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第63話 人魚発見?

「ほら、ぼさっとしてないで、シュートは鑑定。ナビ子はシュートが安全に鑑定ができるように防御魔法!」


 修業と称して巨大イカの目の前に放り出された俺とナビ子に鈴風の指示が飛ぶ。


「別にボーッとしてないっての!」

「えっえと。防御魔法ね。……えいっ! ストームシールド」


 そう言いながら俺はハイアナライズ。

 ナビ子は素直に防御魔法。


 ――――

 ダイオウイカ

 レア度:☆☆☆


 イカ系中級モンスター。

 メガテンタより大きく、魔法を使える特殊個体。

 ――――


 あっクラーケンじゃないのね。

 確かに先日見たクラーケンよりは一回り小さいと思ったけど。

 ちなみに先日ハイアナライズしたクラーケンは星4で……おそらく目の前のダイオウイカの進化後。

 クラーケンの説明文は再生能力がヤバいとか、イカの頂点とか書いてあったので、クラーケンじゃなくて何よりだが、このモンスターは魔法を使えるっぽいので注意が必要。


「相手を知るのに鑑定を行うことは大前提ですが、いつも安全な場所で鑑定ができると思ったら大間違い。そんな時はこんな風にナビ子がシュートが鑑定中に守ってあげるのです」


 ハイアナライズで確認を終えたタイミングで鈴風が声をかける。

 どうやら鍛えるという言葉に嘘はないようで、ちゃんと指導してくれるらしい。

 ……が、鑑定の重要さを鈴風に説かれるのはなんか複雑な気分。

 むしろ俺が昨日鈴風に教えたような気がするんだが?


 ただまぁ鈴風の言い分にも一理ある。

 昨日今日とラビットAが前もってモンスターの出現を教えてくれるから余裕を持ってハイアナライズできる。

 仮に間に合わなくても前衛の鈴風やラビットAが時間を稼いでくれる。


 が、こうやって俺が戦うときはどうだ。

 さっきのシータウルスみたいに攻撃のインターバルがあるモンスターならともかく、インターバルのないモンスターが相手なら先に防御魔法を使ってからハイアナライズは時間がかかる。

 現にダイオウイカは休みなく二本の触腕で俺たちを攻撃してるし。

 ナビ子がストームシールドを使ってなかったら、代わりに俺がストームシールドを使って……多分未だにハイアナライズ出来てなかったんじゃ?


 なるほど。

 ナビ子が手伝ってくれたら、戦闘の幅が一気に増えそうだ。


「へへん。どうよ、アタイもやるときゃやるのよ」

「はいはい。偉い偉い」

「む~。なんか有り難みを感じない返事ね」


 いや、十分有り難みは感じてるから。

 だがそんなナビ子に鈴風から叱責。


「こらナビ子。そんな無駄に強力な防御魔法を使わない! ウインドシールドで十分です」

「ウインドシールドじゃ無理だって!!」


 ……本当、無茶苦茶言いよる。

 ウインドシールドは普通の片手盾レベルでストームシールドは俺よりデカい大盾レベルの防御魔法。

 普通の片手盾レベルでダイオウイカの触腕を防げるわけないだろ。


 鈴風の指示……無茶ぶりはそれからも続く。


「何ですかそのしょぼい攻撃は。イカの足くらい切り落としなさい!」

「武器も攻撃魔法も封じられてるのに無茶言うな!」

「武器がないならその場で作るくらいしなさい」

「作れって……わーったよ!!」

「アタイが守ってるけど、早くしてね!」


 ナビ子の防御魔法が効いている間に武器合成……銃の代わりの飛び道具で手裏剣を合成。


「ナビ子。この手裏剣に風属性付与お願い」

「はいよ! エンチャントエア!」


 風属性の付与された手裏剣はダイオウイカの足を一本切り落とす。


「おおー! すげー!」

「やったねシュート」


 思ったよりも威力が高くて満足。

 手裏剣は後で返還(リターン)すれば回収できるから……かなりお得じゃね?


