第82話 海底楽園⑩
「すいませんっした」
女王の姿を見て俺は条件反射的に謝罪。
いやもう、全力で土下座ですよ。
ただ訓練中の下にはバレたくないから、声としては小さいけど。
「えっあの御使い様? わたくし本当に気にしておりませんから」
いきなりの土下座に戸惑う女王。
女王はさっき気にしていないとは言ってたけど、本当に気にしてなさそう。
でも俺の気持ち的にはさ、お昨日の宴のことも、鈴風がエレーネをボコしたことも、そのことについて『女王さん』とかフランクな感じだったことも全部失礼極まりないだろ。
ただ頭をあげないと逆に困らせるだけ。
困らせるつもりはないので俺は立ち上がる。
……気まずい。
「あの……それで、どうしてここに?」
「御使い様がこちらにいらっしゃるとお聞きしまして」
当たり前すぎる回答。
そりゃそうに決まってる。
「御使い様。本当にお気になさらず。その……わたくしも嬉しかったですから」
そう言って顔を赤らめる女王にドキッとする俺。
えっ何この人可愛い。
「ちょっとなに鼻の下伸ばしてんのさ!?」
ほっとけ。
こんな超絶美人が顔を赤らめるなんて仕草をして鼻の下を伸ばさないほうがおかしいっての。
でも……嬉しかったって何?
俺の謝罪の内容に嬉しくなる要素はなかったはず。
「ですから御使い様。女王のように堅苦しい呼び方ではなく、昨夜のようにわたくしのことはエライネとお呼びください」
「ぶふっ!?」
思わず吹き出す。
「俺……昨日、本当にその……呼び捨てに?」
「まぁ!? お忘れですか? 昨夜は宴の途中でいきなりわたくしを抱き寄せて『エライネ。俺の女になれ』と仰ったではないですか」
ガバっと俺は思わずナビ子を見る。
「……嘘だよね、ナビ子?」
「当たらずとも遠からずって感じかしら。正確には女王さんに『エライネは偉いな~』って親父ギャグをかましながら頭を撫でて、そのあと『俺のカードにならないか?』って口説いてた。そこまでで鈴風がコツンと……ね」
最悪じゃねーか!?
さっきナビ子はカードになれと言ってたとは言ってたけど、その内容が予想以上にやらかしていたことに俺は頭を抱える。
「……何故そんなことになる前に俺を止めなかったんだよ」
「なに? アタイらのせいにするわけ?」
「そうじゃないけど……」
でも止めるなら糞サムい親父ギャグの時点で止めれたよね?
「わたくし、殿方にあのようなことをされたのは初めてで」
キャッと恥じらいながら顔を覆う女王。
そのまま指と指の隙間からチラリとこちらを窺うような目を俺に向ける。
流石にそれはわざとらしいというか……うん。あざとかわいい。
ともあれ、女王はまったく気にしてないようだが、マジで土下座じゃすまない内容だよな。
「えと……じょお」
「エライネ」
「はっ?」
「ですから女王ではなくエライネと呼んでください」
「……エライネ様」
「エライネ!」
「すんません。エライネさんでなんとか勘弁いただけないでしょうか」
「まぁ今はそれで我慢しましょう」
何とかさん付けで納得してもらう。
「それで御使い様……」
「シュートです」
「……シュート様とお呼びしても?」
「できれば様付けも勘弁してほしいんですが」
「流石にそれは……」
「だあああああ!? なにラブコメの波動を出してんのよ!?」
俺と女王のやり取りにナビ子がブチ切れる。
「別にラブコメじゃなくて名前……」
「シャーラップ!! アザレアに言いつけるわよ!?」
「なっ!? アザレアは関係ないだろ」
「関係なくないじゃない。浮気の報告はしないと」
「浮気って……べっ別に変な話はしてないし。そもそもアザレアとは恋人でも何でもないから浮気じゃないし。……でも報告は勘弁してください」
そう言って今度はナビ子に土下座。
「アンタ……プライドないの?」
ほっとけ。
こういう話は男は無条件降伏なんだよ。
「まぁいいわ。アザレアには黙っててあげる」
ホッと胸をなでおろす俺。
って女王の存在を放置してた。
女王はニコニコと俺とナビ子のやり取りを眺めていた。
「みつか……失礼。シュート様と妖精様は仲がよろしいのですね」
「アタイはナビ子だよ!」
「ナビ子様ですね。ナビ子様は何の妖精なのですか?」
「……それは秘密」
まぁなんちゃって妖精とは言えんよなぁ。
と、そういえば俺以外まともな自己紹介してないんじゃね?
ってことで、話題を変えがてらラビットAと鈴風の紹介をする。
「あっちのウサギは俺の召喚獣でラビットA」
「昨日も感じましたが、あの方とんでもない量の魔力を保有しておりますね」
「分かるんですか?」
「ええ。ネレイドは魔力方面に精通しておりますので」
それはこの国を見ていればよく分かる。
魔力、そして魔道具を熟知していないければ海の加工とかできるわけない。
「それから……今エレーネをボコしているのが鈴風」
エレーネはぶっ飛ばされた後も鈴風に向かっていって懲りずに現在もボコられ中。
流石に何度もやられている姿を見て女王も少し苦笑い。
「……やっぱ、なんかすいません」
「いえ。娘が不甲斐ないだけですから」
不甲斐ないと言うか……あんだけやられていて自主的に向かっていくのはある意味尊敬する。
「それにしても、我が国の騎士団は決して弱くはないはずですが……あの方はとてもお強いのですね」
「ええ。鈴風よりも強い人を俺は知りません」
一応ラビットAは鈴風に勝ったことはあるけど、あれは半分勝たせてもらったようなものだし。
「やはりあの方も日本人なのですか?」
「そうです……なんて?」
この人……今なんて言った?




