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第56話 ぶくぶくハウス

 ジェット君たちの戦利品を確認し終えた後、偵察結果の報告を聞く。

 ここで通常なら通訳としてティータかメーブを呼び出すんだが……二人は地上でお留守番。

 ってことで、今回はセレンにお願いする。


「――どうやら彼らは5キロ先まで偵察に行かれたようです」

「5キロ先!?」


 思いの外遠くまで行ってて驚く。

 もっと2、3キロくらいかと思ってた。


「――本当はもう少し先まで行きたかったようですが、それ以上先は空気が違うようでして」

「空気が違う?」

「ええ。ジャックの話によると、そこは大型モンスターの縄張りだとか」


 大型モンスター!?

 ってことは、先日見たクラーケンとかバシロケトゥスとかの縄張りってことか。

 俺が地上から目撃したのはもう少し先立ったと思うけど……それだけ大型モンスターの縄張りが広いってことだろう。

 ジャックが知っていたのは、元からこの近海を縄張りにしていたからだろうな。


「よし、じゃあ今日はこの辺りで探索を終わろうか」


 大型モンスターは気になるけど……色々ありすぎて流石に今日はもう疲れた。


「うん。流石にアタイも今日はもうばたんきゅーだよ」


 いや、お前はポケットから一歩も出てないだろうと。

 ……まぁ俺もジェット君で移動したくらいで殆ど何もしてないけど。


 幸いこの辺りにいた玉手貝の群れは、ラビットAと鈴風によって倒してスペースも空いたから野営には丁度いい。


 その二人も終わったようで、こちらに近づいてくる。

 鈴風の表情が晴れやかで、ラビットAが悔しがってるから……また負けたな。


「ふっ。これでメガロバラクーダに続き、わたくしの連勝ですね」

「きゅがうもん! あれは最初からだもん。なっとくいかなー!!」


 今回の勝負は倒した数じゃなく、どちらが早く綺麗な状態で倒せるか……だったはず。

 どうやらラビットAが倒した方に、最初から傷があったらしい。


「だとしても。獲物を選ぶ審美眼ではわたくしの方が優秀だということ」

「きゅむむ……」


 本当、負けず嫌いの二人だよな。


「はいはい、もうその辺でいいだろ」


 俺は手を叩きながら二人を制する。

 このまま言い争われたら、野営の準備に差し障る。

 俺は二人にここで野営することを説明。


「ってことでラビットA……頼む」

「きゅい! まーかせて!」


 野営の準備をするにはラビットAの魔法が必要不可欠。

 ラビットAはストローを取り出して魔法を唱える。


「きゅきゅいのーきゅい! ぶーくぶーくはうす!」


 ラビットAが非常に間抜けな名前とともにストローを口に加える。


 ――――

 ぶくぶくハウス【無属性】レア度:☆☆☆☆


 上級空間魔法。

 範囲内に気泡型の結界を発生させる。

 ――――


 そのアホみたいな名前から分かるように、ラビットAのオリジナル魔法だ。


 ラビットAがストローでプク―っと巨大な……弾力性のあるシャボン玉のような水疱を飛ばす。

 その水疱は地面に着地すると、上半分だけ残った……水のないドーム状の空間が完成。


「きゅい! かんせー」


 そう言ってラビットAは空間へダイブ。

 水疱は割れずにスポンとラビットAだけ中に入る。


「きゅい! みんなもはやくー」


 ラビットAが中から俺たちを呼び寄せる。


「……あの子。実は未来から来た猫型ロボットではありませんか?」

「……多分違うと思う」


 確かにふしぎ道具のように便利だけどさ。



「うおっ」


 中に入ると途端に身体が重くなる。

 魔法の効果で気づかなかったが、水の中だったからか浮力で身体が軽くなっていたみたいだ。


「海底なのに海水がないとは……不思議な感覚です」

「きゅふ~ん。きゅぎゅかには、こんなことできないでしょー」


