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第85話 楽園の真実②

 扉を開けると、そこはなんの変哲もない小部屋。

 当然ながら海竜なんてどこにもいない。


 女王は部屋に入るなり正面の壁を触り……女王の手が壁に吸い込まれる。

 半ば予想はできていたし、特に驚くことはない。

 この部屋から海竜のいる場所に行くなら、隠し扉か転移くらいしか方法はない。

 それについ先日海底洞窟の入口で似たような経験もしたしね。


「この先は外と同じように海水で満たされております。準備が完了次第お進みください」


 それだけ言うと女王は壁の向こうに消えていく。

 準備ができ次第って言ったのに……見ないように気を遣ってくれたのかな。


 ちなみにこの小部屋に入ったのは俺たち以外は女王だけ。

 王族じゃないマリーナたちは中には入れないから仕方ないとはいえ、エレーネは一緒に行くと思っていたから驚いた。


 しかしよくよく考えてみると、護衛もない状態で、部外者と王族が一緒に行動するのは拙いよな。

 特にさっきの警戒している姿も目撃されているし。

 ……最悪、俺たちだけで帰ってきたら、この部屋から出してもらえそうにないな。

 もちろんこちらから女王に危害を加えるつもりはこれっぽっちもないけどさ。

 ……話の内容次第だよなぁ。


 と、あんまり待たせるのも悪いし、急いで準備しないと。

 とは言っても、準備することと言えば、テキトーオーとライファスキンの更新をするくらい。


「ってことで、ラビットAよろしく」

「きゅい!」


 ラビットAは元気よく返事をしてテキトーオーとライファスキンを唱える。

 これでまた半日は大丈夫だけど……何があるか分からないし、今後はより時間を気にして行動しないと。


「ねぇ。もしかして海竜の威圧もこれで適応しちゃうんじゃない?」

「あ~。そうかもな」


 環境に適応する魔法なんだから、威圧化の中でも適応するかもしれない。

 早速試してみようと女王を追いかけ壁の向こうへ。


 ――瞬間、空気が変わったかのようにズシンと体が重くなる。


 一気に体重が二倍になったような、めちゃくちゃ重い荷物を背負っているような感じ。

 ……ライファスキン。全然関係ないじゃん。

 いや効いてるからこそ、この程度で済んでいるのか。

 それともこれから効いてくるのか。

 ライファスキンを解除したらその瞬間、息ができなくなるわ、水圧でぺしゃんこだから試せないけど。


 とりあえず屈伸や肩回しなど体を動かしてみる。

 ……うん。動けなくはないけど、やっぱり体が重く感じるなぁ。


 さて、俺は大丈夫だったがナビ子はどうだ?

 見るとナビ子はプルプルと震えながら何とか維持していた。


「おっおいナビ子。大丈夫か?」

「へ、へ~んだ。こ、この程度なんてことないじゃない」

「……その割には生まれたての小鹿みたいになってるが?」

「うっさいわよ。平気ったら平気なの!」


 そう言ってシャキッとするナビ子。……まだ少し足が震えているが。

 一応飛べては……泳いではいるみたいだし、強がれる程度には問題ないようだ。


「それよかシュートはどうなのさ?」

「俺? 俺はまぁ大丈夫かな」

「ふ~ん。強がってないでしょうね?」


 お前と一緒にすんな!?

 多少は体が重くなっても、強がってはいないっての。

 まぁナビ子はこれでいいとして、鈴風とラビットAの二人はどうだ?


「きゅい! 全然へーき!」

「こちらも問題はありません」


 ラビットAは元気よく、鈴風も手足をブラブラと動かして問題ないことを確かめる。


 ……こっちは心配するだけ無駄だっったか。

 あっ鈴風の髪の毛からムサシがコソッと手を振っている。

 全然姿を見せないと思ったら、あんなところに隠れていたのか。

 そのムサシもどうやら何ともない様子。


 ってことはだ。

 多少なりとも抵抗を感じているのは俺とナビ子だけ。


「なぁナビ子。無駄な意地の張り合いはよそう」

「うん。そうだね」


 俺たち二人が底辺の争いをしていても空しいだけだ。


「皆さま問題なさそうですね。流石です」


 俺たちの様子を確認していた女王が……あれっ!?

 女王の下半身が二本足から魚へと変化していた。

 そりゃ女王はネレイドだから下半身が魚でもおかしくない……というか、むしろこっちが正常だし、水中なら二本足よりも動きやすいだろうから、元に戻るのはおかしくない。


 おかしくはないのだが、今まで二本足姿しかお目にかかってなかったから、なんというか……一言でいうと美しい。

 二本足の時ももちろん美しかったのだが、元の姿に戻ったことでオーラと言うか、この姿が本物なんだなと。


「あの……シュート様。そんなに見つめられると恥ずかしいのですが」

「えっああ。ご、ごめん」


 少し恥ずかしげに答える女王に俺は慌てて視線をそらす。

 いや、マジで可愛いんだが。


「シュートさいてー」

「きゅいてー」

「こんな状況でも盛るなんて、これだから男は……」


 うう……流石に今回は否定できん。


「え~っと。この道を進むと海竜のいる場所に着けるの?」

「そっ、そうです。一時間くらい進めばあの御方の元へ辿り着けます」


 一時間……思ったより遠いな。

 となれば、ジェット君に乗って移動したい。


「えっと。乗り物……仲間を召喚してもいいですか?」

「ええ。構いませんが」


 ジェット君は女王に見せたことがないので、一応許可をとってジェット君を召喚。

 だが、召喚されたジェット君は現れた瞬間、ガタガタと震えだす。

 何かに恐れているような……とてもじゃないけど、乗れそうにない。


「……海竜の圧?」

「でしょうね」

「……うちのジャックもですね」


 見ると鈴風もジャックを召喚しており、そのジャックは鈴風後ろに隠れて縮こまっていた。

 ……元が巨大なサメだから全然隠れてはいないけどさ。


 ジェット君もジャックもこれじゃあ乗り物にも戦力にもならないので。すぐにカードに戻す。


「ねぇシュート。ひとまず誰が呼び出して平気か確認してみたら?」

「……そうだな」


 このままじゃ誰を召喚できるか分からない。

 俺は女王に少し時間をもらって順番に召喚していくことに。

 もちろん、全部のモンスターじゃなくて、水中で動ける仲間限定だけど。


 結果、動ける仲間はセレンとリコ、チコ、クコの3カーバンクル、それからコーラルヘアのコール。

 つまりレア度が星5のモンスターだけ。

 セレンたちは俺と似たように多少圧は感じるものの、動きには支障がない様子。

 星4のモンスターはジェット君やジャック同様、体が震え満足に動くこともできず。

 星3以下のモンスターは召喚した瞬間、意識を失っていた。


 星3は戦力にはならないからまだしも、星4まで活動不能になるとは。

 もちろん敵対は考えていないけど……ここまで戦力を削られると一気に不安になってくるよなぁ。

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