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第4話 ナビ子

 悩んだ末、俺は残ることを選択した。

 正直、勝手にこんなところに連れてきた運営のいうことは信用できないし、文句も言いたい。


 ――だが、戻ってどうなる?


 戻っても俺に待っているのはガチャ破産のみ。

 それなら……というわけだ。

 もちろんこの世界自体にも興味はある。

 俺だけが持っているスキルに魔法、モンスターとの戦いなど。

 リアルに味わえるチャンスなんて今回を逃したら二度とない。


 俺が残ると言うと彼女は大きく安堵した。


「良かった~! もし本当に戻るって言われたらどうしようって思ったよ。せっかく一番乗りしたのに、すぐに帰っちゃうと皆に馬鹿にされちゃうもんね」


「……今の、どういう意味だ?」


 一番乗りとか馬鹿にされるとか……まるで他にもいるみたいじゃないか。

 彼女は一瞬しまったというような表情を浮かべる。


「う~んっと……まぁもう残るって言ったからいいや。えっとね、この世界に送られてくるのはアンタだけじゃないの」


「ってことは、ガチャをコンプする度にあの選択肢が出るのか?」


 彼女の言うことが確かなら、俺が一番のようだが……


「ううん。ガチャコンプでこの世界に来るのはアンタだけ。『グローリークエスト』にはいくつかの条件があってね。その条件をクリアすると、先着一名がこの世界に来る選択肢を得られるの。アンタはコンプの条件を一番にクリアしたってわけ」


「……他の条件は?」


「ストーリーをノーダメクリアとか、ガチャを一回も回さずにクリア、対人戦で百連勝、イベントランキング十週連続一位。変わったところでは改造して自分で選択肢を見つけ出すとか。今の所、全部で十種類あるよ」


 ストーリーをノーダメって……ほぼ無理だし、ガチャゲーでガチャを回さないってのもありえない。

 対人百連勝も……あのゲームの対戦は基本三すくみなので、不利な相手と当たれば殆ど負け。

 百回勝利ならともかく、百連勝は無理だ。

 この中ではランキング十週一位が一番可能性がありそう。

 ランキングガチ勢が既に三週連続一位になっていたはず。

 もしかしたら二ヶ月後には達成するかもしれない。

 改造に関しては詳しくないから分からない。

 ……けど、どのゲームにも改造厨はいるし、こんだけのガチャゲーなら絶対にする人間はいる筈だ。


「……コンプって意外に楽な条件なんだな」


 他にも条件はあるみたいだが、コンプは金さえ出せば誰だって達成できる。

 もしかしたら俺はラッキーだったのかもしれない。


「確かに他のに比べると難易度は低いかもだけど、こんなに早く達成できるとは思わなかったから皆驚いてたんだよ!」


 そう言われると悪い気はしない。


「それで……条件達成者を集めて何かするのか?」


 まさかここまできてデスゲーム……は流石にないよな。


「別に何もないよ。ここに連れてきたのも条件達成おめでとー! ってだけだから。だから自由に過ごしていいんだよ」


「自由に……本当に何もないのか?」


 正直こんな大掛かりなことをしておいて自由と言われても信じられない。


「うん。この家で死ぬまで暮らしてもいいし、冒険にでてもいい。王様になったりハーレムを作ったり……本当に何をしてもいいんだよ!」


 本当に……か。

 まぁこの世界を救え……とか命令されないのは有難いけど、全て自由と言われても、どうすればいいのか分からない。


「自由にしろって言われても……そもそもこの世界のことを何も知らないか困るんだが」


「ふふん。その為に『旅のしおり』が――このアタイがいるんじゃないのさ! この世界のこともスキルのことも魔法のことも……何でも聞いちゃってよ!!」


 電子妖精はドヤ顔で大きく胸を張った。

 何でもって言っておきながら、さっきは内緒って言われたんだが?

