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第87話 楽園の真実④

 俺たちがこれから会う海竜はただの海竜ではなく、この世界を創造した女神が神殿を守るために遣わした守護者と暴露した女王。

 今さらそんな爆弾発言を聞いてもどうすることもできず。


 目の前の洞窟の出口を見て、トンネルを抜けるとそこは……なんて、昨日も同じこと考えたっけなどと、どうでもいいことが頭によぎる。

 昨日は洞窟を抜けた先は美しき海底楽園だった。


 では今回は……なんて考える余裕は一瞬でなくなる。


 ――あっこれアカンやつ。

 洞窟を抜けて一歩で女王の話していたことは事実だったんだなと確信。

 洞窟内で受けていた以上の圧が俺たちに襲いかかる。


「きゃふん!?」


 何とも可愛らしい悲鳴がポケットの中から聞こえる。

 ポケットの中を確認すると、完全に圧に当てられたナビ子がばたんきゅー状態。


「お、おいナビ子。大丈夫か!?」

「ちょ、ちょっとこ、これは流石に反則じゃない?」


 良かった。どうやら減らず口を叩く余裕はある様子。

 でも減らず口は叩いても、強がる余裕はないようだ。

 ……流石にこのままなのは肉体的にも身体的にも厳しいだろう。


「一旦カードの中に戻るか?」

「……ううん。戻ったら終わるまで出てこれないだろうから、このままでいい」


 ばたんきゅー状態にも関わらず、カードに戻ることを拒否するナビ子。

 確かに今ここでカードに戻った場合、次にナビ子を呼び出すのはこの場から離れてからだろう。


「でも、しんどくないか?」

「しんどいけど……でもアタイも海竜? 守護者? もう守護竜でいいよね。守護竜見たいもん」

「見たいもんって……今にも倒れそうなくせに」


 呆れるというか何というか。


「でも、こんな機会二度とないよ。コレクターのシュートならこの気持ち理解できるんじゃない?」


 うう……確かに痛いほど気持ちがわかる。

 もし守護竜がカードにできるなら……いや、カードに出来なくてもアナライズだけ、それが叶わないならせめて一目だけでもお目にかかれるのであれば、体調なんて気にしてられない。


「それに……アタイはシュートの相棒だから」


 ……そう言われちゃ何も言えない。

 守護竜なんてとんでもないのが相手だから何が起こるか分かったものじゃない時に、相棒が一人のんびりカードの中になんていられないか。


「それよりもシュートの方は大丈夫なの?」

「……少なくともナビ子よりは平気だよ」

「ふ~ん」


 俺は平然を装って答えたが、ナビ子にはお見通し。

 かくいう俺も実際には余裕なんて全くない。


 流石にその場でばたんきゅーなんてことはないし、動けなくもない。

 身体強化の魔法でも使えば、通常通りにも動けると思う。

 だが、動悸が激しい。顔や体中から冷や汗が止まらない。

 幸い水中ということもあり、冷や汗は隠せるし、表に出ることはない。

 女王や鈴風には気づかれてないとは思う。


 そういえば鈴風とラビットAは?

 まぁ二人のことだから心配はいらないだろうけど。


「ラビットA、大丈夫か?」

「きゅるる……だいじょぶー」


 ブルッと悪寒が走ったかのように身体を震わせるラビットA。

 うん、かわいい……じゃなくて。

 流石にさっきと同じように全然平気ってわけじゃなさそうだけど、動くのには問題なさそう。

 それこそ洞窟に入ったときの俺と似たような状況なのだろう。

 ……こうやってラビットAとの差をハッキリと見せつけられると分かっていても凹むよなぁ。


 そしてさらに俺を凹ませるであろう鈴風はと言えば。


「ひぇっ!?」

「きゅぴゃっ!?」


 俺とラビットAは同時に小さく悲鳴を上げる。

 何故なら鈴風が……笑っていたから。

 それも今まで見たこともないような笑顔を。

 例えばそう……新世界の神が計画通りとか言ってそうな。

 まさに邪悪な笑みという言葉がピッタリの恐ろしい笑みを浮かべていた。


「あ、あの~鈴風さん?」

「きゅ、きゅぎゅか? こわー。顔こわー!?」


 俺とラビットAはガチで引きながら、恐る恐る鈴風に声をかける。

 だが俺たちの声が聞こえていないのか、鈴風は返事をせず、代わりにクククと含み笑いする。


「これが守護竜のプレッシャー。ただそこに存在しているだけでここまで……素晴らしい」

「おまっ!? まさか守護竜と戦おうとか思ってないよな!? 約束しただろ。いきなり襲ったりしたら絶対に駄目だぞ!」


 相手はただの海竜じゃないんだ。

 神の守護竜なんだ。本当に分かってるのか?

 俺がそう言うと、鈴風は俺を見て……。


「……チッ」


 舌打ちしやがった。


「シュートはわたくしを辻斬りや殺人鬼と勘違いしてるのではありませんか?」


 辻斬りや殺人鬼とは思ってねーけど、バトルジャンキーとは思ってるよ!!


「とにかく、何度も言わずとも分かっております」


 不貞腐れながら答える鈴風。

 それ絶対分かってない奴の態度だからな。


 ともあれラビットAですら影響のあるこの圧の中でも鈴風は平常運転と。

 ……マジで底なしだな。


「そういえばムサシは?」


 俺がそう言うと、さっきと同じように鈴風の髪からにょきっと手が出てくる。

 ……どうやら平気みたいだ。

 う~ん。ナビ子があんな状態なのにムサシは平気とは……この差は何なんだろう。


 ともあれ、若干一名ばたんきゅーしているが、とりあえず全員の無事と。


「それではこちらへ」


 無事を確認後、女王が移動を再開。

 とは言っても、目的地はもう見えているが。

 圧で大変だったからあえて触れていなかったが、広場に着いてから嫌でも視界に入っているアホみたいに巨大な神殿。


 第一印象は古代ギリシアの神殿っぽいなぁと。

 ゲームのモンスターでの知識で知ったんだけど、エンタシス……って言うんだっけ?

 神殿といえばこれって感じの特徴のある柱。


「まるでパルテノン神殿のようですね」


 鈴風がポツリと呟く。

 パルテノン神殿……聞いたことあるようなないような。

 多分、俺がイメージしている古代ギリシアの神殿の名前がそれなのかも。


 ゆっくりと近づいていくとその神殿の異様さに気づく。

 神の力で守られているのか、守護竜が管理しているからか。

 何千万年も海底に沈んでいるはずなのに、神殿にはひび割れはおろか傷一つ見当たらない。

 それどころか、くすんだり苔が生えたりもしておらず、建てられたばかりと見間違うほど。


 ――その神殿の中から感じる圧。

 間違いない。この神殿の中に守護竜がいる。

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