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第80話 海底楽園⑧

「そういえば皆は?」


 俺が目覚めたこの部屋にはナビ子しかいない。

 ラビットAや鈴風、セレンやコールたちはどこにいるんだろう?


「えっとね。セレンたちはカードの中でお休み中。あの子たちも休ませなくちゃね」


 ああなるほど。

 確かにセレンたちはずっと出ずっぱりだったから、休める時に休ませないと。


「それからラビットAと鈴風はネレイド騎士団の朝練を見学するってちょっと前に出て行ったよ」

「……見学? 絶対に見学じゃ済まないだろ」

「でしょうね」


 あの二人なら間違いなく参加すると断言できる。

 俺は先日のあの地獄の特訓を思い出し……ブルブルと身を震わせ、朝練をしているネレイドに同情した。


「にしても、あいつら元気過ぎだろ」

「ほんとにね」


 昨日も飲んで騒いでだったんだろ?

 というか、何気にこっち側にいるけど、ラビットAは本来セレン側だからな?

 ラビットAこそカードに戻って休みべきだと思う。

 ……絶対に戻らないだろうけど。


「んで、二人が出て行って暇になったから、俺を叩き起こしたのか?」

「えへへぇ」


 どうやら図星だったようで、ナビ子が笑って誤魔化す。

 ぶっちゃけラビットAならともかく、ナビ子がえへへとか言ってもかわいくも何ともない。


「言っとくが、全然かわいくないから」

「んなっ!? このぷりちーナビ子ちゃんに向かってなんてこと言うのさ!」

「……自分でぷりちーとか言うなよ」


 怒ったナビ子のキックを躱しながら突っ込む。


「あちょっ!? あひゃん!?」


 俺が避けたことにより、ナビ子はベッドに衝突。

 変な声を上げながら、ポヨンと跳ねて明後日の方向へ。


「そういえば……このベッド。かなり気持ちよかったなぁ」


 俺は改めてベッドを触る。

 昨日の行ったマリーナ宅にもあったウォーターベッド。

 昨日はセクハラ扱いになると自重したが、鈴風やナビ子の言っていたようにプニプニしてかなり気持ちいい。

 それに寝るだけじゃなく、座ってもクッションとしても使えそうだし。

 このベッドに腰掛けてまったりとコレクション鑑賞できれば最高だな。


「う~ん。やっぱりこのベッドは絶対に持ち帰りたいなぁ」

「あ、アンタね。アタイにこんなことして言うことはそんだけなの?」


 俺がベッドに心を奪われていると吹っ飛んだナビ子が怒りながら戻ってくる。


「いや、今回はただの自爆じゃん」

「シャーラップ! 避けるのが悪いのよ!!」


 無茶苦茶暴論である。


「とりあえずこのベッドをカードに……そういえば昨日色々カードにしたって言ってたっけ?」

「ぐぬぬ……全然反省してないし」


 俺はナビ子を完全に無視して図鑑を確認。

 新規カードは昨日宴で並んでいた料理やら食器やら楽器やら。

 結局楽器もカードになってるし。 

 何故か羽衣のカードもあるけど……マジでセクハラしてるじゃねーか!?

 そして肝心のベッドはカードになってない。


「考えたらカードになってるわけ無いか」


 会場で鈴風に昏倒された後に、ここに運ばれたんじゃあカードになってるわけない。

 というか、昏倒させるなら早くしろって。

 全然間に合ってないじゃん!


 ともあれこのベッドがカードになってないのならカードにしないと。

 俺はこのベッドをカードにする。


「あっ!? アンタ、なにしてんのさ!」

「なにってカードにしただけじゃないか」

「カードにって……アンタ。自分がいつも言ってるなんちゃってルールはどうしたのよ」

「なんちゃってとか言うな」

「アンタ……どの口が言ってんのさ!!」


 ナビ子が怒りでプルプル震えている。

 まぁ日頃からなんちゃって妖精扱いされているナビ子からしたらどの口がって気持ちは分からなくもないが。

 ナビ子が言ってるなんちゃってルールとは『コレクターたるもの自分のコレクションに誠実でなくてはならない』というもの。

 盗みや強盗など人の私物を許可なく手に入れることはご法度といつも言ってる。

 ナビ子からしたら今の俺の行為はそのルールに抵触しているように見えたのだろう。


「確かにこのまま持ち帰ったらルール違反になるけど、登録だけだったらルール違反じゃないさ」


 似たようなことは実際にバランの村でも、ブルーム山のガロン宅でもやっている。

 直近ではトロッコだってそうだ。

 許可なくカードにして図鑑登録はしたけど、その後すぐにカードは解除(リセット)してカードは破棄している。


 なので今回もカードにしたけどすぐに破棄。


「あら素直」

「そこは誠実じゃないとな」


 だからなんちゃってルールとは呼ばさないぞ。


「でも……じゃあ昨日カードにした料理とかはどうするの?」

「それはまぁ……楽器や食器は返すけど、料理に関しては……ねぇ。でも今更料理なんて返しても仕方ないし、もともと俺たちの腹に入るものだったから」

「なんか屁理屈ねぇ」


 ほっとけ。

 その辺りは後で女王に聞けばいいんだよ。

 ってことで、改めてカードにしたベッドを確認。


 ――――

 海のゆりかご【寝具】レア度:☆☆☆


 特別な製法により海水を素材に作られた寝台。

 母なる海に抱かれ最高の眠りを貴方へお届け。

 ――――


「海のゆりかごて」

「多分最初にこれを作った人がそう名付けちゃったのねぇ」


 最初に作ったのがネレイドなのかまでは不明だが、実に反応に困る名前である。

 だって俺がこのベッドを持ち帰ったら、間違いなくファーレン商会で取り扱うだろ。

 鑑定で名前は判明するので別の名前で販売するのも無理。

 うん。命名は俺じゃないと断固として主張しないと。


 次にレア度。


「う~ん。星3が高いのか低いのか」


 性能的にも入手難易度的にも、もっとレア度が高くても良かったとも想うのだけど。


「製法は特別だけど、製法さえあれば比較的簡単に作れそうだから妥当なラインじゃない?」


 なるほど。確かにこの国では普通に量産されているのだから、そう言われればそうかも。

 まぁレア度はこのくらいにして、気になるところは説明文。

 寝具のカタログに掲載されているような、なんとも簡素な説明文ではあるが。


「これって一応魔道具だよな?」


 文句に偽りなしというか、この寝心地の良さはウォーターベッドだけが理由じゃないはず。

 そもそも製法が間違いなく魔道具を作るのと似たような原理だろうし。


「多分精神を落ち着かせて快眠を促すような癒やし系の魔法効果がありそうよね」


 ナビ子も同意の様子。

 ただ癒やし効果があるのであれば、ついでに二日酔いと打撲の痛みも無くしてくれればいいのに。

 いや、逆に考えたら痛みでも目を覚まさずに快眠できるとも言えるのか。


 ともあれ、カード合成で追加効果を付与することもできる……とここで俺は慌ててレシピを確認。


 ――――

 海のゆりかご【寝具】レア度:☆☆☆


 海水×リラックス×魔皮

 ――――


 よし! やっぱり特別な道具も製法も必要ない。

 ついでに言えば、昨日合成した食器や羽衣や料理も。


「これで全部返しても問題なくなったな」

「……せこいね」


 ほっとけ。

 ただ合成で出来たものは一般的なもの。

 どうやっても職人が作る極上品は手に入らないから、現物を持ち帰る交渉は続けるけどね。

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