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第69話 接触

「ほぉ。シュートもあのゲームを知ってましたか」

「そりゃあ国民的に大ヒットなゲームだし……何よりモンスターを仲間にできるシステムはコレクターとして見過ごせないだろ」


 当然、仲間にできるモンスターは全種集めた。

 もちろん改造や裏技なんかは使わないから……一番確率の低いモンスターを仲間にするまでに一週間はかかったなぁ。


「ちなみにわたくしは黒髪のお嬢様を嫁に選びましたが、シュートは誰を選びました?」

「ほう。それを聞いてくるか。俺は青髪のお嬢様一筋だったな」


 嫁論争は荒れる原因なのに……というか、鈴風はあのわがままな黒髪のお嬢様かよ。

 ……そういえばわがままな部分はちょっと似ているかも。


 ちなみに俺は初期版から全ての移植版をプレイしたけど、全部青髪のお嬢様一筋。

 他の嫁を選ぶなんてありえないよなぁ?


 それからしばらくの間、鈴風とそれぞれの嫁について熱く語ったわけだが……当然、自分の嫁自慢だけに留まることはなく嫁論争が始まるわけで。


「ふっ。黒髪お嬢様を選ばないとは……シュートは分かってないですね」

「はぁ!? 黒髪のお嬢様なんて三回目の移植以降でしか登場しない一番マイナーな娘じゃないか。そっちこそ青髪お嬢様の良さを全く分かってないようだな」

「なっ!? 確かに移植版にしかいないので不遇扱いを受けておりますが、そちらこそ元々金しか取り柄がないと言われて、その金すら黒髪お嬢様の登場で立場を失っただけではありませんか」

「か、金しか取り柄が!? 確かにそう言われることはあったけど、俺は金目当てで選んでたわけじゃねーよ!」

「ふっどうだか。そもそもシュートがコレクターと言うのであれば、尚更黒髪お嬢様を選ぶべきでは? 黒髪お嬢様の初期装備は一点物ですよ?」

「くっ……痛いところを……だが、俺はそれでも愛を貫く!」


 確かに最初にそれを知った時は心が揺れたさ。

 コレクターとしては黒髪お嬢様を選べと……だが、俺に青髪お嬢様を裏切ることはできなかった。


「それより鈴風こそ、限定アイテムで釣るくらいしか黒髪お嬢様の良さがないんだろ?」

「はぁ!? 喧嘩売ってます?」

「そっちこそ」


 俺と鈴風は互いに睨み合う。


「アンタらいい加減にしなさいよ!!」

「あたっ!?」


 そのままリアルファイトに発展しそうだったところで、ナビ子キックが俺の後頭部を直撃する。


「アンタら今の状況分かってんの?」

「そりゃあ嫁論争に終止符を……」

「王道の金髪幼馴染みがいないのに、嫁論争が終わるわけないでしょうが!」


 あーうん。そりゃ尤もな意見だが。

 俺としては電子妖精だったナビ子がこのゲームのネタを知ってることに驚きなんだが……ナビ子を作った運営のデータでも入ってたのか?


「だいたいね。今までずっと鈴風と戦うのを逃げてたのに、何でこんなことでガチバトルをしようとしてんのさ」

「いやぁ、男にはどうしても譲れんものがあるんだよ」

「格好よく言ったつもりかもしんないけど、それ、二次元の女の話なのよね。他の女のために命かけてたってアザレアに言いつけちゃうよ?」

「いや、それは話が変わってくると思うんだが……」


 別にやましい気持ちはないし、アザレアにバレても問題はないし、そもそも関係ないんだけどさ。


「というか、俺と鈴風のリアルファイトを止めようとしたわけじゃないんだろ?」


 俺の言葉にナビ子がハッと我に返る。


「そうよ! そもそも何でアンタらはこの状況でのんびり嫁論争をしてるのかって話なのよ!」

「だって……とりあえずこのまま進むって話になっただろ」


 俺は流れていく風景を横目につぶやく。


 ラビットAが魔力を注いだことで動き出したトロッコ。

 もちろん最初は慌てて止めようとしたよ。

 でも……止めようにも止め方が分からなかった。

 いや、一応ブレーキらしきものはあったんだけど、壊れているのか全然止まる気配はなし。

 多分ラビットAが魔力を注ぎすぎたことで暴走しているからだと思う。


 止まらないならどうするか?