「しゅ、手裏剣でござるか!?」

「後でシュートから奪いましょう」


 鈴風とムサシが不穏な会話をしているが……やらないからな。


「ほらシュート。油断しない! 足が再生しているわよ!」

「えっ!?」


 慌ててダイオウイカを見ると、たった今切り落とした足がいつの間にかすっかり元通り。

 再生はクラーケンじゃなかったのかよ!?


 ただ一応俺はノルマをクリアしたので次はナビ子の番。


「ナビ子は相手の三手先まで読んで対応しなさい」

「んなことできるわけないでしょーが!!」

「貴女は元電子妖精でしょう。計算で何とかしなさい」

「何とかって……あーもう!」

「それから周囲には常に注意を払って。別のモンスターが近づいているかもしれませんよ」

「そんな余裕ないわよ! ショートしちゃう!」


 ……実際に行動するのは俺だが、ナビ子の方が大変そうな気がする。


「シュート。次の攻撃を左に避けてもう一度手裏剣」

「お、おう」


 俺はナビ子に従って左に避けた後に手裏剣を投げる。


「ちょっと! どこに投げてんのよ。あっちの足に投げなさいよ!」

「指定があるならちゃんと言えよ!!」

「……意思疎通はまだまだのようですね」


 とまぁ鈴風の支持を聞きながら、ちぐはぐなコンビネーションが一時間ほど続き。

 鈴風からさらに鬼のような司令。


「ここからは攻撃も魔法もせず、ただナビ子の指示に従って、ただひたすら避け続けなさい」

「防御、せめて防御魔法はありにして!!」

「あ、アタイの指示……」


 ナビ子の言葉に従って避けるだけの簡単な……おわっ!?

