第40話 古参
俺は引き続き魔法合成を行った。
木材や石材で武器や防具を作り、それと魔法を合成させる。
それ以外にも魔法1枚のランダム合成も同時に行う。
そして別属性同士の合成……カードの在庫がある限り、合成し続けた。
その結果、色々と新しいことが分かった。
まず、水属性の派生として氷魔法が誕生したこと。
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アイス【水属性】レア度:☆
初級氷魔法。
氷を召喚する。
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アイスニードル【水属性】レア度:☆☆
氷魔法。
氷の針を射出する。
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大分類は水属性だけど、氷魔法ってなっている。
そしてこの氷魔法が大活躍した。
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サンダー【雷属性】レア度:☆☆
雷属性の初級魔法。
雷撃を放つ。
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氷魔法と風魔法で雷属性が合成された。
ちなみに水魔法では合成されなかった。
サンダーが星2で初級魔法ってことは……もしかして星1はないのか?
だから最初に配布がなかったのかもしれないな。
後は……魔法とモンスターを合成したらどうなるか?
ラビットAは魔の素養を持っていたからセットだった。
魔の素養を持っていないモンスターが魔法をセットで覚えても魔法が使えないだけ。
だけど合成なら……全く別のモンスターへ進化する可能性がある。
それこそ魔法が使えるかもしれない。
そうなればラビットAの負担も減るが……
現在ここにはゴブリンとホブゴブリン、ゴブリナしかいないから、とりあえずゴブリンで確かめてみることにした。
もしかしたらゴブリンメイジが生まれるかもしれないもんな。
「……駄目か」
結果、ファイアの魔法を覚えたゴブリンが出来ただけだった。
もちろん素養スキルがないため、唱えることは出来ない。
う~ん、ちょっと無理があったかな。
仕方ない。
このゴブリンは他のゴブリンと合成してしまおう。
ゴブリンのメスと合成してしまう可能性があるが……もしかすると、魔法を覚えた状態で合成させると魔の素養を覚える可能性が……あるかもしれない。
そう思って合成してみると……
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ゴブリンメイジ
レア度:☆☆☆
固有スキル:火の素質、威圧
個別スキル:火のコツ
魔法を習得したホブゴブリン。
個体によって使用する魔法の属性が異なる。
通常のホブゴブリンよりも知能が高い。
冒険者パーティーのように、連携して戦うことを好み、ゴブリンソルジャーなどと組んで行動する。
決してソロで活動することがない。
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俺は慌ててゴブリンメイジのレシピを確認したが、レシピにはホブゴブリンと魔法関連とざっくりしたことが書かれていた。
……どうやらゴブリンメイジへの進化はゴブリンからではなく、ホブゴブリンからじゃないと駄目だったようだ。
今回は順番が逆になってしまったけど、条件さえ満たせばいいようだ。
「個体によって属性が違うってことは、別の魔法を覚えさせたらその属性を覚えたゴブリンメイジになるのかな?」
実際に別のホブゴブリンで試してみると、ストーンと合成したホブゴブリンは固有スキルに土の素質を持ったゴブリンメイジになった。
固有スキルが違うけど、ゴブリンメイジはゴブリンメイジ。図鑑の種類は増えなかった。
これ……ふたつの属性を持たせたらどうなるんだろう?
合成は2枚しか出来ないけど、ゴブリンの時点で2体に別々の属性を覚えさせたら……って、それならホブゴブリンにセットして魔法を覚えさせればいいのか。
その後で別の属性と合成させたら……結果は片方の属性しか残らなかった。
多分ゴブリンメイジの固有スキルが、魔の素質でなく、ひとつの属性しか使えないようになってるんだろうな。
もしゴブリンメイジ以上の進化があるなら、複数の属性を覚えることも可能なのかもしれない。
それから説明文にゴブリンソルジャーの名前もあった。
ホブゴブリンからは色々と派生がありそうだ。
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「きゅっきゅきゅー!!」
おっラビットAが帰ってきた。
俺は鳴き声をした方を確認すると……
「何で全員で帰ってきているんだよ」
俺はラビットAに合成したいパートナーを連れてこいと言ったんだが?
だからてっきりホーンラビットと2匹連れてきて、アルミラージに。
そこからラビットAと合成する流れだと思っていた。
だが今そこにいるのは全ホーンラビットとツインホーンラビット。
それだけでなく、キラーホーネットやホブA等のゴブリン討伐隊。
フェアリーバタフライやラージ・アントの素材集め隊も集まっていた。
ホブAとBは大量のゴブリンの死体を手作りの台車に載せて……どうやって運んでいるのかと思ったら、知らない間にあんなのを作ってたのか。
というか、2日間でどんだけのゴブリンを殺したんだ?
もしかしたら、すでに巣は全滅したんじゃなかろうか?