 とりあえずトロッコから飛び降りる……ちなみにこのトロッコ、水の抵抗を受けずに移動できるとあって、魔力を注いだ瞬間、ぶくぶくハウスのように魔力のコーティングで包まれている。

 しかも、中の荷物がこぼれ落ちないようにか防御魔法のように固く……飛び降りようとコーティングを破壊したらその時点でトロッコが壊れてしまいそうだ。

 壊れるとしてもバラバラに分解するならともかく、注いだ魔力が暴走して爆発する可能性もあるとのこと。

 なので飛び降りる選択肢は却下。


 次に……トロッコの原動力である海竜石を取る。

 当然というか、これもトロッコが爆発する可能性がある。

 むしろコーティングを破壊するパターンよりも爆発する可能性が高い。

 本当なら、海竜石を取ってカードにしたいんだけどね。

 取らないとカードにできないし、取ったら爆発なら諦めるしかない。

 というわけで、これも却下。


 最後に……既にトロッコはカードにしているから、返還(リターン)すりゃ一瞬でこのトロッコはカードに戻り。

 俺たちはここに取り残されるってわけだ。

 まぁ暴走を止めるならこれ一択なわけで。


 でも、この考えまでに数分は経過しているわけで。

 となれば、暴走トロッコは結構進んでいるわけで。

 ここで降りてトロッコを元の位置に戻しに帰るのもなぁと。


 じゃあいっそのこと、終点まで行っちゃえと。

 そういうことである。

 ちなみにラビットAは勝手に魔力を注いだ罰として正面の見張り。

『きゅって、てんくーじょー見たかったもー』

 と愚痴っていたが……行き着く先は人魚のアジトで天空城じゃないだろと。

 俺たちは何のためにここにいるのかすら忘れた罰ってことだな。


 あと外の偵察に行かせたリコたちは返還(リターン)にて回収済み。

 リコたちの話によると、外は巨大モンスターの海域だったとのこと。

 ただ俺たちがいた場所とは結構離れていたらしいが。


 おそらくこのトロッコって、人魚たちが狩った巨大モンスターをアジトに運搬するための物だったんじゃないかと。


 と、やることは終わったし、せめてさっきの分岐点くらいまでは落ち着いても……って世間話がさっきの嫁論争なわけで。

 まぁちょっと熱くなってしまったが。


「いくらなんでものんびりしすぎ! もうちょっと周りに気を配りなさい。もうさっきの分岐点を過ぎちゃってるわよ」

「えっ!? もう?」

「ガチバトルをしようとするくらい話し込んでて、もう……じゃないでしょうが!?」


 どうやら俺たちは思った以上に嫁論争について熱く語りあっていたようだ。


「ってことは、そろそろトロッコをカードに戻して……」

「きゅい! シュート。人魚がいっぱー!」

「なにいいい!?」


 ちゃんと正面の見張りをしていたラビットAが叫ぶ。

 その言葉に思わず振り向いて正面を見ると……灯りとともに、この先には絶対に行かせんとばかりに侵入を防ぐためのバリケード。

 その影に隠れて槍やら盾やら完全武装をしている複数の人魚。

 隠れて見えない部分にも多くの人魚がいるのだろう。


 やはり俺たちが来るってことを知って待ち構えていたようだが……向こうもこっちを見て驚いている様子。


 ――そりゃ、向こうもトロッコに乗ってやって来るのは予想外だったろうなぁ。


 きっと分岐点から歩いてこっちに来ると思ってただろうから……。


 一人の人魚がこちらに向かって叫ぶ。


「ト、トマレ!」


 片言っぽい口調だったが、ハッキリ止まれと聞こえた。

 良かった。言語翻訳スキルが効いているみたいで言葉は通じそうだ。


 ただ……この状況。


「しゅ、シュート。どうしよう」


 うん。どうしようか。

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