第65話 人魚のアジトへ
人魚の目的が俺たちではなく、玉手貝だったことが判明。
まぁこれも予想であって確定ではないのだが。
ただラビットAのなんちゃって推理よりは当たっていると思う。
ともあれ、狙われていようがいまいが、やることは変わらず。
現在俺たちはラビットAの案内で人魚のアジトへと向かっていた。
移動中、ナビ子が呆れたように呟く。
「絶対に厄介ごとにしかならないわよ」
そりゃ俺だって厄介なことになるとは思ってるよ。
まだラビットAの推理が確実に外れているとは限らないわけだし。
たとえ外れていたとしても、人魚たちの目的だった玉手貝を全滅させたのは俺たちなのだから、それがバレたら終わりだし。
そもそも、アジトに戻る時に大型モンスターと戦っていた俺たちを認識していたようだし。
存在は知られているわけで。
触らぬ何とかじゃないけど、近づかないようにするのが一番だと思う。
「……けどさ、やっぱ人魚が暮らしている場所に行ってみたいじゃないか」
「そりゃ興味はあるけど」
「だろ?」
こればっかりはもう仕方がないというか。
安全をとって逃げたりしたら何のために海に入ったのって話だ。
「それに……今後のことを考えると接触していた方が精神的にもいいと思うんだ」
既に俺たちの存在が知られているってことはだ。
人魚の方からアプローチがある可能性があるわけで。
というか、少しでも危険がありそうなら野放しにはしないわけで。
少なくとも調査はするはず。
遠くから見張られるだけなのか、襲われるのかは分からないが。
それを気にして海の旅を続けるのは……。
もちろん一旦帰るって選択肢はない。
まだ一日しか経ってないのに、もう帰るのは……ねぇ。
「まぁこっちにはセレンもいるわけだし。セレンに仲介してもらえば、友好的な関係が結べるんじゃないかなと」
「……アタイはセレンの存在が一番の厄介事だと思ってるんだけど」
「ん? どういうことだ?」
人魚たちがセレンと同じ種族かは分かっていないが、ラビットAの話だとそっくりらしいし、そのセレンが敵じゃないと言えば友好的になってくれるんじゃ?
「ほら。シュートって人間じゃない。その人間がセレンをこき使ってるのを見てさ。人魚たちはどう思う? 同族を奴隷扱いしてとか怒らない?」
「いや、奴隷じゃないし。そもそもそんなにこき使ってるわけでもない気が……」
人魚側から見ればそれは分からんからなぁ。
……一気に不安になってきたぞ。
「まっそれでも行くんだけどな」
「そうでしょうね」
さっきも思ったが、既に俺たちの存在が知られているんなら、見張られる可能性が高いわけで。
そこで俺がセレンに命令してたりすれば……それこそナビ子の予想通りの結果になりかねない。
それならやっぱりこっちから接触するべき。
セレンで敵対心をもたれるのなら、その誤解を解けばいいだけ。
そんな風に俺とナビ子が人魚との関係に悩んでいると鈴風が横から口を挟む。
「何を悩むのです? 敵対するのであれば全滅させればいいではありませんか」
「「いやいやいや」」
俺とナビ子は即座に否定する。
なんて物騒なことを言うんだ。
「言っとくが、俺は人魚と戦うつもりは全く無いからな」
そこに社会があって意思疎通が出来るのであれば、たとえモンスターであれ殺すようなことはしたくない。
もちろんゴブリンのように人に害をなすなら話は別だけど。
実際にブルームに住んでいるコボルトには手を出してないし。
まぁコボルトはグリムの世話係ってのもあるが。
仮に世話係じゃなかったとしても、それを知る前にマグマゴーレムから助けたし、敵対はしなかっただろう。
しかも今回は相手が人魚。
半分人間の姿をしているなら尚更戦いたくない。
というか人魚はモンスター扱いでいいのか?
一応セレンは種族的には魔族だし。
でも妖精や精霊も登録されるし……広義的にはモンスターなのだろう。
「ではシュートは人魚のカードは欲しくないと」
「いや、欲しいよ。欲しいけど……すっごく欲しいけど。欲しいけどさ」
「何回言うのよ」
それだけ欲しいってことだよ。
でも、だからって人魚を全滅させてカードが欲しいってわけではない。
……カードは欲しいけどさ!
