第68話 線路
隠された入口から人魚のアジトを目指して海底洞窟を進もうとするも、探知系スキルが使えないと早速問題発生。
まぁ妨害されるかも……と考えていたので、それ自体はそこまで驚きではなかったものの、問題はその原因が人為的なものではなさそうということ。
似たような状況としては以前行ったブルームが思い起こされる。
あの時はサテラが設置した魔素発生装置による魔素の飽和が原因だった。
流石に今回は魔素発生装置は関係ないだろうし……そもそも魔素の飽和も起こっていない。
「魔素が原因じゃなくても、土地柄の問題でスキルが効きにくいってこともあるみたいよ。ほら、火山や樹海でコンパスが狂ったりするみたいに」
あ~確かに樹海とか火山とかでコンパスが狂うってのは聞いたことあるな。
それがスキルでも発生したと。
グリムは火山エネルギーを吸収しながら生活していたので、ここに海竜がいるならおかしくはないか。
とりあえず現状使えないスキルは探知とかの周囲を探るスキルだけ。
魔法は普通に使えるし、俺のカード化や鈴風の疾風迅雷に影響はないから戦闘に関しては問題ない。
ってことで、頼りになるのは先頭のラビットA。
千里眼は封じられているみたいだが、第六感で問題ないようなので、ラビットAの勘で罠や分かれ道を判断してもらおう。
「きゅきゅるるるん」
「……それでも鼻歌交じりなんだな」
スキルが使えないと分かっても変わらず鼻歌交じりに先頭を歩くラビットA。
まぁそれがラビットAらしいっちゃらしいが。
滑り台のような狭い下り坂の一本道をしばらく歩くと、やがて分かれ道に出る。
きれいに左右に分岐しているので、いわゆるT字路で俺たちが進んでいた道は側道側。
本道と思われる左右の道は今までの一本道と違いかなり広い。
俺たちから見て右側が上り坂で左側が下り坂。
さっきまでの滑り台みたいな坂に比べると緩やかな坂とはいえ……まだ下に下がるのか。
ただそれ以上に驚くべきものが本道にある。
もちろん俺だけじゃなく鈴風やナビ子も驚いている。
その中でただ一人、それが何か知らないラビットAだけが首をひねる。
「きゅむ~? これなーに?」
「レール……かなぁ?」
「線路……よね。これ」
そう。俺たちの目の前には列車に使う線路が敷かれていた。
「いやいやいや。あり得ないだろ!? 何でこんな所に線路があるんだよ!?」
「……廃線?」
いや、それ以前にここに線路がある事自体があり得ないんだって。
「きゅう? シュート。何に使うの? すべり台?」
……ラビットAにはこれが滑り台に見えるのか。
「滑り台じゃなく……列車の道と言えばいいのか?」
「れっしゃ!? れっしゃがあるの!?」
ラビットAが目を輝かせる。
結局、魔導列車には乗れなかったからなぁ。
すごく興味があるんだろう。
「この線路……海底なのに錆びてません。現在も稼働中のようです」
鈴風が確認しながら言う。
当然のことだが、この洞窟の中も海水で満たされているから、錆びてないってことは、特殊な素材かコーティングがされていると。
「……この線路。カード化できないかな?」
「アンタ……止めときなさい」
ナビ子が呆れながら俺を止める。
まぁ俺も本気でカードにしようとは思ってないけどさ。
仮にカードにできたとしても、レール部分だけなのか線路全体か分からないし。
レール部分だけだと、意味なさそうだし、線路に戻そうとしても上手く嵌まらず脱線しそうだし。
レールじゃなく線路全体がカードになろうものなら、もう完全に元に戻すことはできない。
残念だけど諦めるしかない。
でも一応ハイアナライズ……と。
――――
軌条【道具】レア度:☆☆
海水対策が施されたレール。
――――
線路じゃなく、レール部分のみの結果になった。
ってことは、カード化してもレール部分のみと。
素材も分からないが、錆びないような対策はされていると。
「これってやっぱり人魚が使ってるってことだよな?」
「そりゃそうでしょ。人族がここで使ってたら驚きよ」
だよなぁ。
まさか人族がここで線路と貨車を作ったとは考えられないし。
そもそも帝都で魔導列車が稼働し始めたのがここ50年の間。
こんなところに線路を設置するくらいなら、とっくにライラネートまで引っ張ってるはず。
そもそも人族と交流があるって話ならもっと話題になってもおかしくない。
なので、この線路は人魚だけでやりくりしているということで……だとしたら人魚の文明って想像以上なんじゃ?
