第53話 海の中道
無事に海底にたどり着いた俺たちは、海底を歩いて移動する。
「こうやって歩いていると、本当に海底なのか分からなくなるな」
まるで地上を歩いているのと同じ。
浮遊感もなければ水圧に押しつぶされそうな感じもない。
それも全てライファスキンとテキトーオーのおかげ。
もちろん泳ごうとすれば泳げるし、浮かぼうとすれば浮かぶことも出来る。
本当に不思議な感じだ。
「シュート。あっちにへんてこなモンスターがいるー」
「……それは是非とも捕まえないとなぁ」
へんてこって言うくらいだから、初めて見るモンスターに違いない。
水深100メートル付近までは同じモンスターばかりだったが、流石に150メートルまでくると、モンスターの生態系も変化があったようだ。
ただ……こう暗いとねぇ。
水深100メートルの時点で既に結構暗かったが、水深150メートルまでくると、もはや夜道どころか夜の森の中ってレベルになっている。
ラビットAは相変わらず第六感と千里眼で確認できるようだが……多分俺だと目の前にくるまで気づかない可能性がある。
ってことで、流石に明かりがないと命に関わりそうなので、ラビットAにライトの魔法を使ってもらう。
ただ使うと言っても離れた場所にだが。
疑似太陽みたいな感じで離れたところから海底を照らしてもらおう。
「きゅい! ライト―!」
ラビットAが叫ぶと、かなり……30メートルくらい前方の少し上の方にライトの光球が発生。
周囲がほんのりと照らされる。
う~ん。もうちょっと明るくなるかと思ったが。
元々ライトの魔法って一部屋を明るく照らせる程度の魔法だから……これだけ離れたら、ちょっとした街灯レベルでしかなかった。
まぁそれでもさっきまでに比べたら天と地ほどの差があるけど。
「……魚の影もあるな」
それがラビットAの言ってたへんてこなモンスターかは分からないが……シルエット的には明らかにさっきまでとは違う魚だと思う。
「では行きますか」
「ちょっと待った」
早速退治に向かおうとした鈴風を止める。
鈴風なら大丈夫だろうが、さっきまでとは違い、視界に入る場所……ってわけじゃないから、万が一を考えて、取り返しのつかない俺と鈴風は単独行動は控えたほうがいい。
ただ、そんな事を言っても鈴風は聞かないだろうから……別の言い訳で誤魔化す。
「鈴風とラビットAはさっき散々戦っただろ。今度はコイツらの出番だ」
俺はジェット君の頭を撫でながら言う。
海底を歩いて進むようになったから、しばらくジェット君に乗ることはない。
だから自由時間を与える意味も……ってことで。
こう言っちゃ申し訳ないけど、ジェット君なら最悪死んでもカードに戻るだけ。
偵察を兼ねて先行してもらいたい。
「なるほど。分かりました。ではわたくしも……ジャック、暴れてきなさい」
「きゅい! じゃあコールも!」
ラビットAと鈴風も自分たちの相棒に任せる。
そうなるとバトルジャンキーたちの考えそうなことは……。
「良いですか。数でも大物でも負けてはなりませんよ」
「コール。負けたらきゅっだからね!」
うん。そうなるよなぁ。
まぁ鈴風と違ってカードモンスターは基本的に俺の意に反することはしないので……大惨事になるような無茶はしないだろう。
っとと。
「あっじゃあついでにコールとジャックにも超感覚を覚えさせようか」
さっき覚えさせられなかった超感覚のスキルをコールとジャックにも覚えさせる。
勝負云々はともかく、超直感スキルはあった方が便利だしね。
それからジェット君、コール、ジャックにはそれぞれリコ、チコ、クコをサポートにつける。
倒したモンスターの収納と……あとリコたちもサポートばかりだったから暴れたりないだろうしね。
ただ俺たちの周りが少なくなってしまうので、セレンだけはこっちに残ってもらう。
「じゃあ……一時間くらいしたら戻ってくるように」
俺の言葉と同時にジェット君たちは各々散っていく。
というわけで、残ったのは俺と鈴風とラビットAとセレン。
ポケットとフードにナビ子とムサシだ。
「さて、じゃあ俺たちも移動しようか」
一時間ここで待ち続けるってのも勿体ないので、俺たちも歩いて移動する。
移動に合わせて前方のライトも移動するので、ライトを目印にしていれば合流も問題ないだろう。
そうして歩くこと数分。
ラビットAが俺に近づく。
「ねぇねぇシュート」
「ん? どうした?」
「きゅのね……手、つないでいい?」
「……いいけど」
俺がそう言うと、ラビットAが嬉しそうに俺の手を握る。
「きゅへへ」
少し照れながら、はにかむラビットA。
うん、かわいい。
けど……いきなりどうしたんだ?
