第89話 鈴風VSパラディオン②
大変おまたせしました。
更新を再開します。
前回までの簡単なあらすじ
ネレイドの女王と共に海竜の元へと向かったシュート一行。
そこで聞いた話は海竜はただの竜ではなく神の守護竜パラディオンであるということ。
そのパラディオンに会って知識の書を見せるシュート。
その時突然鈴風がパラディオンに向かって宣戦布告。
だがパラディオンは鈴風の攻撃は一切効かないと答える。
その挑発に鈴風は攻撃を仕掛け……鈴風の武器は粉々に砕け散った。
――我に傷を付けることは叶わぬ。
その言葉通り、鈴風の先手必勝を受けたにも関わらず、パラディオンは無傷。
それどころか鈴風の持っていた海鳴刀が刀身だけでなく全て粉々に。
「おいおい。嘘だろ」
その衝撃的な光景に俺は驚きを隠せなかった。
今まで鈴風の先手必勝は、博物館で見たブラックドラゴンや、海の巨大モンスターなど、数々のモンスターを瞬殺してきた。
それを無傷って……逆に武器を破壊するなんて。
正直なところ、パラディオンが神の守護竜だということは疑ってはいない。
だからといって本当に鈴風の攻撃を受け付けさえしないと誰が予想できただろうか。
「どうだ小娘。貴様では我に傷つけることが叶わぬと理解できたか?」
「っ!?」
鈴風の一撃を受けて平然と答えるパラディオン。
そして、それを受けて一歩下がる鈴風。
「……どうやら口に出したのは間違いだったようです」
腕を切り落とすと言ったから、腕に防御を集中させて防いだと鈴風は言いたいらしい。
――果たしてそうなのだろうか?
それなら海鳴刀が粉々にはならないんじゃないか?
刀身が折れるだけなら理解できるが、柄まで粉々になっているんだぞ。
どのように当たればそんな風になるのか。
鈴風はまだやる気のようで、次の武器――静嵐刀を取り出す。
今までは海中だったから海鳴刀を使用していたが、鈴風が一番使い慣れている愛刀はこの静嵐刀だ。
先手必勝は一回しか使えないため、今度は普通に攻撃を仕掛ける。
普通に……とは言ってもあくまで鈴風の普通。
俺じゃ水のない地上ですら追いつかない……それどころか、目で追うのがやっとってレベルの攻撃だ。
この一撃に対してパラディオンは避けるでもなくガードするでもなく。
それどころか魔力を練っている様子もなく、先ほど同様微動だにせず。
――ガキンッ
それでも鈴風の一撃は大きく弾かれた。
流石に今度は武器が壊れることはなかったが、まるで刃物で打ち合ったかのような音を立てはじき返されていた。
そしてやはりパラディオンの身体には傷一つなく。
「くっ!? まだまだあああ!!」
鈴風はそう叫びながら何度も攻撃を繰り返す。
が、先手必勝も次の一手も効かなかったのだ。
無駄に攻撃を繰り出しても、当然ながらその全てが弾かれている。
「ねぇシュート。あの鈴風の攻撃って守護竜に当たってないよね?」
ポケットから顔を出していたナビ子が言う。
鈴風の攻撃が……当たってない?