 ダイオウイカの触腕がすぐ目の前を掠っていく。


「ナビ子! 今のは危なかったぞ!」

「仕方ないでしょーが! アタイだっていっぱいいっぱいなのよ!?」


 そんなギリギリの状況でひたすら避けまくる時間が一時間ほど過ぎた頃。


「ここから先はわたくしも攻撃しますから、受けるか避けるかしなさい」

「「ふざけんな!!」」


 そんな俺とナビ子のツッコミなんて知らんと言った感じで鈴風の飛ぶ斬撃が俺に向かって飛んでくる。


「お、おま。殺す気か!?」

「ちゃんと死なない程度に手加減してます。それよりも油断してると……」

「シュート。しゃがんで!」


 ナビ子の言葉に半ば条件反射でその場にしゃがむ。

 瞬間、すぐ上にダイオウイカの触腕が空を切る。


「大分行動が早くなってきましたね。では、どんどん行きますよ」


 マジで俺を殺すつもりじゃないかと言わんばかりに、ダイオウイカの攻撃に混じって鈴風も俺たちに向かって攻撃。


「ふへぇ……もう無理」

「アタイも……ギブアップ……」


 修業を始めて三時間後。

 限界が来た俺とナビ子はその場に崩れ落ちる。


「たった三時間でギブアップとは……本当にわたくしよりも体力があるのですか?」

「……知らねーよ」

「あ、アタイは最初から体力ないんだかんね……」


 俺とナビ子は息も絶え絶えに答える。

 元々鈴風よりも体力があるって言ってるのは鈴風だけ。

 そもそも俺の体力はドーピングによるハリボテだから、慣れない使い方をするとすぐに消耗するんだ。

 ……コレクション鑑賞なら三日完徹でも全然平気なんだけどな。


「ってか、お前らが攻撃してくんのは反則だろ」

「そーよそーよ。一歩間違えたら死んでたわよ」


 これだけバテている一番の原因は鈴風の攻撃だっての。

 一応手加減していたようだが、ダイオウイカの一撃よりも怖い攻撃が突然死角から襲ってくるんだぞ。

 気を張りすぎて肉体的ってより精神的に疲れた。


 ちなみに修業に付き合ってくれたダイオウイカさんは、俺とナビ子が倒れた後で鈴風が一撃で仕留めていた。

 哀れというか……ある意味一番の犠牲者だよな。


「とりあえず……回復」


 俺は栄養ドリンクを取り出す。

 それを開けて……栄養ドリンクが海水に混じる。


「あっ……しまったぁ。そういえば海の中だった」

「バカねぇシュート。あっアタイちょっとカードに戻んね」


 そう言ってナビ子はカードに戻って回復を図る。

 いいよなぁナビ子は。

 カードの中で勝手に回復するんだから。

 ……俺はのんびりさせないために、クールタイム短縮を使ってすぐに呼び出す。


「アンタねぇ。少しくらいのんびりさせなさいよ」

「んなことさせねーよ」


 だって悔しいじゃないか。

 それでもナビ子は回復したんだからいいじゃないかと。

 俺なんか栄養ドリンクが飲めなかったんだし。


「なぁラビットA。ぶくぶくハ……ラビットA?」


 ラビットAにぶくぶくハウスを用意してもらって、そこで栄養ドリンクを飲もうと思ったが……ラビットAがいない?


 ……非常に嫌な予感がする。


「なぁ鈴風。ラビットAはどこ行ったんだ?」

「ウサコなら二体目の修業相手を探しに行きました」

「「えええっ!? まだやんの!?」」

「当たり前でしょう。修業が一回で終わるはずないではないですか」


 さも当然のように答える鈴風。


「いやいやいや。もう十分やったから。なっナビ子」

「そうそう。もうコンビネーションばっちりだから」

「たったあれだけでコンビネーションが培われるわけないではありませんか。何度もやって始めて培われるのです」


 そりゃそうかもしれないが……。


「あ、アタイまだ回復しきってないからカードに戻んなくちゃ」

「おいこら一人で逃げるんじゃない」

「馬鹿! アタイが逃げたらコンビネーションの修業が出来ないからいいじゃない」

「あっ、そっか。よし逃げろナビ子」

「それをわたくしが許すと思いますか?」

「「……だよねぇ」」


 やっぱ逃げるのは無理そう。

 でもさ……せめて栄養ドリンクだけは飲ませてほしいものだ。


「ほら、戻ってきたようですよ」


 そうこうしている間に、ラビットAが巨大モンスターを連れて戻ってきたようだ。


 ……あ~。遠くてラビットAの姿はデカいモンスターの姿は確認できる。

 さっきよりも大きなイカ……。


「「クラーケンじゃねーか!?」」


 ハイアナライズしなくても分かる。

 先日見たクラーケンそっくりだ。


「……おかしいですね。ウサコの気配がありません」

「えっ!?」

「ほんと。コールの気配しかない」


 どうやら二人はスキルでラビットAの気配しかないことが確認できたみたい。

 そして俺も……目視にてクラーケンに追いかけられているコールの姿を確認。

 コールの上にラビットAは乗っていない。


 俺は慌ててラビットAのカードを確認。

 ……ほっ。死んで戻ってきているわけではなさそう。


「どうやら問題が発生したようですね。仕方ありません。あれはわたくしが……」


 そう言うや鈴風はクラーケンへ向かって先手必勝。

 あっさりとクラーケンを仕留める。


「……アタイたちってあれよりも弱いダイオウイカに苦戦したのよね?」

「というか、ダイオウイカを倒したのも鈴風だから」


 俺たちは苦戦だけして倒してないっての。

 っとと。それよりラビットAだ。


「セレン。コールの通訳を」

「かしこまりました」


 セレンが慌ててコールに近づいて、コールから報告を聞く。

 ……セレンの顔が安堵から驚愕へ。

 そして最終的には困惑の表情を浮かべる。


「少なくともラビットAは無事そうね」

「ああ……ただ一体どんな話を聞いているのやら」


 報告を聞き終わったセレンは困惑の表情のままこちらへ。


「マスター。どうやらリーダーは人魚の騎士団を尾行中らしいです」

「……はい?」


 俺たちは全員困惑の表情を浮かべた。

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