第72話 知識の書
あなたが神か!?
突然そんなことを言い出した人魚リーダー。
先程までの敵意はどこへやら。
今の人魚リーダーの目には俺への敵意は全く見当たらず。
むしろキラキラと何かを期待する目。
「ね、ねぇシュート。どういうこと?」
「お、俺に聞くなよ」
ナビ子が俺の耳元までやってきて囁いたので、俺も口元を隠してナビ子に答える。
いやほんと。
人魚リーダーがこうなったのは間違いなく図鑑のせいだと思うけど……。
「……神?」
俺が返答しなかったのかもう一度言う人魚リーダー。
「……いや、違うけど」
よく分からんが、とりあえずそれだけは答える。
「シュート。そこは、はいと即答しなくては新世界の神にはなれませんよ」
いや、新世界の神とかどうでもいいし。
と、どこまでもネタに走ろうとする鈴風に若干イラ付きつつも、この状況をどうにかしないとと思い、人魚リーダーに話を聞くことにする。
「え~っと。俺は神じゃないけど……何で俺が神だと?」
「神は神ではないのでありますか?」
「うん。だからね、とりあえず神呼びを辞めてほしいんだけど?」
「ですが、知識の書を持っておられるのは神だけではありませぬか」
どうやらこの図鑑が神の持っている知識の書って言うのだと思っているようだけど……。
「ナビ子ナビ子。この図鑑って知識の書って名前なの?」
「そんなのアタイが知るわけないじゃない」
ナビ子が知らなかったら誰が知ってるんだよと。
「というかシュート。図鑑をカードにしてたじゃない」
そうだ。盗難対策で図鑑をカードにしていたけど、その際はモンスター図鑑とかアイテム図鑑としか出てなかった。
ってことで、例によって人魚リーダーの勘違いなのだろうが……ん?
よく考えたら、これ素直に人魚リーダーに話す必要はないよな?
せっかく敵意がなくなったわけだし、このまま勘違いしてもらってた方がいいよな。
このまま勘違いされた状態で、何の遺恨もなく別れられれば。
――と、そう思っていたんだが。
「なんと!? 御使い殿は人族でありましたか。我はてっきりサハギンだとばかり……ですが、御使い殿も早く言って下されれば我も恥をかかずに済みましたのに」
「あーうん。ずっと言ってたはずなんだけどね」
「おや? そうでありましたか。いやぁ……お恥ずかしいことに、実は我、早とちりが多いと母上にもよく叱られておりまして」
「……うん。知ってる」
大体最初から何度勘違いしているのかと。
それに今も勘違いしてるし。
何なんだよ御使いって。
「ねぇシュート。本当にこのまま付いてくの?」
「……仕方ないだろ。話が通じないんだし」
本当、どうしてこうなったのか。
あの場で人魚たちと別れるつもりだったのだが……現在、俺たちは今人魚リーダーと一緒に洞窟の奥――人魚の国へと向かっていた。
人魚リーダー……道中、名前を聞いたところ、この人魚リーダーはネレイド姫騎士のエレーネと言う名前らしい。
このエレーネが是非とも神を我が国に招待したいと言い始めた。
もちろん俺とナビ子は断ったよ。
正直人魚の国には興味があったけど……下手に一緒に行動してボロが出たりしたら、また敵対しそうだし。
でもさ。断ろうにもエレーネお得意の勘違いが発動。
「ささっ遠慮せずに」
と、断っているのは遠慮しているからってことになった。
それに鈴風はエレーネのことが気に入ったようで……ネタ的な意味でだが。
ついでにエレーネの言葉が分からないラビットAに人魚の国に行こうと吹き込んで鈴風側に。
まぁ仮に無理に逃げようものなら、さっきとは別の意味で追いかけてこられないから、最終的には付いていくって選択肢しかなかったんだろうけど。
ただそれならそれで神呼ばわりは流石に……ってことで、その部分だけハッキリと訂正。
ついでにサハギンじゃないことも説明したのがさっきのあれ。
サハギンじゃないことは理解してもらったが、神に関しては……神ではないのなら神の御使いだと。
知識の書を持っているのは神の関係者だから間違いないと。
そう解釈されてしまった。
「エレーネは何で知識の書のことを知っている?」
こうなったらと開き直って知識の書の話を聞いておきたい。
どうやら図鑑と知識の書が瓜二つなのは間違いないみたいだし。
「我は母上から聞いたのであります。知識の書は神の書物だと」
「その母上ってのは……」
「ネレイド女王。我が国を治めている女王あります」
ネレイドクイーンか。
なら女王に聞けば詳しいことが分かるかな?
エレーネじゃまた早とちりしそうだし。
母親は早とちりをエレーネを叱っているって言うことらしいし、エレーネみたいに勘違いするような人じゃないだろう。
それから俺はエレーネからネレイドの国について当たり障りのない話をしながら洞窟を進んでいった。




