第60話 シュート対巨大モンスター
「よっし、やるぞぉ」
久しぶりの戦闘にえいっと気合いを入れる。
「ねぇ。本当にやるの?」
「もちろん。ナビ子だっていつまでも空気ポジションは嫌だろ?」
目指せ地位向上ってね。
「負けたら空気以下になるだけだと思うけど?」
「そんな負けることなんてネガティブなことを考えているから、なんちゃって妖精って呼ばれるんだぞ」
「なんちゃってって言ってるのはシュートとメーブだけでしょうが!?」
ナビ子が俺の胸ポケットの中でガシガシとキックする。
いつものキックと違い痛くはないが、こそばゆいので止めて欲しい。
「はぁ……はぁ……。シュートが本気で戦う気があるのは分かったわよ」
「分かってくれて何より」
「でもでも、シュートが戦うのって久しぶりじゃない。いきなりの戦闘で巨大モンスターはハードル高いよ。まずはホーンラビット辺りでリハビリするべきじゃない?」
「……お前はちょっと俺を舐め過ぎじゃない?」
確かに久しぶりの戦闘が巨大モンスターなのはハードル高いかもしれないけど、ホーンラビットて。
そこはせめて海のモンスターを言えよ。
「そんなに心配しなくてもさ。俺だって昨日と今日とボーッと見ていただけじゃない。ちゃんと皆の戦いを見て、海のモンスターの傾向と対策も考えてある」
「頭突きすんの?」
「……それは参考にしない」
それとカルキノスの戦いは参考にしちゃいけない。
俺が参考にするのは……当然だけどラビットA。
ラビットAのオリジナル魔法はともかく、それ以外の魔法は俺だって使えるから、ラビットAと同じことをすれば勝てるってことだ。
「つまりウインドカッターで斬ったり、最悪コキュートスで凍らせたりすれば余裕ってわけだ」
まぁラビットAの魔法と俺のカード魔法を比べたら威力は全然違うのだが……それはラビットファイアで補えるはず。
だから風魔法を中心に攻撃して……どうしても無理そうならコキュートスで凍らせるだけ。
「それって、ただの劣化ラビットAなだけじゃ……」
ほっとけ。
要は勝てればいいんだよ。
「シュート。あっちからモンスターが来そ―」
そこでラビットAが俺に声をかける。
既にラビットAと鈴風たちは俺から離れて待機している。
ここにいるのはナビ子とジェット君だけ。
ただジェット君に関しては移動のアシスタントをしてくれるだけで、攻撃には参加しない。
そんな離れているラビットAの声が聞こえているのは、遠くからでも声が聞こえる魔法を使用しているから。
――――
ヒアリング【風魔法】レア度:☆☆
初級風魔法。
離れた音を聞くことが出来る。
――――
聴覚スキルの魔法版で結構離れた場所の音も拾えるようになる。
集中すれば海中でも500メートルくらい先までの声も聞こえるみたいなので、ラビットAたちの会話もバッチリ聞こえる。
まぁ必要ないとは思うけど、今のようにモンスターの存在を教えてくれたり、ピンチの時にアシストしてもらうため。
……まぁ必要ないとは思うけどね。
ともあれ、いよいよか……。
魚系ならブラストガンで体勢を崩してラビットファイアはウインドカッターの魔弾。
クラゲや軟体動物ならコキュートスで凍らせるのが無難だろう。
そしてドラゴンなら鈴風にバトンタッチ。
さて、どんなモンスターが近づいてくるのか。
どんなモンスターであれ、最初はハイアナライズ。
そう思っていたんだが……現れたモンスターの姿を見て俺とナビ子は絶句。
何故なら現れたモンスターの姿が……巨大な牛だったから。
「ブモオオオオ!!」
「「なんっじゃそらあああ!?」」
思わず突っ込む俺とナビ子。
そんなツッコミに巨大牛は一直線に俺たちに向かって襲いかかる。
「うわっ!? 危なっ!?」
「ちょっ!? 吹き飛ぶ。吹き飛んじゃうから!?」
真っ直ぐ突進してくるから、避けるのは簡単だったが、巨大牛の起した海流に飲まれ、あわや吹き飛ばされそうになる。
……ジェット君がいなかったら、確実に吹き飛んでいたよな。
「ちょっと! 牛なんて聞いてないんだが!?」
「そんなこと言ってる場合!? あの牛、またこっちに来るわよ!?」
見ると巨大牛はそのまま止まらずに直進し……大きくUターンしてこちらに戻って来ていた。
「なるほど。あれなら大きな減速せずにすみますね」
「きゅい。イノシシよりかしこい」
一方で鈴風とラビットAの暢気な会話が聞こえてくる。
なに感心してるんだよ。
こっちはそれどころじゃないってのに。
ただ、今あの二人に突っ込んでいる場合じゃない。
俺は巨大牛に向かってハイアナライズ。
――――
シータウルス
レア度:☆☆☆
上半身牛で下半身が魚の海獣。
――――
「くっそ役に立たねぇ!?」
なんで説明のみなんだよ!?