「……俺には当たっているようにしか見えないが?」
「もっとよく見てよ!? 体に当たる直前……数ミリくらいの所で弾かれてんの!」
いや数ミリて……この距離で数ミリが分かるわけないだろと。
なので俺は一枚のカードを取り出す。
――――
サーチアイ【無属性】レア度:☆
初級無属性魔法。
遠くのものがよく見えるようになる。
――――
簡単に言えばカメラのズーム機能のような魔法。
流石にあまり遠くの方までは見れないが……この距離なら全然問題ない。
俺は目を凝らして静嵐刀とパラディオンの衝突部分を観察してみる。
「……本当だ」
確かにナビ子の言う通り、鈴風の攻撃がパラディオンの身体に当たる前に見えない何かによって弾かれている。
「あれが無効化の秘密か?」
「だと思うよ。守護竜の表面をライファスキンみたいな透明なのが覆っていて、それがバリアみたいになってんのよ」
ライファスキンの魔法は表面に薄い膜を張ることであらゆる環境下で生活できるというもの。
「なるほど。そのライファスキンに似たような膜がバリアみたいになって鈴風の攻撃を無効化しているのか」
「無効化というか……ただ無効化するだけじゃ鈴風の武器が粉々になったりしないでしょ」
「そりゃそうだな」
俺も思ったが、折れるのは理解できるが粉々になるのはただの無効化では無理がある。
「じゃあ触ったら武器が粉々になるバリア?」
「だったら静嵐刀も粉々になるはずでしょ」
「そっか」
確かに二撃目以降の攻撃では粉々にはなっていない。
「だから……あれ、ただの無効化じゃなく、攻撃をそのまま反射してるんだと思う。最初の武器が粉々になっちゃったのは、先手必勝の威力が凄すぎて武器が耐えきれなかったんでしょうね」
反射……確かに同じような刃物で打ち合ったかのような音を立てているとは思ったけど。
今は弾かれるだけで済んでいるのは先手必勝ほどの威力がないからか。
「ってか、どんな威力をしてたら粉々になるんだよ!?」
「ねっ。本当、鈴風の一撃ってヤバいよね」
ただそんな鈴風の一撃も直接当たらなければ意味がない。
「あれが覚醒してないと攻撃が効かないって言ってた理由だよな」
「そうだろうね。だからシュートの攻撃はあのバリアを無視するんじゃない?」
……そういうことになるのだろうか?
「あれって何なんだろうな」
「そりゃあの守護竜のスキルでしょうよ」
ああうん。
そりゃスキルに間違いはないんだろうけど、そのスキルは能力は何なんだって話で。
「シュートが封印しているスキルにもそんなスキルないよね?」
「あったら覚醒の意味も分かってるっての」
こちとらまだ覚醒の意味すら分かってないんだ。
運営男から強奪した100以上のスキルの中には、運営男が実際に使っていた完全防御という似たようなスキルがある。
まぁあれは反射じゃなくただの無効化だったけど。
それに完全防御は魔法やスキルが無効になるだけで、物理攻撃が無効になるわけではなかった。
しかも登録のために一度は攻撃を受けないといけない。
まぁ運営男は俺達のデータを使って登録していたみたいだけど。
「とにかく覚醒の意味が分からんと対策の立てようがないな」
「でもシュートは覚醒してるんでしょ?」
「……そうらしい」
俺には全く自覚はないけど。
「そんでもって鈴風は覚醒してない……逆なら納得だけどね」
「同感」
単純な戦闘能力じゃ俺と鈴風じゃ比べ物にならない。
ってことは、覚醒は戦闘能力とは関係ない。
「俺にはあって鈴風にはないもの……何だ?」
「考えられるのはスキル……よねぇ」
「スキル……でも、俺はラビットAみたいに覚醒スキルなんか持ってないぞ」
「そのラビットAってシュートのカードでしょ」
ふむ。
俺のカードが覚醒スキルを持っているから俺も覚醒者だと。
「う~ん。やっぱ違うと思うぞ」
「そうよね~」
自分で言っておきながらナビ子も違うとは思っていたようだ。
「じゃあ別のスキルが覚醒扱いされてるとか、所持スキルの数とか……あっ例の知識の書の所持者だからとか?」
なるほど……知識の書の有無か。
「いや、知識の書は関係ないだろ」
「どうして?」
「だってそれだとこの世界で俺だけしか覚醒できないってことになる」
「一応なんちゃって神の御使いだから、その可能性もあるんじゃない?」
なんちゃっては余計だっての。
……神の御使いも余計だっての!?
