第94話 世界の秘密
何故知識の書を運営に渡したのか?
その答えが、
――この世界に危機が迫っている。
こんな言葉が返ってくるなんて予想外もいいところ。
もはや『な、なんだってー!』とかネタに走る余裕すらない。
ただこの後に続く言葉には予想がつく。
「知識の書を持つ貴様には、世界の危機からこの世界を救ってもらう」
うん知ってた。
いやもうマジで厄介事じゃん。
パラディオンの説明によると、世界の危機を救うには最低でも世界の理を超えた能力――覚醒した力が必要とのこと。
世界の理を超える能力が必要な危機ってどんな危機よ。
マジで世界滅亡とかそんなレベルの話ってことだよな。
正直そんな危機をこの世界に来たばかりの俺に頼むなよ……とか、俺は勇者召喚されたんじゃないぞとか、すでに運営から世界を救ったから十分だろとか、この世界のことはこの世界の住人に任せろとか言いたいが、この世界の住人には世界の理の超える覚醒することができない。
覚醒できる可能性があるのは、俺より以前にこの世界にいた、ヤマトのような異世界からやってきた者たちのみ。
ただその異世界人が自力で覚醒できるかと言われれば……かなり難しい。
そこで神は覚醒の補助のため知識の書を与えることにした。
なら別に運営じゃなくて、当時この世界にいた異世界人……それこそヤマト辺りにでも知識の書を与えればいい。
だって知識の書を運営が手にしたのは俺がこの世界に来るよりも前。
世界の危機ってここ最近じゃなくて、その当時から危機だってことだろ。
今でこそ俺が知識の書を手に入れたけど、それは俺が条件のガチャコンプをしたからに過ぎない。
俺がいなかったら下手したら今も運営が持ち続けていた可能性だってある。
それなのにこの世界にいた異世界人に知識の書を与えず運営に与えた理由。
それは神は自身が創った世界に過度な干渉ができないからだそうだ。
そもそも神はこの世界とは別の……神々が住む世界がある。
神には下級神やら上級神やら階級があるようだが。
ある時、神の中でも最も偉い最高神は、上級神達に箱庭を与え、箱庭を育てるように命じた。
その箱庭こそがこの世界であり、地球であり……つまり上級神の数だけ異世界があるってわけだ。
最高神は箱庭を育てるにあたっていくつかのルールを設けた。
その一つが、世界の土台を創ったら、それ以降、自身の箱庭に過度な干渉は控えること。
過度な干渉でなければ問題ないらしい。
例えば、祈りを捧げた人に対してお告げを告げたりだとか、お供物してくれた人に祝福を与えたりとか。
でも流石に神の所有物である知識の書を与えるのは過度な干渉に入るようだ。
ちなみに干渉が禁止されているのは自身の箱庭だけ。
他人の箱庭への干渉は禁止されていない。
つまり、この世界の神の場合、日本への干渉は問題ないってことだ。
もちろん自分の箱庭に干渉されて気分がいいものではないので、それぞれの箱庭は自身でちゃんと管理をしなくてはならない。
「つまりアタイたちは神の箱庭育成ゲームの中ってこと?」
「ジャンルはクラフト系ゲームだな」
さしずめ神がプレーヤーで箱庭がゲーム。
俺たちはゲームの駒。
他の神からの妨害を防ぎながら自分の箱庭を育てていく感じかな。
まぁ分かりやすくゲームで例えたけど、俺をコントローラーで操作しているわけではない。
ならゲームっぽく管理されているだけで、伝承の世界創造となんら代わりない。
ちなみに地球に関して興味深い話も聞けた。
どうやら地球は神々にとって注目の箱庭だったらしい。
その理由が地球の箱庭が他の箱庭と比べて異質だった。
地球には他の全ての箱庭にある……魔素がないから。
数ある箱庭の中で地球だけ魔素が存在しないらしい。
魔素がない理由は世界樹がないからだが……地球を創った神は初期設定の時点で世界樹を植えなかった。
世界樹を植えなかったら魔素が発生しないことは当然ながら全ての神が知っていた。
当然地球の神も知っていて、箱庭と一緒に初期セットに入っていたらしいが、地球の神はそれを植えず。
まさかの縛りプレイで箱庭を育てていくことにした。
するとどうなるか。
他の箱庭はこの世界同様、魔素や魔法、魔物や人族以外の種族が存在。
一方地球では魔素がないから魔法も魔石も存在せず、人族以外の種族や魔物も存在しない。
日本で学んだ歴史通りの道を歩んだ。
ただ逆に地球だけしか存在しない物もできた。
それが科学。
この世界でもそうだが、魔素のある箱庭では文明レベルは地球で言うところの中世ヨーロッパどまり。
だって明かりが欲しかったらライト、火や水が欲しかったらファイアやウォーター。
魔法で補うことができるので、文明を発展させる必要がないんだ。
この世界では魔列車で魔道具の開発やここ50年くらいで一気に発展しているが、それは日本人だったヤマトがいたから。
ヤマトがいなかったら今もこの世界は魔列車はなかっただろう。
箱庭を発展させるなら文明の発展は必要不可欠。
神々は自分の箱庭にも科学を取り入れたい。
端的に言えば異世界転移で自分の箱庭に呼び込みたいと。
そのチャンスを狙って地球に注目していたと。
そしてこの世界の神はそれに成功した。
地球の神と、他の箱庭の目を掻い潜って日本に干渉し、そこで知識の書を運営に託した。
もっと遡れば、最初にヤマトをこの世界に送ったのも、この世界の神が地球に干渉したからなのかもしれない。
……なんだかなぁ。
俺は別にいいよ。
自分で望んでこの世界にいるから。
でも、ヤマトは日本に帰りたがっていた。
まぁこの世界に送った後は干渉出来ないのかもしれないが、駒である俺たちの感情のことまで考えてないだろ。
そう思うと会ったことはないヤマトが不憫に思えて。
そしてそれは知識の書を貰った俺にも言えることで。
俺の感情なんて気にせずに使命を果たせとなるんだろうなぁ。
そしてその肝心の使命……この世界の危機とは何か。
「ある邪悪な神がこの箱庭を害しようとしておる。貴様にはその邪悪なる神を追い払ってほしいのだ」




