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第83話 海底楽園⑪

 ――日本人ですか?


 まさか女王からその単語が飛び出てくるなんて予想だにしてなくて、一瞬で頭が真っ白に。

 理解が追い付くや瞬時に考えなくてはならない決断がひとつ。

 女王の問いに対して誤魔化すか誤魔化さないか。


 女王の問に思わずそうですと答えかけてしまったが、それでも日本人? なにそれ的な感じで誤魔化すこともできると思う。

 ただ俺はすぐに誤魔化してどうなるとの結論に至る。


「シュート」

「ああ、分かってる」


 俺とナビ子は女王から一歩下がり、警戒を強める。


 仮にこの場を誤魔化したとしても、女王は俺たちが日本人だと疑惑を持ち続けだろう。

 それに俺たちも女王が日本人という単語を知っていたことを知ったままモヤモヤした状態で過ごすことになる。

 ならいっそのこと誤魔化さずにいつ敵対してもいい状態にしておくべきだ。


「あの……シュート様。突然どうされたのですか?」


 俺が突然離れたことを訝しむ女王。


「何で俺たちが日本人だと……いや、日本人という単語をどうして知ってる?」

「えっ? えっ? えっ?」


 先程までのおちゃらけた雰囲気とは一切ない今の俺に本気で戸惑っている様子の女王。

 自分から仕掛けておいて何で戸惑う?

 演技か、それとも俺がすぐに行動に移すとは思わなかったか。


「シュート。何事です?」

「きゅい! シュートだいじょーぶ!?」


 俺たちの存在に気づいたのか鈴風とラビットAが一階からジャンプで俺たちのいる二階へ。

 二人は張り詰めた空気を感じ取ったのか、いつものような軽いノリはない。


「簡単に言うとエライネさんが俺と鈴風のことを日本人と言った」

「ほぅ?」

「きゅぴえ!?」


 まぁ驚くよなぁ。


「エライネさん……名前呼びですか」

「きゅート。浮気!?」


 そっち!?


「……お前ら」

「ちょっとした冗談ではないですか」

「そーそー」


 ったく。何が冗談だ。

 今の状況を考えろって。


「母上~!? 御使い殿~!?」


 鈴風とラビットAから遅れてエレーネもやってくる。

 エレーネが遅れた理由はジャンプではなく走って二階まできたから。

 もし訓練場が海水で満たされていたら泳いでくればいいだけだから一緒に到着しただろうが、建物内ではそうもいかず。

 下半身が魚のエレーネでは二階までジャンプはできなかったようだ。


「母上。これはどういう状況で?」

「それがわたくしにも何が何やら。シュート様で会話をしていただけでしたのに」

「シュート様!? は、母上が御使い殿の名前を……まさか御使い殿を無理やり手篭めに!?」

「お馬鹿!? そんなわけないでしょ!?」


 向こうも向こうでエレーネのいつもの勘違いが発動中。

 ただこのエレーネの勘違いと、こっちの鈴風とラビットAの冗談のせいで、緊張感がなくなり張り詰めた空気が霧散。


 ……はぁん。俺たちは今何してんだろなぁ。


「それで……どうするのですか?」

「きゅう? 敵対するの?」


 場の空気を壊した鈴風とラビットAが言う。


「……敵対するかどうかが相手の言葉を聞かないと何とも言えん」

「どうやら落ち着いたようですね」

「きゅい! もーだいじょーぶ!」


 ……もしかして鈴風とラビットAは俺を落ち着かせるためにあんな冗談を?


