第74話 海底楽園②
マリーナとの話もほどほどに切り上げ、ネレイドの国を観光することに。
まず目についたのはネレイドの住民。
家の前で世間話をしていたり、働いていたり……子どものネレイドもいる。
それから驚いたのはネレイド以外にも生き物がいたこと。
洞窟内では一切見かけなかったのに、街中ではネレイドに混じって普通に魚が泳いでいた。
「ネレイド以外にも生き物がいるんだ」
「ええ。ただし魔石持ちは我々しかいませんが」
あくまでいるのはモンスターではなく、魚も珊瑚も普通の生き物だけ。
考えたら玉手貝の養殖もここでやれば、今回みたいなこともなくて済んだだろうに。
それだけ徹底しているってことか。
「でも海竜はいるよね?」
「……それに関しては私の口からは申し上げられません」
いや、否定しない時点でいるって肯定しているのと同義だけど。
まぁ一騎士が勝手に話していい話ではないよなぁ。
俺はそれ以上海竜に関して聞くことはせず、改めて街を見る。
……やっぱり注目を浴びてるなぁ。
働いている人も世間話をしていた人も遊んでいた子どももチラチラとこっちを見ている。
マリーナがいるから不審人物扱いは受けてないと思うけど……多分人族を見たのも初めてだろうし仕方がないと思う。
それにこっちもジロジロと見ちゃってるしね。
とりあえず俺は住民がちゃんと服を着ていてホッとする。
ネレイドには女性しかいないって話だし、そもそも服を着る文化はあるのかってちょっと不安だった。
エレーネやマリーナは騎士だから鎧を着ているが、一般人が鎧を着て生活しているわけがないから。
もし裸だったら、間違いなくナビ子の『シュートさいてー』攻撃とか鈴風の冷たい目を浴びせられるところだっただろう。
それだけならまだしも、下手したら俺だけが入場規制になることだってありえた。
ただ人族のような普通の服って感じじゃなく、ストールのような長い布。
それを胸に巻いたり、肩から羽織っている。
若干目のやり場に困るが、裸じゃないだけマシってことで。
というか胸に巻いている人はともかく、肩から掛けている人って……まぁ大事な部分は見えてないからいいけど。
……うん? 普通に泳いだり動き回っている人もいるが全然見える気配がない。
えっ!? どうなってるの? ただ肩から掛けてるだけなのに、何でそんなに鉄壁の守りなの!?
海水を吸っているからピッタリと肌に張り付いてるとか?
いやいや、見た感じ布が張り付いている様子はない……というか、濡れたようすすらない。
……あの布、何の素材でできてるんだろう?
くそっ見えたら見えたで困ることになったけど、こう中途半端に見えないのも生殺しというか、余計に見たくなるような……。
「じろじろ見ちゃって……シュートさいてー」
「きゅいてー」
「これだから男は……」
……どのみち言われることになるのか。
というか、お前らも随分と凝視していたぞ。
「でもさでもさ。人魚って貝殻ビキニとか着てそうじゃない? ちょっと期待してたのに……残念」
「ここは全裸で鱗が大事なところを隠すのが王道でしょうに」
「きゅい! やっぱ水着がさいきょー!」
……なぁ。さいてーって言われるべきなのって絶対に俺じゃないよな?
ともあれ、それを突っ込んでも倍返しされるだけ。
「俺はあの布の素材が何なのか気になっただけだ。ほら、濡れた様子がないだろ」
なので、さっきの反論だけにとどめる。
もちろん必死に鉄壁の守りを破ろうとしたのは内緒。
「そう言われればそうね」
「わたくしたちのように、魔法でコーティングしているのでは?」
「きゅう? テキトーオー?」
ふう。なんとか話題をそらせたようで何より。
でも……魔法じゃないと思う。
テキトーオーはラビットAのオリジナル魔法だし、ライファスキンとも違うと思う。
というか、そもそも使う必要ないんだし。
セレンは水圧が辛いって使うようになったけど、元々ここに住んでいるネレイドたちは最初から慣れているだろう。
「そんなに気になるならハイアナライズをしてみればいいじゃない」
「流石に許可なく勝手にはさ」
せっかく友好的な感じになりつつあるのに無許可で鑑定して印象悪くなりたくない。
というか、どこぞのギルド職員じゃないんだから、敵対者じゃない限り勝手に鑑定なんかしないっての。
「ってことで、鑑定していい?」
なのでマリーナに聞いて許可をもらうことにした。
「……鑑定は後ほど未使用品をお見せしますので、その際にお願いします」
若干引き気味でマリーナが答える。
……もしかしてセクハラと思われた?
まぁあんだけ凝視してたらなぁ。
いや、きっとさっきのナビ子と鈴風のセクハラ発言のせいに違いない。
でも後ででも鑑定していいのなら問題はない。
それどころか未使用ならカードにしても……というか、交渉次第では貰えたりするかも。
「ちなみにあの布は海を織って作った布になります」
「「海を織った!?」」
海を織るって……どういうこと?
どう見たって普通の……濡れてないから普通とはいい難いが、透明でもないし、ちゃんと存在している。
「そのままの意味ですが……もしかして人族には海を織る技術はないのですか?」
「ないない」
少なくともアクアパッツァにはなかった。
ネレイドだけの技術なのか、他の人魚とか魚人にも使われている技術なのか。
「なるほど。これがあの水の羽衣ですか」
何があのなのか。まだあのゲームのネタを引っ張ってるのか?
でもまぁ確かに水の羽衣と言えなくもないか。
「ちなみにこの技術って教えてもらえたりは?」
「……鑑定も含めて女王にご相談ください」
さっきは後で鑑定していいって言ったのに……俺たちの表情から漏らしちゃ駄目な技術かもと思われたかな?
この技術を教えてもらえるなら、玉手貝の素材を返すと言ったら教えてくれないかな?
それにしても……この様子ならまだまだ俺たちの知らない技術がたくさんありそう。
ネレイドの国の観光……俄然楽しくなってきた。




