閑話 ただいま尾行中
シュートがダイオウイカ相手に修業していた頃。
ラビットAはコールに乗って二体目の修業相手を探していた。
「まったくもー。きゅぎゅかはウサギ使いが荒いんだから」
本当は相手なんか探さずにシュートの修業を見ていたかったのに。
「でも、きゅぎゅかに任せたら、とんでもなーことになりそう」
もし鈴風に二体目のモンスター探しをさせたら、シュートの実力なんてお構いなしに強すぎるモンスターを連れてくるに決まってる。
「きゅぎゅかは自重しないから」
その分自分がシッカリしないとと張り切るラビットA。
「きゅっと……どれにしよーかなー」
現時点でラビットAの視界に巨大モンスターの姿はない。
そこでラビットAは第六感スキルで狙いをつけ、千里眼スキルを発動。
そうやって、すでに遠くにいる巨大モンスターを数体把握していた。
「やっぱ第六感と千里眼はすっごー便利!」
自分でも最強の組み合わせだと思っているラビットA。
《リーダー。あっちの方にもモンスターがいる気がしません?》
「きゅむむ……知ってたもー!」
だが、その最強の組み合わせを脅かそうとしているのが、昨日シュートがセレンやコール達が取得した超感覚のスキル。
第六感と似た超直感の能力を持っており、しかもレベルが上がれば別の能力も増える。
――自分もシュートに強請れば取得できるだろうか?
……第六感を持っているから別に必要ないだろとか言われそうな気がする。
それでなくとも、昨日シュートに怒られて強請りづらい。
もちろん昨日に関しては完全に自分が悪い。
鈴風との勝負に夢中になってしまい、リコたちが毒を受けたのに気づかなかった。
あれではリーダー失格である。
ただ……鈴風との勝負となるとどうしても熱くなってしまう。
自分はまだ一度も鈴風に勝てていないから。
最初に戦った闘技場での勝負。
結果としてあの試合は自分が勝ったことになっているが、あれは鈴風が勝ちを譲っただけ。
仕掛けていた罠も見抜かれていたし、あのまま試合が続いていたら、完全に負けていた。
……奥の手まで使ったのに。
それ以降の勝負も全敗。
本気で悔しいので、鈴風との勝負はつい熱くなってしまう。
「きゅい! 次は絶対にきゅぎゅかにかーつ!」
《熱くなりすぎてまた怒られないでください》
「きゅむむ……わかってるもー」
ともあれ今は勝負のことを考えている場合ではない。
ラビットAは千里眼で確認したモンスターを確認していく。
「きゅっ!? これおもしろーかも! おっきなゴリラ」
《……姿は拝見してませんが、そのモンスターは止したほうがいいかと》
「きゅうう? きゅートなら、絶対にカードに欲しがるとおもーけどなー」
《カードは欲しがるでしょうが、修業相手には相応しくないかと》
「きゅい……そっかー」
そういえばさっきも牛のモンスターと戦ったときに、自分だけ海っぽくないと文句を言ってた。
だとすると、海っぽいモンスターの方がいい?
「……下も見てみよーかな―」
ふと何となく深海の方も千里眼で確認してみる。
深海の暗さは千里眼スキルでも変わらないので今までは見ていなかったのだが。
ラビットAの眼に最初に映ったのは人工的な灯り。
ランタンのようなものを持ったセレンのような見た目の人魚が集団で移動していた。
「きゅぴえ!? セレンがいっぱー!?」
《ど、どうしたんです? リーダー》
「きゅ。ちょっと静かに」
ラビットAは集中したいから静かにとコールを黙らせる。
――やっぱり第六感はよく働く。
そう思いながら改めて千里眼でもう一度人魚の集団を確認する。
全員が女性の人魚で、同じ三叉の槍と鱗の鎧を装着している。
「きゅわわ……かっこいー」
牧場でよくサナが物語を語ってくれるが、あの集団はサナの物語に出てくる騎士団みたいだ。
自分たちもあんな風にお揃いの格好をすれば、騎士団みたいに見えるかな?
「きゅい! 我こそはカード騎士団リーダー、ラビットA!」
《……何してるんです?》
「……きゅう。なんでもない」
思わず決めポーズをしてしまったが……そんなことをしている場合ではないと、人魚たちの動向を確認する。
――どこ行ってるんだろ?
千里眼スキルでは声は聞こえないから何を言っているか分からないが、ひどく慌てているように見える。
このまま千里眼スキルで確認し続けてもいいが、このまま離れるとスキル外に行ってしまう恐れがある。
……今なら追いつけるかも。
「きゅっとね。人魚の騎士団を見つけたから尾行してくー」
《えっ!? ちょっとリーダー!? マスターの修業相手はどうするんです?》
シュートの修業相手……すっかり忘れてた。
でもシュートなら絶対に人魚の方が気になるはず。
「すぐそこにイカがいるから、それでいーとおもー」
《イカって……そうじゃなくて、単独行動したらまたマスターに怒られますよ!》
「きゅぴっ!?」
怒られると言われて少し怯むラビットA。
――でも、シュートのことだから、ここで人魚を見失うともっと怒りそう。
それよりも、人魚の居場所を突き止めたら絶対に褒めてくれる。
「へーきへーき。シュートには人魚のアジトを見つけてくるから待っててって言って―」
《ちょ、ちょっとリーダー!?》
これ以上問答していて見失うわけにはいかない。
そう思い、コールの返事を聞かずにコールから離れるラビットA。
「きゅい……かくれんぼー!」
ラビットAはオリジナル魔法のかくれんぼを唱える。
不可視のスキルと似たような効果で自身の気配と姿を消す魔法。
牧場でかくれんぼするために覚えたのだが、卑怯すぎると非難轟々だった。
「きゅふふ……これで近づいても気づかれないはず」
一応看破スキル持ちがいるかも知れないから、あまり近づかないように、かといって遠すぎず。
慎重に尾行をし続けるラビットA。
「きゅしし……なんか探偵みたーでたのしー」
もちろん楽しみながらも油断して見つかるようなヘマはしない。
そして人魚たちがたどり着いた場所は、昨晩シュートたちが野営した場所。
その場所を見た人魚たちは一同に驚く。
そして一斉に何かを探し始めた。
「きゅむむ……なんかあやしー」
人魚たちは野営地でいったい何を探しているのか。
――もしかして野営の痕跡?
人魚たちは昨日ここでシュートが野営したことを知って調べに来たんじゃ。
ってことは人魚の目的はシュート!?
でも何で人魚がシュートを狙ってる?
いつどこでシュートを知った?
「きゅむむ……しょーこが足りない」
シュートの安全のためにも、人魚の正体を暴かねばならない。
そう思いつつラビットAは尾行を続けた。




