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第50話 武芸百般

 ――――

 バイキングシャーク

 レア度:☆☆☆☆

 固有スキル:水の覚醒、野生、威圧、顎門、鮫肌、暴食、ハンター、加速

 個別スキル:雷の覚醒、風の覚醒、貯蔵庫


 シャーク系上級モンスター。

 常に侵略をし続ける海の荒くれ。

 相手が格上だろうと大きかろうとお構いなし。

 自分以外の生物全てを狩り尽くす。

 ――――


 見た目は傷だらけではなくなっているものの、片目だけ傷があり。

 流石に眼帯は付けてないものの……付けていたらまさに海賊って感じのサメ。

 ……どうしてこうなったし。


「きゅぎゅかー。このサメ、頭が6つないよ?」

「それに関してはわたくしも考慮に入れましたが、何分乗るとなると、乗りにくそうで」

「きゅるほど」


 なるほどじゃない。

 乗りにくいとかそういう問題じゃなく、考慮に入れるのが間違ってるんだよ。

 よかったー。海賊の方で本当によかったー。


「それでは貴方には海賊に相応しい名……そうですね。貴方にはジャックという名を授けましょう」


 しかも勝手に名付けるし。

 それにしても俺はてっきりフックとかロジャーとかバギーとか名付けると思ったが……何故にジャック?

 どうせ鈴風のことだから、何かネタがあるんだろうけど……有名な海賊にジャックって名前いたっけ?

 う~ん、思い浮かばない。

 ただシャークとジャックって何となく語呂がいいし、その名前には賛成だ。


 俺は一旦バイキングシャーク――ジャックを回収。

 カード分身でジャックを複製。

 本物は俺のコレクションとして図鑑の奥底に封印するとして、複製したカードを鈴風に渡す。


「ジャックのことは鈴風に任せるから。ちゃんと責任を持って管理するように」

「良いのですか!?」

「嫌なら俺が管理するけど」

「誰も嫌とは言っておりません!」


 サナとケットシーのバルと同じように、相棒なら自分で世話をしろって話。


 鈴風は本当に嬉しそうにジャックのカードを受けとる。

 くっ、こんな普通の表情もできるのか。


 カードを受け取った鈴風は何度かジャックを出し入れする。

 うんうん。最初は無駄にやっちゃうよね。


 更にジャックに抱きつき撫で回す。

 おいおいコイツは鮫肌だぞ。

 あ~あ、頬ずりまでして……怪我しても知らないからな。


 そして最後にジャックにまたがる。


「すいません。ちょっと乗り心地を確かめてきます」

「お、おい……」


 止める間もなく鈴風はジャックに乗ってこの場を離れる。

 あいつ……すっごく気持ちは分かるが、単独行動は危険だっつってんだろ!


「あ~。一応気にしてるみたいよ」


 ナビ子の言う通り、鈴風は遠くには行かず、俺たちの目の届く範囲内で動き回っていた。

 ……まぁこの辺りのモンスターは全滅したし、目の届く範囲ならいいか。


「……あのサメ。シュートのカニより速くない?」

「ジェット君な」


 ったく。

 うちのジェット君より速い訳が……そういえばジャックには加速のスキルも付いていたような?