「パラディオンは鈴風を鑑定した後、覚醒していないと言ったんだ。知識の書が条件なら、パラディオンがわざわざ鈴風が覚醒しているか確認する必要がないだろ」
あの時パラディオンは女王から鈴風が日本人だと聞いた後に鈴風を鑑定している。
鈴風が嫌悪感を出していたので、そこは間違いない。
その後でパラディオンは鈴風が覚醒していないと言った。
もし知識の書が覚醒の条件だとしたら、鑑定するまでもなく覚醒していないと分かっていたはず。
「あっ、そっか」
「だから……もし仮に知識の書が覚醒の条件だとしても、それ以外にも覚醒者になる条件があるはずなんだ」
「……それってさ。ここで話してても分かりっこなくない? 仮に分かったとしても、それを鈴風に伝えられる?」
「それは……無理だろうけど」
ここで話していた所で結局は仮説の域を出ない。
それに仮に覚醒の条件が確定したとして、じゃあそれで鈴風がすぐに覚醒できるかと言えば、それはまた別の話になる。
「というか鈴風は攻撃が届いてないことに気づいてない?」
「ああやって何かヒントを見つけようとしている可能性はあるけど……あの様子だと気づいてないよね」
今も鈴風はパラディオンに届かない攻撃を続けている。
よく一点集中で同じ場所を何度も攻撃したら硬い防御も打ち破れる……みたいな話もあるけれど。
『まだまだあああ!!』とか『やああ!!』とか叫びながら攻撃している今の鈴風の姿は、何も考えずにただがむしゃらに攻撃しているようにしか見えない。
多分、攻撃が届いてないだけじゃなく、自分の攻撃をそのまま反射していることにすら気づいてないんじゃないか?
「……あんな鈴風、初めて見る」
巨大モンスターとの修行で、戦闘の時はテンパらない。
ピンチの時こそ冷静にと俺は鈴風から教わった。
それがどうだ。
あんなに感情をあらわにして。
ガチギレというか、完全に我を忘れている。
「なんであんなにムキになっているんだ?」
そんなに無効化されたことに腹が立ったのか?
「仕掛ける前まではいつもと同じだったよね?」
「ああ……体よく誤魔化されたけど」
あの宣戦布告だって、いつものバトルジャンキーっぷりを考えたらいつも通りだと思う。
おかしいと気づいたのは先手必勝が効かなかったタイミング。
先手必勝が効かなかったからキレた?
武器を壊されたからキレた?
……本当にそうか?
大事な武器が破壊されたのは確かにキレるかもしれないが、いつもの鈴風だったらそれを踏まえても、先手必勝が効かなかった時点で防御に集中していたからなんて安易な結論はしなかったはず。
だから……やはり先手必勝前から冷静じゃなかったんじゃ。
宣戦布告をしてから攻撃をする前に冷静じゃなくなった?
「案外シュートより弱いと言われて怒ってたんじゃない?」
「いやいやそんなバカなこと……」
第一俺より弱いとは誰も言ってないし。
ただ俺の攻撃は通用して鈴風の攻撃は通用しないと言われただけ……それで本当に俺よりも弱いと思ったと?
「きゅーなの。きゅぎゅかはきゅートより弱いって言われて怒ったの」
「「ラビットA?」」
今まで黙って聞いていたラビットAが突然口を開く。
……まぁ黙っていろって言ったのは俺だけど。
ってか、そんな冗談に乗らなくても……と言いかけたが思いとどまる。
ラビットAがいつもの冗談を言ってるときの顔ではなく、真剣な表情をしていたからだ。
「きゅぎゅかはねー。いっぱーいっぱー頑張ってきたの」
「鈴風が頑張ってきたのは知ってるけど……」
俺だって鈴風が努力してきたことはちゃんと分かってる。
強力なスキルは持っているが、それだけであれだけ強くはならない。
ちゃんとスキルを使いこなすための努力や実戦経験も詰んでいた。
だがそんな俺にラビットAは首を振る。
「シュートは何も分かってなーもー」
「いやだから鈴風が努力してきたことは分かってるって」
「きゅートが思ってるよりも!! きゅぎゅかはもっともーっといっぱー頑張ってるの!!」
ラビットAが声を荒らげて答える。
……俺が考えているよりずっと頑張っている?