素材集め隊の方はワイルドボアが台車を引っ張っている。
その様子はもはやワイルドさの欠片もない。
「きゅう~……きゅきゅきゅっ!!」
「ゴブッゴガガゴブ」
ラビットAとホブAがゴブリンメイジを見て俺に文句を言う。
恐らく何で待たなかったんだと言いたいんだろう。
ラビットAは分かるが、ホブAの方は……何でだ?
「いや、これは不可抗力なんだって。たまたまゴブリン同士を合成してホブゴブリンを作ろうとしたら出来たんだよ」
まぁ最初の1体だけだけど。
「きゅう~?」
「ゴブ~?」
ラビットAとホブAが疑り深そうに見る。
「というか、ホブAはさっきから何なんだ?」
正直ホブAがそんな行動してもかわいくない。
そもそも相方のホブBは大人しいのに……この違いは何なんだ?
「ホッガブ。ホガガ」
だから分かんないっての。
だけど、これだけのためにゴブリン語を覚えたくない。
ホブAはゴブリンメイジを羨ましそうに見つめる。
「……もしかしてホブAも進化したいのか?」
「ゴブ!」
どうやら正解らしい。
「別に進化したければ後で合成するぞ?」
「ゴガガ!」
そうではないらしい。
仕方ないのでもう少し頑張って話を聞くと……どうやら新人に先を越されたのが悔しいらしい。
コイツもラビットAと同じ理由か。
というか、新人って……たった2日しか違わないじゃないか。
だがそう思っているのは俺だけだったようだ。
ホブAのように主張はしないが、キラーホーネットやフェアリーバタフライ達進化組、それからまだ進化したことのないアーストードやラージ・アントも同じ気持ちのようで、新人に先に進化されるのは嫌だったようだ。
……俺は全く気にしてなかったが、カードモンスターの中でも新人、古参の序列があるようだ。
会社で考えると、いきなり新入社員を理由なく昇進させるようなものだ。
……そりゃあ反発も起こるわけだ。
もちろん種族によって合成素材がなくて進化できない種族もいる。
だから別種族の中ではある程度先に進化されても、多少は問題ないらしい。
要するに部署が違うから昇進のタイミングも違うのも許容できるってことだ。
同じようにクイーンホーネットのように特殊な条件も許容する。
だから今回のゴブリンメイジも偶々だったことで何とか許してもらえた。
……まぁそれでもラビットAとホブAは許容できないらしいが。
本当にこの1匹と1体は……
だけど、これからは本当に気を付けないといけないな。
とりあえず……まずはラビットAを。
そして古参を合成していくか。
今朝の時点でワームやリスは死体があった。
それから……ラージ・アントとは違ったけど蟻のモンスターの死骸もたくさんあった。
ラージ・アントが星2だったから、星1の蟻のモンスターじゃないかな?
そこから合成していけば、ラージ・アントになれるかもしれない。
今朝、魔石がなかった連中――アーストードやワイルドボアは魔石を足もとに置いている。
ちゃんと自分で見つけて、倒したみたいだ。
魔石しかないようだが……おそらく魔石以外はワイルドボアの台車に積まれているんだろう。
……あっ、スモッグリザードだけ手ぶらだ。
スモッグリザードが見つからなかったのか……戦って負けたのか分からないが、めっちゃションボリしている。
アイツ……負けたな。ったく、どんだけ残念なんだよ。
仕方ないなぁ……もしスモッグリザードが許可するなら、アイツは魔法と合成させてあげようかな。
ファイアと合成させたら念願の火が吹けるようになるかもしれない。
「よし! じゃあ全員まとめて合成してやる!!」
俺はやけくそ気味にそう叫んだ。
……結局その日一日かけて殆どのモンスターが進化した。
最終的に古参モンスターで進化しなかったのは、サイレントビー、フェアリーバタフライ、ルナバタフライの3種のみ。
サイレントビーは合成相手はいるんだが、既に星3なのでこれ以上は合成できず。
両バタフライに関しては、幻惑蝶と夜光蝶からフェアリーバタフライとルナバタフライになるのにランダムなのがネックだった。
どうやら新しく捕まえてきた夜光蝶を使っても、ルナバタフライになりやすいわけではなく、結果はランダムだった。
そして三回連続でフェアリーバタフライが合成された時点で諦めた。
このまま全部フェアリーバタフライにならないとも限らないしね。
一応フェアリーバタフライだけは合成できるが……どうせやるなら2匹同時の方が望ましい。
だから古参の2匹は残念がったが、ナビ子が帰ってきて、レシピ合成が出来るようになるまで待ってもらうことにした。
他のモンスターは進化して強くなり、更に素材集めが捗る捗る。
結局、素材が溢れすぎて、俺が全く処理できなくなるのであった。