弱点とか性質とかは!?
俺は襲いかかってくるシータウルスを再度避ける。
「ふぅ……これでちょっとまた時間があるな」
一度避けるとUターンして戻ってくるまで少しだけ時間がある。
この時間に対策を立てないと。
「ちょっとシュート。どうすんのさ!? ハイアナライズじゃ何も分かんないじゃない!」
「落ち着けナビ子。ハイアナライズの結果が何もないってことはだ。逆に考えれば特別なことがないってことだ」
俺も一瞬慌てたけど、シータウルスが魔法を使うわけでも、別の攻撃方法を使うのでもなく、最初と全く同じ一直線に襲いかかってくるだけだったので、落ち着いて考えることが出来た。
今回、ハイアナライズが役に立たなかったのは、ハイアナライズが無能ってわけじゃない。
もし毒を持っていたらメガロバラクーダのように体内に毒を持っているとか、玉手貝のように特徴が書かれているはず。
要するに毒や特徴のある攻撃をしないってことだ。
まぁ魔法なら使えるかもしれないから、まだ油断はできないけど。
「あのモンスター、牛肉でしょうか。それとも魚肉でしょうか。ウサコはどう思います?」
「きゅにくだと思う!」
きゅにくってどっちだよ!?
くそっ二人の会話が無性に腹立つ。
「あの二人……後で覚えてろよ」
「でも、アタイたちがあっちの立場なら絶対に同じ会話をしてたと思うわ」
……それは否定できないけど。
そうこうしている間に、シータウルスの三度目の突進。
「いけっ!?」
今度はカウンター気味にブラストガンを撃ってみる。
ブラストガンのと衝撃がシータウルスの顔面に直撃……が、シータウルスの勢いは止まらず、構わずこちらへ突進。
「くそっやっぱり駄目か」
やっぱり海水で威力減のブラストガンじゃ焼け石に水。
もっと威力のある攻撃にしないと。
「にしても、何であの牛は俺たちだけ狙ってるんだ?」
少し離れてはいるが、ここにはラビットAも鈴風もいる。
こっちの事情とかシータウルスには関係ないんだから、俺だけを狙う理由はないはず。
「……ほら、牛って赤いものを追いかけるっていうじゃない?」
ナビ子に言われて俺はジャック君を見る。
……真っ赤なザリガニ。
こいつのせいかあああああ!?
しかし、ジャック君は俺の生命線。
ジャック君から降りたら、シータウルスの巻き起こす海流に飲まれて飛ばされてしまうだろう。
シータウルスの四度目の突進。
俺はジャック君を操り、間一髪で避ける。
うん、ジャック君は必要と。
「そういえばナビ子。お前確かイメチェンしたいとか言ってなかった? 今なら赤い服をプレセントするぞ。着替えて散歩に行きたくない?」
「なにアタイを囮にしようとしてんのよ!?」
ちっ駄目か。
「これで四度目ですが、シュートは大丈夫なのでしょうか?」
「きゅい。漫才している間はだいじょーぶ」
漫才じゃねー!
こっちはいっぱいいっぱいだっての。
「ちなみに牛は色の識別ができないので、赤いものを追いかけるのではなく、動いているものに反応しているだけです」
「きゅい! あと魔力ー。シュートたちは垂れ流しにしてるから」
しかも漫才の訂正まで……いや、漫才じゃないけど。
「赤いからじゃなかったのね……」
何故かナビ子がショック受けてるし。
というか、そんなんだから、なんちゃってって言われるんだよ!
にしても……いい加減どうにかしないと、鈴風が不審がってる。
「どうするの? 凍らせるの?」
「いや、それよりも……相手の自滅を狙ったほうが早そうだ」
「自滅?」
「まぁ見てろって」
俺は一枚の魔法カードを取り出す。
「クラッグフォール!」
――――
クラッグフォール【土属性】レア度:☆☆☆
土属性中級魔法。
巨大な岩を指定した場所に落とす。
――――
本当なら岩を落として対象を潰す魔法だが、今回は海中なので、巨大な岩が落ちずにその場に留まるだけ。
この大岩をシータウルスの直線状にタイミングよく設置。
「ブモオオオオ!?」
シータウルスは突進の勢いそのままクラッグフォールにぶつかる。
「ブラストガンじゃ止まらなかったが、流石にこれは堪らんだろ」
クラッグフォールにぶつかったシータウルスはフラフラとよろめきながら減速。
そこに今度はラビットファイア。
込める魔弾はアクアボム。
――――
アクアボム【水属性】レア度:☆☆☆
中級水属性魔法。
水疱で包むことにより、水中でも使用可能としたフレアボム。
水疱が割れることにより辺りを吹き飛ばす。
――――
一言で言えば機雷。
これなら海中でも威力が下がらず、さらにラビットファイアで威力増。
星3どころか星4並みの威力になってシータウルスに直撃した瞬間。
大爆発とともに、シータウルスを吹き飛ばした。




