第64話 尾行報告
ラビットAが人魚の騎士団を尾行中?
果たしてどこから突っ込めばいいのやら。
「え~っと、もう少し詳しく聞きたいのだが」
俺がそう言うとコールが困った顔をする。
「それが、リーダーが千里眼スキルで確認しただけで、それ以上のことは……」
通訳のセレンが補足する。
コールもそれ以上のことは分からないから困っていると。
ただコール以上に俺たちは分かっていないので……とりあえず最初から説明してもらう。
俺とナビ子がダイオウイカ相手に修業している間に、鈴風から二体目の修業相手を探すようにお願いされたコールとラビットA。
この時点で激しく迷惑なのだが……この時のラビットAは鈴風が探すと自重しないだろうからと了承。
ある程度離れたところで、ラビットAが千里眼スキルを駆使して相手を探す。
ラビットAが巨大なゴリラを二体目に選ぼうとするも、コールがそれを阻止する。
「巨大なゴリラ……」
「……よかったわね。コールが常識を持ってて」
「海中に潜む巨大ゴリラ……興味がありますね」
鈴風が自重しないから……って、ラビットAも全く自重していないじゃないか。
まぁカードだけは欲しいけど……絶対に自分で戦いたくはない。
あとで鈴風かラビットAに取ってきてもらおう。
「んで、巨大ゴリラを諦めて別のモンスターを探そうとして……」
「人魚の騎士団を見つけた訳ね」
「そのようです」
まったく。どんな探し方をすれば、巨大モンスターの海域で人魚の騎士団を……。
「な、なぁ。その人魚の騎士団って、デカくないよな?」
「ま、まさかそんな……」
ナビ子も俺と同じ想像をしたのか顔を青くする。
巨大な人魚の騎士団とか嫌すぎるんだが!?
「「で、どうなの!?」」
いやな想像をした俺とナビ子は同時にセレンに詰め寄る。
「……『きゅぴえ!? セレンがいっぱー!?』と言っていたようですから、巨大ではないかと」
セレンが恥ずかしげに答える。
……いや、別にラビットAの物まねをしろと言ったわけではないんだが。
ともあれ、巨大ではなさそうなので一安心。
「セレンっぽいってことは、やっぱセイレーンの集団なのかな?」
「う~ん。少なくともサハギンとかじゃなさそうだけど……人魚もマーマンにマーメイド、メロウとか……ローレライも人魚って説があるよ」
へぇ。人魚にも種類はたくさんあるのか。
マーマンやマーメイドは聞いたことあるけど、メロウは知らないなぁ。
まぁ種族に関しては直接見てからでしか判断できないと。
「でだ。結局俺たちはどうすればいいんだ?」
ラビットAを追いかければいいのか……でも、ラビットAがどこにいるか分からないし。
「リーダーからはアジトを見つけて来るから待っててとのことでしたが……」
「待つって……ここで?」
巨大モンスターの海域で?
いつ帰ってくるかも分からないのに?
「なんだ。では、わたくしが倒す必要はなかったではありませんか」
恐ろしいことを言う鈴風。
……なんだか嫌な予感がする。
「なぁ。流石にこんな所で待つのもなんだし……せめて普通のモンスターが出るところまで移動しない?」
「そ、そうね。そうだ! 昨日野営した場所まで戻らない?」
「それだ! よし、野営地まで戻ろう!」
このままでは修業が再開すると感じた俺とナビ子は慌てて昨日の野営地まで戻ろうとする。
「あの……マスター。ここから離れたらリーダーと合流できないかと」
「大丈夫だって。ラビットAには第六感があるから、ここにいなくてもすぐに合流できるって」
「そ、そうよそうよ。それに最悪自主的にカードに戻ってくればいいだけだし」
いや、それは自殺しろってことだから、やってほしくないが。
「ふむ。では待っている間は暇ですし、修業を再開しましょう」
「ちょ、ちょっと待て。別に修業を再開しなくてもいいだろ」
「そ、そうよ。それにラビットAがいつ帰ってくるか分かんないんだし、ここを離れるわけには……ねっ」
「先程、ウサコなら離れても見つけると言ったばかりではないですか」
「シュートおおお!!」
「す、すまん……ってか、ナビ子もだろうが!」
「ではまず噂の巨大ゴリラのところへ……」
「「いやああああ!!!」」
俺とナビ子の絶叫が響き渡った。
****
数時間後。
ばたんきゅーと力尽きたところでラビットAが合流した。
「きゅートは人魚に狙われている!」
開口一番、まるで犯人はお前だと言うような感じで、ビシッと俺を指差すしながらそう言い切った。
「シュート。そこは『な、なんだってー』と反応するところですよ」
「む、むちゃ言うなよ」
絶賛ばたんきゅー状態なのに、そんなネタに走るようなこと出来ないっての。