「ってか、何でそれをラビットAが?」
「ラビットAと鈴風ってアタイたちの居ないときもずっと一緒にいたから」
そういや無人島探索とか俺が居ない場所でも一緒に行動していたな。
馬が合うというか俺よりも鈴風と仲が良かったのは事実だし、そう考えると俺よりも鈴風のことを知っているのかもしれない。
「きゅぎゅかはね。努力は報われなーっていっつも言ってたの。だからこの世界に来て良かったってー」
「……それって日本に居た頃の話か?」
「きゅい!」
そうだとラビットAは頷く。
日本に居た頃の鈴風のことは何一つ聞いたことはない。
それどころか俺の中では男だったのでは疑惑すらある。
……言えないけどさ。
ラビットAはそんな鈴風の日本の生活も聞いたことがあるようだ。
「こっちの世界はスキルがあるから努力したらその分報われるーって。よわーなスキルだって努力で強くなるし、スキルを持ってなくても努力でスキルも手に入るって。さいのーよりも努力だって。だからきゅぎゅかはいっぱー、すっごーいっぱー努力して強くなったの」
才能よりも努力。
鈴風自身が疾風迅雷というチートなスキルを持っているから才能を持っている側ではあるだろうが、努力しなければ疾風迅雷をマスターなんてできないし、ましてや武芸百般なんてスキルを新たに得たりはできない。
それに仮に鈴風が疾風迅雷を持たずにこの世界に来たのなら……それでも鈴風なら何とかできたと。
それだけ努力していたと言いたいのだろう。
「だからきゅぎゅかはきゅートが嫌いだって」
「はぁ!?」
どうしてそうなる!?
ってか俺嫌われてたの?
全然気づかなかったんだけど……。
まぁ若干当たりは強いところもあったけど、話せば答えてくれるし多少の冗談だって言い合える。
関係的には良好だと思っていたから地味にショックなんだけど。
「きゅートもいっぱー頑張ればすっごー強くなるのに、逃げてばっかーだって」
……ああ、そういう。
カード化スキルを所持したこの世界に初めてやってきたプレーヤー。
きっと自分に負けず劣らず強いと思っていたのだろう。
それなのに俺は最初から鈴風に勝てないと勝負から逃げてた。
海中に入ってからも修行から逃げようとしたし……。
俺が嫌いというより俺のスタンスが嫌いってことか。
――努力は報われない。
日本に居た頃の鈴風に何があったか知らないが……鈴風にとっては俺はカード化というチートスキルに頼って努力をしない男に写っていたのかもしれない。
「だからきゅぎゅかはあのドラゴンの言葉にすっごー怒ったの!」
パラディオンが自分の攻撃を無効化できたとして。
仮にそれで自分が負けたとしても。
それなら自分の努力が足らなかったから仕方なかったで納得した。
だが、今回パラディオンは俺だったら攻撃が通じると言った,
それに鈴風は腹を立てた。
自分はシュートよりも何倍も努力した。
なのにろくに努力もしていないシュートの攻撃は通じて自分の攻撃は通じない。
覚醒が何なのか分からないが、結局この世界もどれだけ努力しても、結局は才能が全てなのかと。
ラビットAの言いたいことはそういうことらしい。
俺は鈴風とパラディオンの戦いをじっくりと観察する。
相変わらず鈴風が静嵐刀で攻撃を仕掛けて、それをパラディオンが防御姿勢すらせずに反射するという戦いと言うにはお粗末な内容。
ただラビットAの話を聞いた後なら今の鈴風の行動の意味がわかる。
――もう勝ち負けじゃないんだ。
たとえ負けたとしても、正攻法でパラディオンにダメージを与えなければ。
ここで引いて……もし本当に俺の攻撃が効いたら。
本当に才能が全て。
今までの自分の努力は何だったのかと。
そうなってしまうから。
鈴風が鈴風であるために。
そのプライドのために鈴風は一撃を入れるまでパラディオンに攻撃を
し続けるのだろう。
本当にお待たせして申し訳ございません。
活動報告には書かせていただいていたのですが、引っ越しやら仕事が忙しくて時間が取れませんでした。
これからはまた週1~2更新で投稿予定ですので、よろしければ引き続きお読みいただけますと幸いです。