 ……うちのジェット君にも覚えさせようかな。


 幸いなことに鈴風は五分ほどで戻ってきた。

 非常に満足げな表情である。


「ジャック、お疲れ様。少しの間休んでなさい」


 鈴風は一旦ジャックをカードに戻す。


「……分かっていたことですが、このカード化のスキルはとてつもなく便利ですね」

「そうだろそうだろ」


 鈴風やタクミのように、自分が強くなるスキルではないが、使い勝手という点においては、プレーヤーが運営から貰ったスキルの中では群を抜いていると思う。


「言っておくが、カード化の付与はこの旅が終わるまでだからな」

「んな!? わたくしからジャックを取り上げるつもりですか!?」


 いや、取り上げるって……貸しているだけで、本体は図鑑の中だから。

 ってか、カード化よりもジャックの方を気にするのな。


「どのみちジャックは海から出られないんだし」

「心配無用。昨今のサメは空を飛んだり宇宙にもいけるのです」


 だからどこのB級映画の話だよと。


 ……ああでも、手元にサンドシャークという地中移動できるサメがいるから、合成させたら地上でも生活できるかもしれない。

 言わないけどね。


「それに陸に戻ったら、このカード化を利用して家を回収するつもりなのです」


 俺がアクアパッツァで一軒家を用意した時、めちゃくちゃ羨ましそうだったもんなぁ。

 でも流石に一緒に行動しているときならともかく、別行動になったらカード化の解除は決定的。

 まぁ家を好きな場所まで運ぶだけならいいけどさ。


「そういえば鈴風のスタート地点ってどこだったんだ?」

「わたくしは帝都の近くにある竜の山がスタート地点でした」

「竜の山!?」


 何その心躍る名前の山は。


「あっもしかしてブラックドラゴンが棲んでた山?」

「そうです。あの山で一番強かったのはブラックドラゴンですが、他にも複数のドラゴンが棲息しております。アイスワイバーンもその山で倒しました」


 マジか。

 それは是非とも一度足を運ばなくては。


 鈴風の話によると、ドラゴンって言ってもオオトカゲが強くなった程度のものが殆どだったようだが。

 きっと星1や星2のドラゴンだろうが……素材回収にはピッタリの場所だ。


 その素晴らしい山で鈴風は最初の二ヶ月ほど修業をしていたとのこと。

 そりゃあ強くなるに決まっている。


 ただ、その時点ではブラックドラゴンを倒さず山を降りて帝都へ向かった。

 鈴風の性格なら、山を降りる前にブラックドラゴンを倒しそうなものだけど。


「カード化と違い素材を持ち帰る術がありませんから。討伐の証明もできませんし、勿体ないと思いまして」


 モンスターは死体となったら回収しない限り魔素に還元してしまう。

 流石の鈴風もブラックドラゴンがそうなってしまうと勿体ないと感じたらしい。


 先に帝都に言って冒険者登録。

 冒険者試験までの数日間の間に、ブラックドラゴンの死体を運ぶための準備をし、冒険者になったその日に満を持して討伐したらしい。

 お蔭でレベルも上がってウハウハと。


「そういえば整理整頓って武具しか収納できないんだったよな」

「確かにそうですが、当時はそもそも整理整頓を覚えてすらいません」


 あっそうなんだ。


「ところでシュートはわたくしが言うまで整理整頓の能力を知らなかったようですが……」

「そりゃ聞いてなかったし」

「鑑定はしなかったのですか?」

「どっかの変わり者のギルド職員じゃあるまいし、勝手に人のスキルを盗み見るような非常識な真似はしないぞ」

「……それ、アザレアが聞いたらブチ切れると思うわよ」


 いや、事実だし。

 俺なんか初対面で有無を言わさずに鑑定されたんだぞ。

 今考えても非常識にもほどがあると思う。

 まぁおかげで協力者にはなってくれたし、色々と助かってるのも事実だけど。


「ではシュートはわたくしのスキルに関してどの程度知っているのです?」


 俺が知っているのはスタート時点で持っていたであろう疾風迅雷と言語翻訳のスキルだけ。

 その疾風迅雷のスキルで確かな能力がナビ子から聞いたレベル5まで。

 ――――

 疾風迅雷:自己強化系のスキル


 レベル1:迅雷風烈

 雷属性と風属性の魔法取得。

 レベル2:電光石火

 瞬発力大幅向上。

 レベル3:一刀両断

 斬撃に大幅補正。

 レベル4:心頭滅却

 属性攻撃軽減。

 レベル5:臥薪嘗胆

 修業の効果が増加する。

 ――――


 それからレベルは分かっていないが、判明している能力が武芸百般、先手必勝、起死回生、それから整理整頓の四種。


「あっあと、能力名は知らないけど、嘘を見抜く看破系の能力と気配察知系の能力もあるんだよな?」


 酒場で俺のフェイク込みの嘘を見抜いたし、さっきもラビットAには勝てなかったものの、モンスターの気配を察知できるようなことを言っていた。

 フェイクを見抜けるってことは星5以上のスキルだろうから、疾風迅雷の能力だろうが……あれっ?