ちなみに同じくばたんきゅー状態だったナビ子はラビットAが帰ってくる前にカードの中で回復中。
あと一回クールタイム短縮は使えるが……まずは俺の回復。
「……あれ? きゅート。きゅぺぇ?」
「見りゃ分かんだろ。きゅぺぇだから、早くぶくぶくハウスを……」
「きゅい。りょーかーい」
俺はラビットAの作ったぶくぶくハウス内で栄養ドリンクを一気飲み。
全身に栄養ドリンクの効果が染み渡る。
「はあああ~。生き返る~」
「本当、効きすぎですねその薬。ヤバい物でも入っているんじゃありません?」
「薬じゃないし、ヤバい物も入ってね―よ」
入っているのはスイートアピスが俺のために集めてくれた蜂蜜だ。
「さて、と」
俺はもう一度クールタイム短縮を使ってナビ子を呼び出す。
ったく。貴重な二回を使わせやがって。
「はいは~い。あっラビットAおかえり」
「きゅい! ただーま!」
これで全員揃ったので改めてラビットAから報告を聞く。
「んで。俺が人魚に狙われているってどういうことだ?」
「きゅっ!? そーだった」
俺が尋ねると、ラビットAが思い出したように再度俺をビシッと指差して決め台詞。
「きゅートは人魚に狙われている!」
「な、なんだってー」
反応したのは俺じゃなくナビ子。
……ノリがいいな。
しかし二回も言うってことは、どうやらラビットAの冗談ってわけではなさそう。
だが……会ったこともない人魚に狙われる覚えはない。
「なんで人魚は俺を狙ってるんだ?」
「きゅらない」
知らないと即答するラビットA。
……やっぱりふざけてんのか?
「知らないのに何故俺が狙われてると?」
「きゅっとね。人魚が昨日の野営地できゅートの痕跡を調べてたの」
ラビットAの話によると、人魚の騎士団が向かった先が俺たちが昨日野営をした場所。
……さっき野営地に行ってたら遭遇していたかもしれない。
「ってか、野営地で痕跡を調べてたなら……俺じゃなくて俺たちを調べてたってことだよな」
「きゅう? それって同じこと!」
「……いや、俺だけが狙われているような言い方するから」
野営地を調べてたってなら、人魚に見つかったのは昨日ってことだろ。
その時点で狙われる原因があるとすれば、ラビットAや鈴風が暴れたせいに違いない。
もしくは……昨日唯一別行動をしたジェット君たち。
「昨日人魚なんて見なかったよな?」
「……ええ。誰も人魚は見ていないようです。もちろんアタクシも」
セレンが全員に聞き取りして答える。
やはりジェット君たちも知らないと。
まぁ気づいた時点で知らせてくれるか。
というか……もし人魚が気づいたのだったら、ジェット君たちの超感覚、ラビットAの第六感、ナビ子たちの探知の範囲外から俺たちの存在を知ったということ。
「……そんなことありえるか?」
たとえ相手が本当に人魚の騎士団だったとしても、それらを超える探知スキルを持った存在がいるとは思えない。
「ねぇ。そもそも本当に野営地で野営の痕跡を探してたの?」
「きゅい! 見つからないって慌ててたの」
そりゃ、料理も焚き火もしていないし、ゴミだって回収しているから痕跡なんて見つかりようが……って。
「……ねぇ。その人魚たちって、野営の痕跡じゃなくて、別の物を探してたんじゃないの?」
「俺もそう思う」
ナビ子の言葉に俺も同意する。
「きゅう? 別なのって?」
「そりゃ、アタイたちが野営をする直前まであそこにあった物よ」
俺たちがあそこを野営地に決めたのは……ラビットAと鈴風が勝負をして……宝箱に擬態した玉手貝ってモンスターを狩り尽くしたから。
「人魚の騎士団は玉手貝を探しに来ただけなんじゃ?」
この海に住んでいるのなら人魚たちが玉手貝の群生地を知っていたとしてもおかしくない。
なのに、玉手貝が見つからなくて更地になっていたら、驚いて探し回ったとしてもおかしくない。
「きゅむ……でも、アジトに帰るときも、きゅートたちを警戒してたもー!」
野営地からアジトに帰る途中、人魚たちは俺たちがいる方角を警戒し、見つからないように慎重に帰っていたとのこと。
「……それって、俺たちを警戒というより、巨大モンスターが暴れているのを警戒してたんじゃ?」
多分、アジトに帰還中って、俺たちが巨大ゴリラと戦っていた頃だろ?
シーコングって名前の……まさに特撮映画でビルによじ登っていそうな感じのモンスターだった。
そんなモンスターが暴れていたら、離れていても気配は感じるだろうし、見つからないように注意して移動してもおかしくはない。
「きゅれえ?」
あれぇじゃないっての。
ったく。
見つからないようにちゃんと尾行は出来たようだし、アジトの場所もつかめたようだが、ラビットAが名探偵になれるのはまだまだ先のようだ。




