第81話 海底楽園⑨
ベッドを図鑑に登録し、やることがなくなった俺とナビ子はラビットAと鈴風と合流することに。
とは言っても、俺たちはラビットAたちのいる訓練場の場所を知らない。
ラビットAと鈴風の気配を頼りに……海底洞窟同様、この国でも探知系スキルは使えない。
そもそも神の御使い扱いされてはいるが、他人の城を勝手に出歩くことは問題がある。
部屋の外には見張りのネレイドだっているようだし。
もちろん監禁されている訳ではないから、ちゃんと見張りに一言言えば城の中を出歩くことも可能。
実際に鈴風たちも外にいた見張りに案内されて訓練場に向かったとのこと。
ってことで、俺たちも部屋の外にいる見張りネレイドに訓練場まで案内してもらう。
見張りネレイドはエレーネでもマリーナでもなく俺の知らないネレイド。
「じゃあ案内よろしく」
「ひゃっひゃい!?」
……なんかキョドってるんだけど。
「えと……訓練場ってここから近いのかな?」
「はっはひ。すっすぐであります!」
そう言いながらビクビクしつつ案内を始める見張りネレイド。
……流石にそこまで怖がられると凹むんだが?
「昨日のシュートのやらかしで引かれてるだけなんじゃない?」
「んなわけねーだろ」
俺とナビ子はネレイドに聞こえないように話す。
……引かれてないよな?
多分、怖がっているのは俺が神の御使いだから。
マリーナのように信じていないなら普通に接してくれるんだろうけど、昨日の女王が大ぴらに公表しちゃったからなぁ。
このネレイドは完全に信じ切っちゃってるんだろう。
そういえば……マリーナはどうなんだろう?
昨日とは違いこんな感じになってるとかなり凹むんだが。
ともあれ、このネレイドは見ているこっちが可哀想になるくらい緊張しているので、余計なことは話さず大人しくついて行くことに。
数分後、訓練場が近づいてきたのか、朝練中のネレイド達の声が聞こえてくる。
「とりゃああああああ!?」
「せいやあああああ!?」
「このくそがああああ!?」
「……また随分と気合いが入ってるなぁ」
「頑張ってるんだねぇ」
これが普段の朝練の声なら本当に頑張ってるなぁと思う。
……若干言葉遣いが気になるかけ声もあるけど。
「ねぇ。いつもああなの?」
「ひゃっ!? いえ、普段はもっと静かで……」
……悪気がないとはいえ、声をかける度に悲鳴を上げられるとやっぱり少し傷つく。
しかし、いつもはこんなに気合いが入ってない……か。
「今日は見学者がいるから、いつもより気合が入ってるとか?」
「そうだといいわね」
それが希望的観測だと俺もナビ子もよく知っている。
それを裏付けるかのように訓練場からさらなる掛け声が。
「ぎゃあああああ!?」
「いやああああああ!?」
「許してえええええええ!?」
「このくそウサギがああああ!?」
怒号と悲鳴入り交じりに、確定的な単語まで。
「……よし。帰ろっか」
「いやいや。さすがにいかんでしょ」
このままUターンしようとした俺を止めるナビ子。
むぅ。やはりいかんか。
「でも、このまま中に入ると俺たちまで強制参加の可能性があるぞ」
先日の地獄の特訓が脳内に浮かび上がる。
もうあんな思いは二度とごめんだ。
「……それは嫌よね」
「だろう?」
ナビ子も同じ気持ちなのかブルブルと体を震わせる。
かといって、このまま無視して帰るのもやっぱり拙いか。
「ねぇ。見つからずに訓練を見学できるような場所ない?」
「ひょっ、ひょれではこちらに……」
いい加減慣れてほしいなぁと思いつつ、案内された場所は訓練場の二階。
体育館のギャラリーみたいな場所。
まぁ一階で見学するよりは見つかりにくいと思い、ここで見学することに。
幸い鈴風とラビットAの背後ということもあって、二人にはまだ気づかれていない。
ただ向き合っている訓練中のネレイドには正面となってしまうのだが……彼女らには二階を見る余裕はなさそう。
朝練では鈴風とラビットAが教官となってエレーネたちネレイド騎士団と実戦形式で訓練していた。
「おっエレーネとマリーナもいるな」
「あっ本当」
訓練しているネレイド騎士の中にエレーネとマリーナを発見。
エレーネは鈴風、マリーナはラビットAを相手にしているグループに。
マリーナたちは弓を構えると魔法で矢を召喚。
弓を引いて魔法の矢を放っていた。
「くっこの!? ちょこまかと……」
「な、なんで当たらないの!?」
「きゅきゅっのきゅきゅいー! そんなの当たらなーもー!」
どうやらマリーナたちは遠距離からラビットAに攻撃を当てる訓練を行っている様子。
「あれは……魔法?」
「弓は自前みたいだけどね」
昨日の初対面時も弓で牽制されたし、ネレイドにとっては弓はメイン武器なのかもしれない。
ただ昨日の牽制で使われた矢は魔法の矢ではなく、ちゃんと実体のある矢を使っていた。
――――
竜鱗の矢【武器】レア度:☆☆☆☆
鏃に竜の鱗が使用された矢。
魔力を流すことにより抵抗をなくし、威力を上げることができる。
――――
数百メートルも離れた海中で俺の足元に突き刺さる威力があった理由がこれ。
昨日ハイアナライズをしていたので、後で確認したけどいやはやヤバい矢だと思う。
海水とか限定で書かれていないことから、空気とか風の抵抗もないんじゃなかろうか。
「あの矢を訓練で使うのは勿体ないもんなぁ」
「魔力を込めるのとか空気抵抗を考えると魔法で作った矢が一番なんでしょうね」
確かに竜の鱗を使った矢だと訓練で消耗するのは勿体ない。
魔法の矢なら元手は掛からないし、魔力を込める訓練にもなる。
弓を使うのも実際に竜鱗の矢を使う時の訓練だろうが……ライトアローとかファイアアローの魔法も弓を使えば威力も上がるかな?
……まぁ俺たちに弓を使う人はいないから関係ないんだけど。
「きゅぷぷ。マリーナの下手くそ~」
「こんのくそウサギがああああ!?」
ラビットAの煽りにマリーナが叫ぶ。
……あの外まで聞こえた悪態はマリーナだったのか。
ちょっと意外に感じつつも、この様子だと俺と話す時も昨日と変わってなさそうで少し安心する。
ラビットAの方はこのまま変わらないだろうと次は鈴風の方を見る。
ラビットAと違い、こちらはガチの模擬戦。
もちろんガチとは言っても模擬戦だから真剣ではなく鈴風は木刀を使用している。
「今度こそ……てりゃあああ!!」
「あまいっ!」
「がはっ!?」
エレーネが鈴風に向かっていくが、鈴風はエレーネの一撃を避けるとそのまま反撃。
鈴風の一撃をモロに食らったエレーネは訓練場の壁までふっ飛ばされる。
「うわぁ……いたそ~」
「いやいや、痛そうとかそういうレベルじゃないだろ」
木刀とはいえあの威力だと普通なら死ぬレベルだと思う。
ってか、騎士団の団長とはいえ、一応エレーネは女王の娘。
「こんなの女王さんに見られたら大事じゃね?」
「昨日のシュートのセクハラもあるし、印象は最悪かもね」
……俺の昨日の行動はこれと同レベルなのか。
「あら。わたくしは全然気にしておりませんよ」
「「えっ!?」」
突然聞こえた声に振り返ると……そこには女王が立っていた。