 さっきの負けが悔しかったのか、ドヤ顔で鈴風に自慢するラビットA。

 そんなラビットAに対して苦虫を噛み潰したような表情をする鈴風。


「このウサギ……耳をネズミに齧らせて全身を青色にしてやろうか?」

「きゅるる!? きゅぎゅか、こわー!?」


 鈴風の脅しにラビットAが震える。

 おいおい、齧られてもないのに顔が真っ青だぞ。


「んあ~。ようやく解放された気分」


 そんな二人をよそにナビ子がポケットから飛び出す。

 海水がないと流れる心配はないもんな。

 鈴風の方もムサシがフードから飛び出して……それでラビットAとのやりとりも終わったようだ。


「さぁシュート。ご飯にしましょう。わたくし、お腹が空きました」


 うん。俺も腹が減った。

 なにせ朝食以来何も口にしてない。

 さっきの休憩では、このぶくぶくハウスを使ってなかったから、飲み物すら飲んでないし。


 このぶくぶくハウスを用意した理由はご飯を食べるため。

 寝るだけだったら海水の中でもいいけど、食事だけはそうもいかない。

 料理も食材もカードに入って入るが、解放(リリース)すると全部海水に混じってバラバラに散ってしまう。


 こればっかりはライファスキンでもテキトーオーでもどうすることもできない。

 だからラビットAに頼んで魔法を作ってもらっていた。

 ちなみにラビットA曰く、シャボン玉じゃなくて、ストローでジュースをぶくぶくにしたイメージだそうだ。

 そういえば先日ラビットAが酒場でにんじんジュースをぶくぶくさせて、行儀悪いとは思っていたが……そういうのも大事なインスピレーションを生むんだなと。

 次に似たようなことがあっても、行儀悪いと叱りづらくなるよなぁ。


 ……とと、それよりもご飯ご飯と。


「よし、じゃあ何にする?」


 元から準備していた食材でもいいし、今日倒したモンスターからでもいい。

 流石に毒を持っているメガロバラクーダは止めたほうがいいよな。

 サメは……肉はアンモニア臭がして食べられないんだっけ?

 加工してかまぼなら……あっあとフカヒレか。

 後はタコと貝とクラゲ……クラゲは食べられるのか?


「シュートはこの後モンスターを仲間にするのですよね? それを平気で食べるのですか?」

「……もう慣れたから」


 俺も最初はその葛藤があったけど、ラビットAを始め、誰も食べられることを忌避してないんだよなぁ。

 むしろ美味しく食べてくれってスタンスで、食べない方が悲しむんだよなぁ。


 まぁ今日倒したモンスターは分解からしなくちゃだから、今すぐというわけにはいかない。

 今日の所は先日の魚釣りした残りにしよう。


「シュート。日本酒もありますよね?」


 こいつ……俺のなけなしの日本酒を狙っているのか!?


「わたくし、今日は頑張りましたし、カードも全て渡しました。奢ってもバチは当たらないと思いませんか?」


 確かに……引っ掻き回されもしたが、大活躍だったのは間違いない。

 でも……う~ん。


「日本酒じゃなく、この世界の酒じゃ駄目?」

「駄目に決まっているでしょう。魚には日本酒です」


 ですよねぇ。


「ちょっと! 日本酒とか酒とか……こんなところで飲んだら駄目に決まってるでしょ!」

「きゅーだよ! お酒は安全なとこで!」

「セッシャもそう思うでござる」


 なんとここで俺と鈴風以外の全員が日本酒どころか酒を飲むことに反対する。

 いや、言いたいことは分かるよ。

 ぶくぶくハウスって結界の中でも、この場所は海底には違いない。

 どんな危険があるか分からない場所で、お酒を飲むなんて言語道断だと。


「……ビールも?」

「当たり前でしょ!」

「きゅめっ!? 気が緩むでしょ!」


 今日、油断するなって叱った手前、それでも飲むとは……言えないよなぁ。


 でも海底で新鮮な魚を肴に酒が飲めないなんて……残念過ぎる。

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