第52話 海底150メートル
休憩を終え探索を再開。
アクアパッツァ方面に向けて移動しつつ、今度は下にも移動する。
水深30メートルではまだ普通に明るかった周囲も、50メートル、100メートルと潜るにつれて少しずつ暗くなっていく。
「やっぱり下に行くと暗くなってくるよなぁ」
「そりゃ光が届かないから仕方ないでしょ」
ライファスキンの魔法があるから、深く潜っても平気かと思ったが、そうでもないようだ。
「きゅう? シュート。ライトのまほー使う?」
ライトの魔法か……。
ライトの魔法が水の中でも使えるのは既に確認済み。
せっかくだから明るい状態で楽しみたいってのはあるが……絶対に目立つよなぁ。
そこらのモンスターが一斉に襲いかかってくるんじゃね?
「う~ん。もうちょっと暗くなってから考えようか」
現状でも夜道程度の視界はあるし、急ぐ必要もない。
「ただ、気配察知だけは怠らないように」
「きゅい。分かった―」
暗闇から襲われたら堪ったもんじゃない。
まぁセレンたちも超感覚のスキルを覚えたし、どんなモンスターであれ、全員の目をくぐり抜けることは出来ないだろうけど。
「セレン。新しいスキルの調子はどうだ?」
「はいマスター。頗る調子がいいです」
「へぇ。具体的には?」
「そうですね……多分あの辺りにモンスターがいるんじゃないかと。……勘ですけど」
まぁレベル1の能力は超直感だから勘には違いないけど。
「ラビットA。ちょっと確かめてきれくれ」
「きゅっきいー」
「あっ。ちょっと待ちなさい。わたくしも行きます」
「……まぁ別にいいけど」
勝手に行ったら文句を言うところだけど、チラッとこちらを向いて許可を求めたから許すことにした。
もし駄目って言ったらどうだったんだろう?
……文句を言いつつも残っただろうな。
数分後、笑顔の鈴風と悔しそうなラビットAが戻ってきた。
「きゅむむ……」
「ふふっまだまだ青いですね」
……どうやら仕留めたのは鈴風だったようだ。
まぁ俺としては超直感が正しかったのが分かれば、どっちが仕留めてもいいけどね。
「はいシュート。こちらを」
俺は鈴風からカードを受け取る。
「なんだ。またデスシャークか」
このまでの間にも何体かモンスターは倒しているが、今の所、休憩前と同じモンスターしか現れていない。
「そろそろ深海魚とか現れてもいいのにな」
「いやシュート。深海って水深200メートルより深い場所のことだから」
「えっそうなの?」
深海が何メートルからとか知らないっての。
「ついでに言ったら、この辺は海底が200メートルもないと思うから、海底まで行っても深海とは言えないかもね」
さすが元電子妖精。
そういった知識はちゃんとあるのな。
ちなみにナビ子の話では大陸から200海里くらいまでは海底200メートルが続くらしい。
まぁ俺には200海里が何キロなのか分からないから曖昧に頷くだけにしたけど。
ナビ子の説明からすると無人島よりも先に行かないと無理そうだな。
「まっこの世界じゃどうか分かんないけどね」
魔法やモンスターがいる世界だから、まったく違う地形の可能性もあるわけで。
まっ本当に深海に行きたかったら別の機会にでも行けばいいしね。
ひとまず超直感を確かめることができたので、このまま海底まで進む。
「きゅい! 地面!」
と、そこは思ったよりも早く、150メートル地点で海底に到着。
ちなみに水深はナビ子調べ。
ここでも元電子妖精の能力が遺憾なく発揮されている。
「ふふん。やっぱアタイってば優秀よね!」
確かに優秀だけども。
でもそれって電子妖精の名残だし。
「ナビ子ってさ。電子妖精のままの方が良かったんじゃない?」
「あ、アンタ。それを言っちゃあおしまいだよ!?」
いや、どんなキャラだよ。
まぁナビ子をからかうのはこの程度にして、俺はジェット君から降り、海底に立つ。
「お、おお……地に足がつくって素晴らしいな」
まだ出発して半日も経ってないが、すでに地面が懐かしい。
せっかくだから、このまま歩いて進むことにしよう。
だが、その前にセレンが俺に声をかける。
「あの……マスター。ひとつお願いが」
「んん? って、どうした!? 顔色が悪いぞ」
「ええ。よろしければアタクシたちにもテキトーオーをかけていただけませんか?」
「へっ? テキトーオー?」
「ええ。この場所は少々辛くて……」
見るとセレンだけでなく、リコたちやコールも辛そう。
あっでも、ジェット君とジャックはそうでもなさそう。
「そっか。水圧ね」
ナビ子の言葉にセレンが頷く。
詳しく効きたいが、それより治療が先。
俺はラビットAに急いでテキトーオーを唱えさせる。
念の為、大丈夫そうなジェット君とジャックにもだ。
「……ふぅ。マスター、リーダー。ありがとうございます」
テキトーオーを唱えると、すぐに落ち着いた表情になるセレン。
どうでもいいけど、セレンの口からテキトーオーって言葉を聞くと、改めて酷い名前だと再確認する。
「んで、水圧って……」
「そりゃ一気に100メートル以上潜ったんだもの。いくら水中に耐性があるって言ったって、急激な変化に体調も悪くなるわよ」
あれだ。飛行機に乗った時に耳がキーンとなったり頭が痛くなったりするやつだな。
多分時間が経てば大丈夫だけど、状況を考えて早く直したほうがいいと判断したのだろう。
「ちなみにセレンたちだから頭が痛いとかで済むけど、もしシュートやラビットAの魔法が切れちゃったら、一瞬でメキメキのグチャグチャでバーンだからね」
「きゅわわ……」
想像したのかラビットAがブルルと震える。
うん、かわいい。
ってか、水圧に潰されるからメキメキは分かるけど、バーンはないだろ。
とりあえず今後はセレンたちにも魔法を使っていくことにして。
俺たちは海底を歩いて進んでいくことにした。




