散らばり三角形の防御魔法を展開。
――――
プリズムエリア【光属性】レア度:☆☆☆☆☆
特級光魔法。
物体以外のあらゆるものを反射するフィールドを発生させる。
――――
効果自体は、ラビットAが鈴風との決闘でプリズムガードという三角柱の反射体を使用したが、それの平面タイプにした魔法。
ラビットAはプリズムガードを自分のソレイユを反射させるために使っていたが、本来は敵の攻撃を反射させるための魔法だ。
今回のプリズムエリアは頂点の場所を自由に設定できるので、プリズムガードよりも防御範囲は広い。
ただ各頂点に使用者がいる必要。
今回は3リスだったから三角形だったが、4人なら四角、5人なら五角形と発動に複数人必要となる、かなり特殊な魔法だ。
流石にこの強固な防御魔法にはパラディオンのブレスも弾かれた。
「ほぅ。やるではないか」
パラディオンが感嘆の声を上げる。
「ふふん。まぁな」
「シュートは何もしてないじゃない」
……そうだけどさ。
ちょっとくらいドヤ顔したっていいじゃない。
よし、ここから反撃開始。
俺は全員に指示を出す。
「クコたちはそのまま防御に徹して。セレンは遠距離から攻撃しつつ時間を稼いで!」
「かしこまりました」
「ねぇシュート。アタイは?」
「ナビ子は俺と一緒にセレンのサポート。遠距離からチクチクやるぞ」
「……セコいわねぇ」
「ほっとけ!」
どうせ俺に出来ることはそれくらいだよ。
どうやったって倒せるような戦闘力は持ち合わせてないんだから。
パラディオンを倒すのは、もちろんメインアタッカーであるラビットA。
俺たちが時間を稼いでいる間にラビットAがパラディオンを倒す……となるはずなのだが。
その肝心のラビットAは、鈴風が心配のようで、先程のパラディオンとの話し合いにも参加せず、ずっと鈴風の側にいる。
鈴風の方は……怪我は大丈夫そうだが、その場から動かず。
俺たちの戦いを複雑そうな表情で眺めていた。
ラビットAはそんな鈴風に先程のブレスの余波が来ないように防御魔法を使っている。
「ラビットA!」
俺が大声でラビットAを呼ぶとラビットAは俺と鈴風を交互に見てどうしようかとオロオロする。
「ウサコ。行きなさい」
「きゅぎゅかも一緒いこー」
「はっ。一緒に行った所で、どうしろと? 攻撃が通用しないわたくしでは、ただの役立たずではありませんか」
「きゅっても……」
「見なさいあの攻撃を。……わたくしには一切してこなかったくせに。まぁ一撃も与えることの出来なかったわたくしは舐められて当然ですが。舐めプでもトドメを刺してくれたことには感謝すべきなんでしょうかね?」
うわぁ面倒くさい。
完全にイジケてやがる。
パラディオンが戦士に敬意を……とか言ってたことも、俺に対してガチで攻撃してきたことで逆効果になってそうだし。
「きゅートから武器を借りればきゅぎゅかだって……」
「シュートから施しを受けるくらいなら死んだ方がマシです!」
死んだ方が……なんかマジでめっちゃ嫌われてるやん。
ただ……悔しいのか鈴風が武器を力いっぱい握りしめているのは、ここからでも分かった。
「きゅぎゅか……」
ラビットAは鈴風と俺を交互に見ながらオロオロしている。
ラビットAが参戦してくれないと負け確なんだが。
俺たちの時間稼ぎも長くは続かないんだから……早くしてくれ。




