第88話 守護竜パラディオン
「パラディオン様。わたくしです。エライネです!」
女王が神殿に向かって声が掛ける。
すると、その声を待ち構えていたかのように、神殿の中から出てくる一体の竜。
海竜のイメージとしては、シードレイクのような首長竜型か、シーサーペントのような海蛇型の二種類が思い浮かぶ。
そして目の前の守護竜はと言えば以外や以外、普通のドラゴン……クリムゾンドラゴンのグリムと似たような見た目だった。
違いは色。
真紅のグリムとは正反対の……紺碧とでも言うんだろうか、深い青色。
そして空を飛ばないからか翼が泳ぎやすそうな水中仕様に。
後は……存在感。
グリムの時にも存在感に感動を覚えた。
こんなにも圧倒的な生物が存在したのかと。
ただ目の前の守護竜はそれ以上。
威圧抜きにしても生物としての格が違うと。
現れた守護竜は女王の顔を見るや破顔する。
「おおっエライネではないか!」
「パラディオン様。突然お伺いして、誠に申し訳なく」
「よいよい。エライネであれば毎日来ても構わぬのだぞ」
おおう。
神の守護竜とか言うもんだから、もっと仰々しい感じかと思ったが、想像以上に気さくで驚いた。
「……なんか予想外の反応ね」
ポケットからピョコッと顔を出して呟くナビ子。
……お前はそんなツッコミをしている場合じゃないだろ。
「ナビ子。体調大丈夫なのか?」
「うん。少し落ち着いてきたから」
そう言われてみれば、俺もさっきよりは落ち着いた気がする。
正直なところ、守護竜の姿を見たら、広場に到着した以上の圧を感じるんじゃないかと思って覚悟はしていたんだけど。
これはライファスキンの効果で適応し始めたのか、それとも……。
「でもあれじゃあ圧も失くなるかもね」
「……かもな」
今も守護竜と女王が和やかに話している。
「今日はエレーネは来ておらぬのか?」
「はい。エレーネには留守を任せております」
「ふむぅ。残念だのう」
あれじゃあ孫かわいいとか思っている祖父のようだ。
……ただ、それが俺たちに向けられるとは限らない。
「してエライネよ。どうやら別の客がおるようだが……」
ここで初めて守護竜が俺たちの方を向く。
圧こそ変わらないが、やはりと言うか俺たちに向けられる視線には、女王に向けられたような優しげな雰囲気は感じられない。
「パラディオン様。こちら方はシュート様です。シュート様は、以前パラディオン様が仰られていた、知識の書の所有者……神の御使い様なのです」
「……ほぅ」
女王の言葉を聞きパラディオンの目が鋭くなる。
「ここまで来ることが出来るのであれば、相応の実力は持っておるようであるが……どれ」
まるで心の奥底まで見られているような感覚。
あっこれ、鑑定を何か受けているかも。
一応星4の妨害スキル『シャットダウン』が常時発動中だけど、相手が神の守護竜ならば意味ないに違いない。
「……まだ微弱であるが、覚醒はしているようであるな」
……覚醒?
どういう意味だ?
覚醒と聞いて真っ先に思い浮かんだのはラビットAのスキル。
「シュート。アンタいつ覚醒スキルなんて取得したの?」
「いや、持ってないから」
どうやらナビ子も同じことを思った様子。
「きゅう? シュートもウサギなる?」
「だから持ってないんだって」
そもそも覚醒はウサギになるスキルじゃなく、大人になるスキルだろうに。
ともあれパラディオンの言った覚醒の意味は分からないまま。
……これ、聞いてもいいものだろうか?
「小僧。知識の書を見せてみよ」
俺が迷っている内に、パラディオンの方が先に口を開く。
……小僧。
まぁこの人から見れば俺なんて小僧なんだろうけどさ。
「……わかりました」
敵対はしたくないから、ここで見せない選択肢はない。
まぁ確認した結果、どうなるか分からないけど。
もちろん、確認後に本物の知識の書だから返せと言われやら、敵対したとしても断固として拒否するけど。
カード化さえ解除しなければ、返還でいつでも取り返せるし。
俺は女王に見せたとき同様、万が一でも対処しやすいように、一番影響のないアイテム図鑑を見せることにする。
ただあの巨体でどうやって図鑑を確認するのか。
下手に触って壊されたくないんだけど。
そう思いながら俺がアイテム図鑑を取り出すと、アイテム図鑑が俺の手から離れ、パラディオンの前まで飛んでいく。
そしてパラディオンの前で勝手にページが開いていく。
「まるで超能力ね」
本当それ。
今までスキルや魔法はいくらでも見てきたけど、こんな超能力みたいな能力は初めて見る。
「ふむ。知識の書に間違いはないようだ」
そして神の守護竜にまで本物認定。
パラディオンは確認したアイテム図鑑をこちらへ返す。
よかった。何事もなく戻ってきた。
「残りは?」
「えっ?」
「全部で五冊あったはずだが?」
……全部知ってるのか。
残りはモンスター図鑑と魔法図鑑とスキル図鑑とアクセサリー図鑑。
「……全部確認するんですか?」
「安心せい。別に取り上げたりはせぬ」
俺の懸念を感じたのかパラディオンはそう言った。
……仕方ないか。
俺は残りの図鑑を見せようと準備を始める。
――その間を狙ったように俺の前に出る鈴風。
鈴風は俺の前に出るやパラディオンに向かってこう言った。
「守護竜パラディオン。わたくしと仕合なさい!」