 しかし今俺が頼れるのはこの電子妖精しかいないのも事実。


「えーっと……そういえば何て呼べばいいんだ?」


 このまま電子妖精って呼び続けるのはちょっと……かといって『旅のしおり』とは呼びたくない。


「さっきも言ったけど、アタイはAIみたいなもんで、生き物じゃないから名前はないんだよ。だからアンタが名前を付けてよ」


 その受け答えがAIには思えないんだが。

 つーか、さっきまでのやり取り……絶対に感情あるよね?

 まぁ本人がAIって言い張るんだからそうなんだろうけど。

 ふむ、名前か……


「ナビゲーションだからナビ、もしくはナビ子。それから『旅のしおり』だからシオリ。どれがいい?」


 とりあえず分かりやすければ何だっていいや。

 俺が名前候補を提示すると彼女は真剣に悩み始めた。

 ……悩む時点でAIは説得力がない。


「う~ん。ナビかナビ子か……どっちがいいかなぁ?」


「あれっ? シオリは選択肢に入らないのか? 一番女の子っぽい名前だと思うが?」


 俺的にはシオリ一択だったんだけど?


「え~? だってシオリって電子妖精っぽくないじゃん」


 ……どうやら女の子よりも電子の方に比重があるようだ。


「ナビとナビ子なら別にどっちでもいいだろ。似たようなものだし」


「全然違うわよ!!」


 ……メッチャ怒られた。

 正直ほぼ変わらないと思うんだが……


「決めた!! アタイはナビ子。ナビ子にしたわ!!」


「あ、ああ……よろしくな、ナビ子」


 電子妖精――ナビ子は凄く喜んでいる。

 なんか適当に考えたのが申し訳なくなってきた。


「あっそうだ。ナビ子、俺の名前は石動拓真(いするぎたくま)で……」


 考えてみたら俺の方がまだ名乗っていなかった。

 俺もいつまでもアンタと呼ばれたくはない。


「あっアンタの名前はシュートで登録されてるから、今度からはシュートって名乗ってね」


 シュート……俺がゲーム上で使用していた名前だ。

 俺はコレクターだから、蒐集する人→蒐人→シュート。

 自分でも結構気に入ってる名前だが……しかし登録って……『グローリークエスト』とは違うかもしれないが、もうゲームの中だと言っているようなものじゃないか。


「別にシュートでもいいけど……なぁナビ子。もしかしてこの世界に来る人って全員『グローリークエスト』のキャラになるのか?」


「うん。そうだよ!」


 『グローリークエスト』では最初のキャラメイクで男性、女性の性別。

 人間と亜人――エルフ、ドワーフ、獣人などの種族が選択できた。

 そして体から顔つき、髪形や髪色、肌の色とまるでオンラインゲームのように、かなり凝ったキャラメイクができた。


「なぁ、もし俺が他の種族や女性のキャラを選んでいたら……」


「もちろんそのキャラで登録されてたよ!」


「マジか……」


 俺は主人公に自己投影するタイプだから、出来るだけ普通を選んだ。

 だけどゲーム中ではモヒカン頭にトゲトゲ鎧の世紀末みたいな格好やサイコパスみたいな恰好、可愛らしい子供の亜人のキャラもいた。

 名前だって到底名前とは言えない名前で始めている人がいたし。

 そう考えると普通で本当に良かった。

 もし世紀末の姿だったら、さっき残る選択をせずに、さっさとこの世界から帰っていたかもしれん。


「ってかシュートって名前を知ってるなら、ナビ子もアンタじゃなくてシュートって呼んでくれよ」


「いいの? 分かった。じゃあシュートって呼ぶね。これからよろしく」


「ああよろしくな」


 ナビ子は俺の人差し指を両手で持って大きく上下させる。どうやら握手のつもりらしい。

 謎も多くてちょっとイラっとしたけど……別に秘密なのはナビ子の所為じゃないし、根は素直で明るく元気な子のようだ。

 うん、仲良く出来るかもしれない。

今日の投稿は以上となります。

今後は書き溜め分が無くなるまでは毎日夜に投稿予定となります。

まったり進行となりますが、宜しければこれからもお読みいただけますと幸いです。

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