やっぱり、さっき叱ったからか?
「あらあら。今日のラビットAは随分と甘えん坊さんだね」
「きゅみぃ」
ナビ子が俺の胸ポケットからちょこんと顔を出す。
いや、仕方がないとは言え、今のナビ子の状態も大概だからな。
「だって、こーやってシュートと歩くことないんだもー」
「そうか? 普通に歩いてるだろ?」
アクアパッツァでも……いや、アクアパッツァでは引きこもってたからあれだけど。
帝都では殆ど一緒に歩いて観光していたぞ。
「そーじゃなくて冒険のこと。シュートはいっつもお留守番してるでしょ!」
そう言われて……ああなるほどと。
考えてみると先日の無人島や他にも牧場近辺やら魔水晶の山やら。
確かにラビットAたちカードモンスターに任せて、俺は留守番している。
「ラビットAはシュートと一緒に冒険するのを楽しみにしていたんだね」
「きゅい!」
……そう考えると今回一番楽しみにしていたのはラビットAかもしれないな。
「きゅっららんららん」
ってことで、鼻歌交じりでめっちゃご機嫌なラビットAと手を繋いで歩いて行く。
「まるでピクニックね」
「本当にな」
まぁ悪い気はしないし……こうしてても、決して気を抜いているわけではない。
「シュート。あっちからモンスターがやってくー!」
ちゃんと第六感は働いているようだ。
ちなみに襲ってきたモンスターに関しては鈴風に任せる。
さっきまでと違い戦うつもりはないようだ。
もちろん鈴風はモンスターをアッサリと撃退。
「ふっ。またつまらないものを斬ってしまいました」
鈴風はカードを見ながら言う。
お前はどこの怪盗かと。
ってか、そのカードを見せてみろと。
……星3じゃねーか!? 何がつまらないものだっての。
「シュート。あっちからもー」
今度は反対方向から……って、それも鈴風がアッサリ撃退。
まぁ俺はカードが手に入ればそれで良いんだけどね。
「シュート。今度はこっちに宝箱ー」
はいはい。今度はしょうめ……。
「……宝箱?」
なんだ宝箱って。
「きゅい! ほら、あそこー」
ラビットが言うように、少し歩くと宝箱が見えてきた。
「俺、宝箱って初めてみた」
この世界はゲームっぽい世界ではあるけども。
モンスターを倒しても宝箱は出ないし、ダンジョンに落ちていることもない。
存在していたことに驚きだ。
「海賊船の落とし物かも」
いやいや。いつ落としたかにもよるが、この宝箱は苔も生えてないし、新品そのもの……って、綺麗すぎじゃね?
というか、ナビ子もラビットAも……鈴風まで。
宝箱より俺に注目している?
俺がどうするか確認して……もしかして!?
俺は宝箱にハイアナライズをする。
――――
玉手貝
レア度:☆☆☆
宝箱に擬態したモンスター。
宝箱と間違って開けようとする獲物に襲いかかる。
――――
……俗に言うミミックってやつだ。
「お前ら……この宝箱がモンスターって気づいていたな?」
「ちっ。気づきましたか」
いや、舌打ちて。
「きゅむむ……開けようとしたら、きゅート、不注意って言うつもりだったのに!」
なるほど。
俺が散々気をつけろとか油断するなとか言っていたから、お返しするつもりだったと。
「シュート。危なかったでしょ」
唯一、ナビ子だけが俺の心情に気づく。
うん。実はめっちゃヤバかった。
三人の様子に気づかなかったらマジで開けてたかもしれん。
……俺も超感覚のスキルを覚えようかな。