 確かにさっきまでの俺は日本人って言葉を聞いたことで過剰に頭に血が上っていたと思う。

 あんな状態で女王から話を聞いても疑心暗鬼になってたと思う。


「どうやらわたくしの不用意な発言で警戒されてしまわれたようですね」


 そう言って女王は頭を下げる。

 もちろん土下座とかではなく、軽く頭を下げただけだが……それでも、その姿は本当に申し訳なく思っているように見えた。

 どうやらこちらを探るために言った発言ではなく、思わず出た発言だった様子。


 ただ女王の意図はどうであれ、女王は日本という単語を知っていたことは事実。

 一体どうやって知ったのか。


 この世界の人が日本の存在を知る方法。


 1つ目は日本人から話を聞くこと。

 ただこの世界にいる日本人は運営から送られてきたプレーヤーだけであり、全員が俺の知り合い。

 もちろん誰もここに来たことはないので、この線はなし。


 ではプレーヤー以外の俺の知らない日本人がいたらどうだ。

 プレーヤー以外の日本人……考えられるのは運営。


「シュート。この世界と地球との繋がりは完全に途切れたのですよね?」

「ああ。ナビ子たちが電子妖精じゃなくなったのが何よりの証拠だ」


 もしまだこの世界と日本が繋がっているのなら、ナビ子は電子妖精のままで旅のしおりの中にも入れるはず。

 完全に途切れたのは間違いない。


 だからもし運営がこの世界に残っているのであれば、それは道が途切れる前にこの世界にやってきていた場合。

 限りなく低い可能性だが、俺が倒した運営男以外に、別の運営側の人間がこの世界に来ていたとしたら。


「では一度は完全に途切れた繋がりが、もう一度繋がった可能性は?」

「……それは分からない」


 残された運営が日本へ帰るために女王を協力者にして道を繋げようとしている。もしくはすでに繋いだ。

 それが俺が考えうる最悪の状況だ。


 なお日本側からもう一度この世界に道を繋げるのはほぼ不可能。

 もしできるのであれば、あの道に固執する必要はない。


 なら再度繋げられる可能性があるとすれば、それはこちら側から日本へ繋げる場合。

 今は亡くなっているが、この世界に初めてやってきた日本人ヤマト。

 日本と繋がっていた道は元々ヤマトがこの世界から繋げた道だ。


 ……ってそうか。

 ヤマトって可能性もあるのか。


 まだ生前のヤマトがこの国にやって来て女王に伝えた可能性。

 考えてみたらヤマトは魔道具作成のエキスパートだったようだし、それならこの国の魔道具やトロッコの運用などにも納得がいく。


 あ~うん。この可能性が一番高い可能性がしてきた。



 あと、一応もう一つ可能性がなくはない。

 この世界で唯一人、日本のことを知っていた女性……アズリア。

 彼女は壊れた運営の偵察機を解析して日本の情報を知った。

 彼女と同じように、女王は偵察機を手に入れたのでは?


「ナビ子。運営は海底も偵察していたのか?」

「ううん。アタイが知っているのは海上の調査だけ。海中には入れなかった。だからもし偵察機を手に入れたんなら、壊れて沈んだんだと思う」


 海中調査はしてなくても、壊れた偵察機なら可能性はなくはないか。

 ただ驚くほど確率は低いだろうが。

 海中なだけでなく、隠れ家的なこの国に沈むとは考えにくい。

 仮にネレイド騎士団が外で拾ってきたとしたら、他の人……特にエレーネが昨日のうちに失言したと思う。

 エレーネが失言してないから、このことを知っているのは女王だけ。

 だから偵察機の可能性もかなり低いと思う。


 というか偵察機云々以前に、俺以外の日本人を目撃していたら、その時点でエレーネが失言しているよな。

 なら娘に気づかれないように運営が女王にだけ接触するのは無理だろうから……やはりヤマトって可能性が一番高い。

 ヤマトならエレーネが生まれる前にここにやってきた可能性があるしな。


 冷静になって考えてみると、敵対する可能性は運営が関係している場合のみで、その可能性が殆どない。

 鈴風の言う通り落ち着いて正解だった。


「エライネさん。運営か偵察機。これらに聞き覚えは?」

「運営と通信機ですか。何でしょうかそれは?」


 とりあえず俺は女王に知っているか確認してみるが、やはり知らないようだ。

 もちろん女王が正直に答えているかは分からない。

 確認しようにも、看破系スキルは封じられている。

 なので確認する術はないのだが……女王にとぼけている様子もない。

 多分本当に運営と女王は関係ないと思う。


 よし。これで女王と敵対する理由はない。

 後は念の為ヤマトのことに関しても聞いてみよう。


「ではヤマトという人物を知っていますか?」

「ヤマト……いえ。存じ上げませんが」


 ……あれぇ?

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