「それで……どっち行く?」
俺が悩んでいるとナビ子がそう問いかけてくる。
そうだな。
今は線路のことよりもどっちに進むか。
当然、本命は下り坂になっている左。
ここまで下ってきて、また地上に戻るような場所にアジトがあるとは思えないし。
……上り坂はここだけで、すぐに下り坂になる可能性は残っているけど。
「きゅいっ! こっちのほーがあやしー!」
第六感が働いたラビットAが左側を指したので間違いない。
ただ……右も気になるよなぁ。
なにせ線路で繋がってるし。
人魚のアジトと繋がっている先はどこだろうかと。
もしかしたら海竜の住処とか?
……海竜だったら左が住処で右が人魚のアジトっぽい気もするが。
「一旦右に行ってみないか?」
本命とは別と言え、気になるものは気になる。
「きゅむむ。左のほーがあやしーのに」
「別に左に行かないとは行ってない。それに怪しい方を後回しにするのは当然だろ?」
「きゅるほど」
うん、チョロい。
まぁ本当に後で左には行くんだろうけど。
鈴風やナビ子も右に行くことに反対はないようなので、右に進むことに。
「この広さならジャックを出しても問題なさそうですね」
「あっ、なら俺もジェット君を出そうかな」
さっきまでは片側車線専用のトンネルくらいの大きさだったが、この本道は二車線以上のトンネルの大きさ。
まぁもし正面から列車が来たら正面衝突は免れないけど。
もし列車を視認したらすぐにジェット君をカードに戻して、避けれるようにスピードを抑えながら移動。
――二時間後。
緩やかな上り坂だったのは
たどり着いた場所は最初に入った入口とは別の入口。
そして線路の終着点に列車……というか。
「トロッコ?」
「列車じゃなかったね」
線路の上に乗っていたのは列車じゃなく、鉱山とかにありそうな箱型のボロっちい貨物用トロッコ。
なるほど。ここから人魚のアジトまで何かを運ぶための線路だったか。
ってことは、気になるのは洞窟じゃなくて外。
「ここは……どの辺だろう?」
「結構移動したよね」
最初に結構下って、そのあと緩やかな上り坂。
高低差は元に戻ったくらいか?
距離は……結構進んだと思う。
「……ちょっと周辺の探索をしてきてくれ」
俺はリコたちに命じて外の様子を確認してもらう。
その間に俺はトロッコを調べることにする。
「変化」
「ちょおおっと。なに躊躇せずにカードにしてんのさ!?」
俺が有無を言わさずにトロッコをカードにしたことで、ナビ子が驚きながら俺にキックする。
「大丈夫だって。ちゃんと後で元に戻すから」
線路と違い、トロッコはカードにしても定位置に戻せるから、後で解除すれば何の問題もない。
俺はアイテム図鑑を開いてトロッコの詳細を確認。
――――
魔貨車【運搬車】レア度:☆☆☆☆
竜の魔力が宿った貨車。
魔力を注ぐことで水の抵抗を受けずに移動する。
――――
俺は慌ててカードにしたばかりのトロッコを線路の上に戻す。
外側はボロっちいトロッコにしか見えないが……。
そこにラビットAがピョンとトロッコに飛び乗る。
「おっおい。いきなり乗るなよ」
「いきなりカードにしたシュートが言えることじゃないけどね」
……ごもっとも。
まぁカードにして大丈夫だったから、乗っても大丈夫だろ。
「シュート。ここ、ここ」
とりあえずラビットAが見つけたものを確認するとハンドル部分に加工された海竜石のような物が嵌め込まれている。
この石だけをカードにしたいが……流石に外して取り返しにならないことになったら大変だから、そこまではできない。
「この石に魔力を注ぐと動くのか」
「多分、注ぐ魔力量によって移動スピードが変わりそうね」
なるほど。
例えば俺が魔力を注いでも大したスピードは出ないが、ラビットAが注げばかなりのスピードが出そうだ。
「……わたくし。トロッコになんて初めて乗ります」
俺たちに続き鈴風もトロッコに乗ってきた。
「俺もトロッコになんて乗ったことね―よ」
そもそも日本でトロッコに乗る機会なんてないだろと。
まぁ遊園地とかで似たようなものはあるかもだが。
「そういえば、洞窟内でトロッコに乗ると辿り着く先は海底に沈んだ天空城だという噂が……」
「きゅんと!?」
いや、それは噂でも何でもなく、ただのゲームの話だ。
ったく。先日の海洋テーマパークの話といい、鈴風ってたまにネタに走るよな。
だがそのネタを真に受けた人物が一人。
「きゅっきゅいー! てんくーじょーにしゅっぱつー」
「ちょっ、ラビットA。やめ……」
眼をキラキラと輝かせたラビットAが海竜石に魔力を込め……膨大な魔力を吸収したトロッコが猛スピードで発進した。




