第91話 鈴風VSパラディオン④
鈴風は奥の手だった起死回生を繰り出すも、結果は愛刀の静嵐刀が砕け散りパラディオンは無傷。
覚醒の壁を越えてダメージを与えることは適わなかった。
――完全に勝負が決したな。
起死回生に全力を出した鈴風にこれ以上戦う力は残ってないはず。
それにパラディオンを傷つけることは出来なかったとはいえ、その威力はパラディオンすら見事と賞賛する程。
これで十分。
もう終わってもだろう……俺はそう思った。
――なのに何故。
何故パラディオンは腕を大きく振り上げているんだ?
何故鈴風は新たな武器を取り出しているんだ?
パラディオンが振り上げた腕を鈴風に向かって薙ぎ払う。
鈴風は取り出した武器でガードするが、限界だった体力で踏ん張れるはずもなく。
パラディオンの一撃で鈴風が吹っ飛んだ。
鈴風は何度も地面に叩きつけられながら壁にぶつかり。
ちょっマジでヤバイ!?
「きゅぎゅかー!!」
俺より先にラビットAがいち早く飛び出す。
俺も慌てて鈴風へ駆け寄る。
「きゅぎゅか!?」
「……そんなに叫ばずとも、こんなのただのかすり傷です」
一応、意識はあるようでホッとする。
最悪なことにさえなってなければ、魔法でも回復薬でも……回復薬は水の中じゃ飲めないから魔法でしか無理か。
とにかく怪我ならどうとでもなる。
「ちょっとジッとしてろ」
そう言って俺はハイヒールのカードを取り出す。
――バシン
鈴風に手を叩かれ、持っていたカードを落とす。
「んなっ!? なにす……」
「かすり傷だと言っているではないですか。必要ありません」
「あんな吹っ飛び方してかすり傷なわけないだろ!?」
「そーよそーよ。あんなバトル漫画みたいな吹っ飛び方して!」
ナビ子が余計なことを言っているが、確かにバトル漫画でズガガガとか擬音が大きく書かれていそうな吹っ飛び方をしていた。
それがかすり傷で済むはずないだろ。
「見た目は派手だったでしょうが、武器で直撃は避けましたし、ムサシがいましたから」
「ムサシが?」
「……ござる」
鈴風の影からムサシの姿が現れる。
どうやら鈴風を防御魔法とかでサポートしていたようだ。
「……奇しくもあの守護竜の言葉はすべて真実だったようですね」
そう言いながら鈴風はパラディオンを睨む。
その視線につられるように俺もパラディオンの方を見ると、パラディオンは鈴風を薙ぎ払った状態のまま、自分の腕を見て驚いた表情をしていた。
パラディオンの腕には手裏剣が突き刺さって……突き刺さる!?
「反射されてない!?」
パラディオンの腕に手裏剣が刺さっているってことは、手裏剣の一撃は無効化されていないことになる。
……もしかしてパラディオンのスキルで無効化するのは近接攻撃だけで投擲武器とかは無効化されない?
いやいや、パラディオンも驚いていることから、それは違うだろう。
あの手裏剣は俺がムサシにあげたものだ。
……あげたというか、半ば無理やりだったけど。
先日のダイオウイカとの戦いでラビットファイアを禁止されていたので、咄嗟に手裏剣を作ったのだが、手裏剣ってことでムサシが欲しがったんだよなぁ。
まぁムサシが自己主張することは滅多にないし、喜んでくれるなら別に構わなかったけど。
その手裏剣がパラディオンに刺さっているということは理由は一つ。
「ムサシが覚醒している!?」
「そうではないでござる」
……違うらしい。
「あの手裏剣はシュートが合成して作ったもの」
鈴風がそう言ったことでようやく理解した。
覚醒している俺が作った武器だから、武器にも覚醒の能力が備わっている。
そういうことのようだ。
だから鈴風はパラディオンの言葉が真実だと。
俺だったらパラディオンにダメージを与えられると。
それをハッキリと見せつけられた。
……俺の手を叩いて回復を拒否したのもこれが原因か。
――いくら努力しても才能には敵わない。
思わず拒絶をしてしまったのだろう。
「……すいません。しばらく一人にさせて下さい」
「……分かった。ムサシ、回復系のカードを渡しておくから、怪我がヤバそうなら使ってくれ」
「かたじけないでござる」
ここに俺がいても逆効果になるだけと思い、ムサシにカードを託して俺は鈴風から離れる。
……どちらにせよパラディオンと話をしなくてはならないからな。
起死回生の時の尻尾での一撃は理解できるが、最後の一撃は完全に余計な一撃だった。
鈴風が武器を取り出したのは、パラディオンが腕を振り上げた後。
おそらくパラディオンに攻撃の意思がなければ鈴風だって武器を出さなかったと思う。
だから最後の攻撃の真意。
それを問いただすべく、俺はパラディオンの元へ向かった。




