第90話 鈴風VSパラディオン③
鈴風の日本での生活で何があったのか。
そして現在どんな思いで通用しない攻撃を繰り広げているのか。
ラビットAから話を聞いて鈴風にも思うところはあるだろうが。
ぶっちゃけ言いたいことはたくさんある。
まずもって無闇矢鱈に攻撃を仕掛けるんじゃない。
結局のところ努力云々以前にバトルジャンキーが自分から攻撃を仕掛けて勝てなかったから醜い言い訳しているだけじゃねーかとか。
努力はしただろうけど、鈴風だって十分チートのスキルを持っているんだから、他人から見たら十分才能がーって言われる立場だろうが! とか。
そして何より一番言いたいことは、俺が努力していないように思われていたこと。
俺だって十分に努力はしているんだよ!!
ただそれは鈴風のように強くなるために……戦闘に特化した努力ではない。
俺の生きがいでもあるカード集め……コレクターに特化した努力だ。
それを別にそれほど興味がある訳では無い戦闘面にやる気が無いからと努力していないように思われているのは心外だ。
コレクションを集めるためなら俺はいくらだって努力はするし、その努力だけは誰にも負けているとは思わない。
そして肝心の覚醒だが……俺には全く覚えがないが、仮に俺がコレクターとして努力した際に覚醒したのであれば、それを才能の一言で終わらせてもらいたくはない。
「ってことで、要するに努力の方向性が違うってだけの話なんだ」
「きゅるほど」
ラビットAが頷く。
どちらかと言えば鈴風寄りのラビットAだったが、どうやら理解してくれたみたいだ。
「まぁカード集めのために努力するって正直どうよって話もあるけどね」
「余計なことは言わんでよろし」
ほっとけ。
趣味に命かけて何が悪い。
「にしても……これ、いつまでやるんだろうな」
「アンタね……飽きてるんじゃないわよ!」
「いや、だってさぁ。これって鈴風が諦めるまで続くってことだろ?」
もしパラディオンが鈴風と戦おうとしていたのであれば、俺だって止めようと……俺が止めることが出来るかどうかは別として、いつでも間に入れるように準備しようとはしたさ。
でも、現状パラディオンに鈴風と戦う意思はなさそうだし、鈴風も単調な攻撃を繰り返しているだけ。
そりゃ飽きもするだろ。
だがそう思っていたのは俺だけではなかったようで。
「小娘。効かぬのは分かったであろう。いい加減しつこいぞ」
そう言うとパラディオンは体を反らし、鈴風の一撃は初めて反射されずに空を切る。
当然今回も反射されると思ってたようで、鈴風は空を切った静嵐刀に振り回されるように体制を崩す。
たとえ空振ったとしても体制を崩すなんて普段の鈴風ならありえない凡ミス。
そこにパラディオンの尻尾が鈴風に襲いかかる。
「ちょっ!? すず……」
危ない!?
そう叫ぼうとした瞬間、鈴風が不敵に笑う。
「ふっこの時を待っていました」
体制を崩したかと思った鈴風は直ぐ様体制を整え、静嵐刀を上段に構え……。
「かあああああああつ!!」
襲いかかってくる尻尾に思いっきり振り下ろし。
静嵐刀と尻尾が衝突という所で激しい爆発。
吹き飛ばされそうな爆風が離れている俺達のところにも……。
「うわっ!?」
「ひゃああああ!?」
「きゅぴえっ!?」
咄嗟に俺は腕で顔をガードしながら爆風を凌ぐ。
ナビ子は俺のポケットの中に隠れ、ラビットAは吹き飛ばされないように俺の足にしがみつく。
俺も吹き飛ばされないように何とか踏ん張りながら数秒。
「きゅート。だいじょぶー?」
爆風は収まってからラビットAが心配そうに声をかける。
その声に、もしかしたらラビットAは吹き飛ばされそうだから俺にしがみついたんじゃなくて、俺が吹き飛ばされないようにしてくれてたんだと。
「ああ。お陰様でな」
「きゅみぃ」
ラビットAを撫でながら俺が礼を言うとラビットAは照れながら俺から離れる。
「それで……結局どうなったんだ?」
鈴風とパラディオンの居た場所は土煙で何も見えないんだが。
……濁った海水も土煙って言っていいんだろうか?
などとどうでもいいことを考えながら二人の姿が見えるのを待つ。
「なぁ。さっきのって起死回生だよな?」
「それしかないでしょ」
鈴風のスキルである武芸百般。
そのレベル3の能力である、戦闘中に力を蓄える虎視眈々。
その力を一気に開放するレベル4の起死回生。
鈴風の奥の手でもある起死回生ならあの威力を出せても不思議ではない。
「でも虎視眈々って攻撃を受けないと力が溜まらないんじゃなかったっけ?」
確か虎視眈々の正式な能力はチャンスに備えて相手の攻撃を耐えながら力を蓄える、だったはず。
パラディオンは最後の一撃しか攻撃してないから開放する力が溜まってないんじゃ?
「攻撃はいっぱい受けてたでしょ……反射で」
「あ~確かに」
確かに反射は攻撃を受けたと言えなくもないけど……あれって自分の攻撃をそのまま反射しているわけで。
その力を溜めるとか完全なマッチポンプなわけで。
「もしかして鈴風って最初からこれを狙っていた?」
「かもね」
我を忘れているふりをして力を蓄え、しびれを切らしたパラディオンの一撃をカウンターで起死回生を放つ。
この時を待っていたとか言ってたし、最初からじゃなかったとしても先手必勝が効かなかった時点でこれを狙っていた可能性が高い。
「ってことは、さっきのラビットAの話はただの勘違いってこと?」
だって我を忘れてたわけじゃないんだし。
「きゅれぇ?」
あれぇじゃない!
まぁラビットAはラビットAで自分の知っていることから判断しただけ。
それに……あながち間違いでもないかもしれないし。
「きゅい! 見えてきた!」
ラビットAが誤魔化すように正面を指す。
確かに土煙から巨大な竜の影と人の影。
「……小娘よ。見事な一撃であった」
「……それは皮肉ですか?」
「そうではない。貴様がもし覚醒しておれば……今頃、我の尾は無くなっていたであろうな」
現れた鈴風の手には静嵐刀はなく、無傷のパラディオンがそこにいた。