「コレクターはコレクションに誠実でなければならないんだ」
「でた、シュートの謎ルール」
謎ルールって……普通のことしか言ってないと思うけど。
コレクションを集める時は正々堂々と。
盗んだり騙し取ったりはご法度。
今回でいうと、自分のコレクションのために意思疎通できるかもしれない人魚を全滅させるというのは強盗となんら変わりない。
人魚を殺してカードにする時は……本当にどうしようもないくらい敵対して、こちらの命が危うい場合だけ。
まぁその時は殺さずに地上に逃げ帰るだけだけど。
もしそれが原因で人魚が人間世界に戦争を……とかなりそうな時は……うん。その時考えよう。
「人魚のカードに関しては魔石を貰えないか交渉することにするよ」
寿命や事故で死んだ人魚の魔石とかが余ってたりすれば可能性はあるかも。
コボルトもそうだったけど、モンスターにはあまり故人の遺品を大切にするような風習はないみたいだし。
まぁ魔石が消滅せずに残っている状況はないかもだけど。
交渉自体は玉手貝でなんとか……箱か貝肉か真珠となら交換可能だし。
その場合は犯人だって自白することになるけど。
「だから鈴風も絶対に人魚に危害を加えようとするなよ」
「……わかりました」
う~ん。本当に分かったかどうか不安だが。
まぁ全ては人魚に会ってからってことだな。
****
「きゅっきゅいー! とーちゃく!」
ラビットAに案内されること二時間。
巨大モンスターの海域を抜け、シーモンキーやフライングレイがいた集団モンスターの海域も一気に抜け。
アクアパッツァから30~50キロの弱いモンスターしかいないとされている海域。
そこの海底までやってきた。
「かなり遠かったな」
距離にして大体40~50キロくらい移動。
俺たちはジェット君たちに乗っての移動だけど、人魚たちって自分で泳いでの移動だろ?
地上で言えばフルマラソンとかのレベルじゃないの?
「ラビットAもよく往復できたね」
「きゅううん。帰りはテレポートで野営地に戻ったの」
なるほど。野営地をテレポート登録していたってわけか。
「というか、海中でテレポートできるなら、この場所をテレポート登録すれば、移動する必要なかったんじゃ……」
「きゅがうの! テレポートしたら、場所がわかんなくなるでしょ!」
俺の言葉にラビットAは心外だとばかりに反論する。
どうやらテレポート登録はしていたようだが、あの場所からいきなりテレポートでここに来ると、位置の把握が難しいだろうとのラビットAの配慮だったようだ。
……まぁ確かにいきなりこの場所に移動したら、ここどこ? ってなっちゃうよなぁ。
俺は辺りを見渡す。
……周囲には人魚はおろか、他の生き物もいない。
あるのはゴツゴツとした岩場のみ。
アジトどころか住んでいる気配もない。
「……本当にここが?」
「きゅい! これの奥に入口があるの」
ラビットAが一際大きな岩をペシペシと叩く。
デカい。もはや岩ではなく山とも言えそうな巨大な岩の……奥?
「その岩を……どかすってこと?」
「きゅしし。実はこれ、ここだけ偽物なの」
ラビットAはそう言うと……触っている部分の腕がズブズブと岩に埋まる。
「えっ!? マジで!?」
「うそっ!? アタイも気づかなかったよ!?」
「わたくしも……ただの岩かと」
試しに俺も岩に触ってみるが……俺が触っている部分はゴツゴツとした普通の岩。
どうやらラビットAが触っている部分だけが偽物のようだ。
「……俺の看破以上?」
「アタイの探知でも普通の岩で、奥に何かあるなんて分かんないよ」
「セッシャも同様でござる」
「わたくしの精神統一でも気づきませんでした」
「すいません。アタクシの超直感も何の反応もありません」
「きゅい~。人魚が中に入らなかったら気づかなかったー」
驚くべきことに全員の看破能力を防ぐレベルの偽装能力。
セレンや鈴風の星5スキルですら気づかないってことは少なくとも星5以上の……しかもかなりの高レベルの能力。
更にナビ子とムサシの探知能力で岩の奥も探れないってことは、偽装に加えジャミング系の能力も備わっているとみていいだろう。
魔法かスキルかは分からないが……俺の想像以上に人魚はヤバい集団なのかもしれない。
そんな状況で更に爆弾を落とすラビットA。
「きゅい! シュート。これあげる!」
ラビットAはその辺りに落ちていた石っころを拾って俺に渡す。
……深い青色の石。
よく見ると、そこかしこに似たような石が落ちている。
俺は凄く嫌な予感をしながらもそれをカードに。
――――
海竜石【素材】レア度:☆☆☆☆
海の魔力を宿した鉱石。
海竜の魔力を受け続けた場所でしか見つからない。
――――
……やっぱり。