 よくよく数えてみると、この二種類も合わせると能力の総数が10を超えるぞ?

 ってことは、気配察知は別スキルか。

 どのみち疾風迅雷はマスターしてそうだから、星6スキルを得ている可能性は高い。


「嘘と気配はレベル6の能力、精神統一です」


 まさかの看破系と気配察知が同じ能力とは。

 鈴風によると精神統一は集中することで五感が鋭くなるスキル。

 ナビ子の探知のように数や詳細が分かるわけではなく、鋭くなった五感を駆使して周囲の気配を敏感に察するらしい。

 看破の方も似たようなもので、鋭くなった五感で相手の嘘やモンスターの弱点などが分かるらしい。


 ただあくまでもそう感じるだけで、絶対の正解とは限らないと。

 まぁ経験と勘でほぼ間違いないらしいが。


「そしてレベル7の能力ですが……」


 ありがたいことに、このまま能力を公開してくれるみたいだ。


「レベル7は明鏡止水。先程の精神統一とは逆に、心を落ち着かせることで相手の看破を防ぎます。ですのでシュートが看破を試みても無駄でした」


 なんだ。

 じゃあさっき聞いたのは看破しても無駄でしたって笑うつもりだったんじゃ?

 まぁ俺のハイアナライズは星6だから、明鏡止水も通り抜ける可能性はあったが。

 ……って!? ここに来て全く知らない能力がきてるじゃねーか!!


「レベル8は不撓不屈。強い意志を持つことにより、精神系の攻撃も、神経系の攻撃も効きません。そしてどんなに致命傷を受けても痛みで意識を失うことはありません」


 また知らない能力……。

 魅了や洗脳などの精神系の攻撃、麻痺などの神経系の攻撃。

 物理攻撃などの痛みはあるが、どんなに瀕死の状態でも、痛みで意識が遠くなるようなこともないと。

 どんなに痛くても、意識さえハッキリしていれば上級ポーションなどで回復するチャンスができる。


「そしてレベル9は獅子奮迅。自らを鼓舞することで相手を威嚇。攻撃力も上昇します。そして最後にレベル10。風林火山は1~9までの能力の底上げです。どうです? 素晴らしい能力でしょう」

「どうですじゃない! 武芸百般は? 整理整頓は? 先手必勝と起死回生は?」


 どれ一つないじゃないか!


「シュートはひとつだけ勘違いしています。武芸百般は能力ではありません。スキルです」

「……ムサシは疾風迅雷の能力だと言っていたぞ」

「拙者は疾風迅雷の能力とは一言も言ってござらん」


 ……そうだっけ?

 鈴風の能力だと言ったのは間違いないけど……それを聞いて俺が疾風迅雷の能力と勘違いしたのか。


 鈴風によると武芸百般の能力は

 ――――

 武芸百般:あらゆる武芸を習得する


 レベル1:一芸一能

 あらゆる武芸の基礎を開花させる。

 レベル2:整理整頓

 武具を収納する。最大収納数は1,000。

 レベル3:虎視眈々

 チャンスに備えて相手の攻撃を耐えながら力を蓄える。

 レベル4:起死回生

 ピンチ時、一度だけ虎視眈々で蓄えた力を開放、併せて自身の怪我も治療する。

 レベル:一心不乱

 集中して武芸に打ち込むことにより武芸の達人への道が開かれる。

 レベル6:先手必勝

 戦闘開始時のみ一瞬で相手の間合いに踏み込む。

 ――――


「帝都生活の間にいつの間にか習得していましたが……疾風迅雷が自己強化のスキルだとすれば、武芸百般が戦闘に関するスキルということでしょうか」


 いつの間にか習得……ってのは、おそらく疾風迅雷をマスターしたからだろう。

 疾風迅雷マスターではないが、四字熟語繋がりで関係ないとは思えないし。


「はたしてレベル7以上の能力はどんな能力か……楽しみで仕方がありません」


 そう言って怪しく微笑む鈴風。

 これでまだ4つの能力が残ってるんだもんなぁ。

 楽しみってより恐ろしいぞまったく。

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