第75話 海底楽園③
引き続きネレイドの国観光。
当然ながら帝都のように博物館や闘技場などの観光施設はないものの、先ほどの海水を織った布同様、この国独自の技術が盛りだくさん。
今いる居住区では巨大な巻き貝の形をした建物が建ち並んでいる。
「こちらの住居にはキングムイムイの脱け殻を加工して住めるようにしています」
マリーナの話では巨大モンスター領域に、キングムイムイって巨大な貝のモンスターがいるそうだ。
そのキングムイムイは定期的に脱皮をするので、その脱け殻を回収。
ネレイドの技術で加工して住めるようにしているらしい。
「まさかとは思いますが……倒していませんよね?」
もしかしてとマリーナが疑いの目を向ける。
まぁ玉手貝の前科があるから疑われてもしょうがないが。
「倒してないし、そもそも見たことないから」
出会っていたら間違いなく倒してただろうが。
「……そうですが」
マリーナはホッと安堵する。
別にキングムイムイは野生だから、倒してたとしても責められる筋合いはないのだが、ネレイドにとってはかなりの痛手になるだろうから……うん。
気になるけど、キングムイムイを見かけても倒すのは止めておこう。
その代わり脱け殻とか素材に関しては要交渉だけど。
「どの家でもいいけど中って見せてもらえたりする?」
「それでは私の家に行きましょう」
「えっ!? いいの?」
「シュートさいてー」
「きゅいてー」
いやいや、これは俺の本意じゃないぞと言いたいところだけど、マリーナの家じゃなくても、どのみち他のネレイドの家ってことには変わらないのは事実だから、今回に関しては反論できない。
「別にマリーナの家じゃなく、空き家でいいんだが」
「えっ? 空き家を探すのも面倒ですし、別に構いませんが?」
とこっちが逆に戸惑うくらいにあっけらかんとした感じ。
そこでマリーナ……というか、ネレイドに家を見られて恥ずかしいって概念がないと気づいた。
考えたら人族と文化が違いすぎるし、異性がいるわけでもない。
家だって全部同じ造りなんだから、恥ずかしがることなんて何もないんだと。
それならとマリーナの家を見学させてもらうことに。
家の扉を開けるとびっくり。
家の中には空気が充満していた。
「えっ!?」
「きゅう? ぶくぶくハウス?」
外の海水は扉のところで遮断され、中に侵入してこない様は、ぶくぶくハウスそっくりなイメージ。
唯一違うのは、完全に海水を遮断しているわけでなく、足元……膝下くらいまでは浸水してた。
「この人数だと狭いかもしれませんが」
そう言いながらマリーナは下半身を器用に引き摺りながら室内へ。
なるほど。足元の海水のお陰でラミアのように歩けるようになるのか。
でも俺たちにとっては水の抵抗を感じる分若干歩きにくい。
「……家の中に空気があるんだな」
「当たり前じゃないですか」
……当たり前なのか?
いや、そうだよな。
海中で生活できると言っても、ネレイドは分類的には魚類じゃなくて哺乳類だろうし……モンスターにその分類が当てはまるかは分からないが。
ともあれイルカとかクジラとかと似たようなものなのだろう。
家の中に海水が入ってこないのが、キングムイムイの抜け殻を加工した効果らしい。
室内の温度も熱くも寒くもなく……まぁ若干じめじめしているが。
それは仕方がないところだろう。
そんな家の中には家具らしい家具は特になく。
まぁここに棚があってもビックリだが。
あるのは珊瑚製のテーブルと四角いスライムのような塊……おそらくベッド。
それから複数の宝箱。
「えっ玉手貝!?」
「ああ、あれですか。収納に便利なんです」
そりゃあ見た目完全に宝箱だから、収納には便利だろうなぁ。
と思ったら、どうやら玉手貝の殻を加工することにより、中身の劣化を防ぐ効果もあるようで、食材は腐らないし、武具の劣化もないらしい。
なるほど。
これなら養殖してでも玉手貝が必要になるよなぁ。
……俺の持っている玉手貝の殻は加工してないからただの収納箱にしかならないんだろう。
ちなみにここにある玉手貝には食材と住民たちが着ていた服などが生活用品が入っているらしい。
食材とか気になるところではあるものの、流石に中身の確認まではできない。
次に気になったのはベッド。
デカいゼリーのようなスライムのような。
その上に掛け布団のような布……これも海を織った物なのだろうか?
「きゅわっ!? ぷにぷに!」
ラビットAがベッドに触れると、興味があったのかナビ子と鈴風もベッドに触れる。
「あっ本当。それにひんやりして気持ちい~」
「……これは本当に良いものですね」
……俺も触って確かめてみたいが、流石に俺がマリーナのベッドに触れると色々と問題になりそうなので自重。
「もしかしてこれも海が素材?」
「ええ。海に包まれているように快適に眠れます」
……このベッドも絶対に手に入れよう。
俺はそう心に誓った。




