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第67話 海底洞窟

「おかしい。何故やってこない!?」


 人魚のアジト前で様子を見ていたのだが、結局一夜明けても一人の人魚が顔を出すことはなかった。


「暗いし……アンタたち、殆ど遊んでたから、見逃したんじゃない?」

「いやいやそれは……」


 ナビ子の言葉を否定しようとして……口ごもる。

 ここは深海だから周囲は暗い上に、一応潜んでいるからライトの魔法も使っていない。

 その上、暇つぶしとしてラビットAは海竜石拾い、鈴風は武器の手入れ、俺は……カードのメンテナンス(コレクション観賞)


 ……あれぇ?

 もしかして本当に見逃した?


「ったく。アタイとムサシ、それとセレンたちがちゃんと見張ってたから大丈夫よ」

「何だよ。驚かすなよ……ごめんなさい」


 軽口を叩こうとしてナビ子に睨まれたので謝る。

 ここは素直に反省だな。


「しかし、結局ナビ子たちが見張ってても誰も出てこなかったんだろ?」

「そうだね。流石に外に出てきたら探知も働くだろうし……」


 中の様子は妨害されて分からないが、流石に外に出てきた人魚の姿を探知できなかったってのは考えにくい。

 もし不可視系の上位スキルを持っていれば話は変わってくるが……ラビットAの話じゃ普通に姿は見せていたようだし、それは考えにくい。

 ってことで、本当にあの入口から人魚の出入りはなかったということ。


 これは……俺たちのことはバレてないのか。

 それとも用心深くアジトから一歩も出ないだけなのか。

 う~ん。なんだか余計分からなくなった気がする。


 ただ出てこなかったのなら仕方がない。

 こっちから中へ入っていくしかない。

 このまま知らんぷりをして離れるという選択肢はないんだから。


「きゅふふ。たのしみー」

「ええ。とても……」


 今か今かと待ち望んでいるラビットAと鈴風。

 これ以上、この二人をこのまま待機させておくことはできない。


 一応口を酸っぱくして、こちらから人魚と海竜に危害を加えるなとは言ってあるが……この二人が暴走しないかだけが心配だよ。


「きゅい。じゃー入るよー」


 先頭はラビットA。

 乗り物兼サポートにコールと一緒に中に入る。


 もちろんラビットAが先頭なのは理由がある。

 外から察知や探知が通用しないなら、中でも通用しないんじゃないかと。

 そんな場所に俺や鈴風が先頭で入って……罠や不意打ちがあったら取り返しがつかなくなる可能性がある。

 ……まぁ鈴風なら大丈夫かもしれないが。


 その点、ラビットAならカードモンスターだから、万が一のことがあっても大丈夫。

 それに……察知や探知が通用しなくても、第六感スキルなら、発見はできなくても勘で危険は避けれそうだ。


 ちなみに超感覚スキル持ちのセレンでも似たようなことができそうだが……セレンが先頭だと人質を盾にして……とか人魚に変な勘ぐりを受けそう。

 ってことで、セレンは最後尾の予定。

 ……別に後ろからの不意打ちを無くすためじゃないぞ。


「きゅい! だいじょーぶそー」


 中に入ったラビットAが頭だけピョコッと飛び出てくる。

 いくら愛くるしいラビットAでも首だけ岩から生えているような状態だとちょっと不気味だ。


「中はどうなってるんだ?」

「きゅっとね。ダンジョンみたい。滑り台みたーに下り坂が続いてるー」

「人魚は?」

「どこにもいなーい」


 もしかしたら中で待っているかも……って可能性も考えていたが、どうやら人魚の姿はどこにもないらしい。

 にしても……ダンジョンか。

 まぁ俺も人魚のアジトがすぐそこにあるとは思ってなかったけど。

 だってそんな空間どこにもないし。

 ただ……俺の予想よりもかなり遠い可能性はあるな。


 ともあれ、とりあえず中に入っても大丈夫そうなので、ラビットAに続くことにする。

 ラビットAに続いて二番手は鈴風。


「……ジャック。戻ってなさい」


 中に入ろうとした鈴風がジャックをカードに戻す。

 ラビットAはコールに乗ったまま入れたけど、ジャックの大きさだと中に入れないようだ。

 ってことは、俺もジェット君に乗っての移動は無理そうかな。


 鈴風が岩に吸い込まれるように姿が消える。

 よし、次は俺の番か。


 入口に近づいて確認するも……見た目は完全に岩。

 継ぎ目はおろか違和感もなにもない。


「う~ん。こりゃ、ラビットAが居なかったら完全に気づかなかったな」

「本当、ここに入口が隠されているなんて信じられない」


 ただここに入口があるのは事実。


「おおっ!?」


 試しに手を突っ込んでみると、抵抗なくそのまま岩に手が埋まる。


「これ、手の先に鈴風のお尻があって鷲掴みしちゃったりして」

「……怖いこと言うなよ」


 俺は慌てて手を引っ込める。

 そのイベントはラッキースケベじゃなく、死亡フラグにしかならない。


 そのままもう少し入口を観察。


「あ~なるほど。こりゃジェット君は無理だ」


 どうやら入口の大きさは俺の身長より少し小さい……直径1,5メートルくらい。

 ジェット君やジャックじゃ入れそうもない。


「……中はどうだろうね?」

「入ってみよう」


 ……いくらぶつからないと言っても、見た目は大岩。

 あいつらよく普通に突っ込めるよな。

 俺は入口の縁に手を置き、居酒屋の暖簾から中を伺うような感じでそっと入った。


「うわっ眩しっ!?」


 さっきまで暗闇だったから、突然の明るさに思わず目をつぶる。


「……ラビットAのライトか」

「きゅい。暗かったからー」


 ゆっくり目を開けて確認すると……どうやらラビットAがライトの魔法で中を照らしていたようだ。

 中の様子を確認するには必要だったろうから、文句はないが……一言教えて欲しかったな。


「へぇ……中はこんななのか」


 改めて中を確認してみる。

 ラビットAの言ったように、中はダンジョンっぽい感じ。

 下り坂になっており……巨大な滑り台といえなくもない。


「……ジェット君は無理そうだな」


 ダンジョン内の広さは一方通行のトンネルくらいの広さ。

 乗って移動は出来なくもないが、Uターンとか小回りはできなさそう。

 ってことでジェット君にはカードに戻ってもらった。


「マスター。おまたせしました」


 最後にセレンとリコたちカーバンクルがやって来たので、出発することにする。


「きゅふふ~ん」

「おい、ラビットA。もっと用心深くだなぁ」

「きゅむ~。わかってるもー!」


 いやいや、分かってるって言ってるけどさ。

 緊張感が足りないと言うか……先頭が鼻歌交じりってどうよ。


「まぁまぁ。ああ見えてラビットAはシッカリしてるから」

「そうかもしれないけど……それよりナビ子。スキルはどうだ?」

「う~ん。やっぱり探知は無理そう」

「……そっか」

「ただ……何となく変な感じ」

「どういうことだ?」

「う~んと、上手く言えないんだけど、人為的じゃなくて……この地が妨害しているような?」


 ナビ子自身も感覚的な感じでよく分かっていないらしい。

 ……が、人為的じゃないって方が、面倒そうだと思うのは気のせいだろうか?

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