第49話 鈴風の乗り物
あれから鈴風が少しだけ変わった。
「シュート。あのアザラシみたいな魔物は?」
「あれは……アクアホーン。一角海獣だそうだ」
「そうですか……行きます!」
モンスターを発見するや襲いかかるのではなく、俺に一声かけるようになった。
俺はハイアナライズでモンスターの名前と特記事項があればそれを教える。
今回は説明文に毒や特殊攻撃はなかったので、名前と種族だけ伝えた。
鈴風は一瞬でアクアホーンに近づき、胴体を真っ二つ。
おそらく先手必勝の能力を使ったんだろうが……海中の動きにも慣れて使えるようになったようだ。
「変化」
鈴風がアクアホーンに触れてカードにする。
そうそう。それをやってくれると助かるんだよなぁ。
一方、先程わんわん泣いていたラビットAはというと。
「シュート! あれ、あれ何! 変なの!?」
ラビットAがねぇねぇと俺を呼ぶ。
すっかり元気を取り戻していつもどおり。
「あれは……アクアウイングだって。エイだから……フライングレイの親戚みたいなもんだ」
「やっていい?」
「ああ、いいぞ」
ラビットAに関しては鈴風に対抗意識さえ燃やしてなければ元からちゃんと確認していたから、これはお説教の効果ではない。
が、以前のラビットAなら、鈴風がアクアホーンを倒した時点できゅむむと悔しがり、自分もやると息巻いていただろうから……やっぱり変わったんだと思う。
「……良かった」
ラビットAがアクアウイングを倒しに行った後で、ナビ子がポツリと呟く。
「何が良かったんだ?」
「あっうん。変な空気にならなくて良かったなって」
俺がラビットAと鈴風に説教したことで、変な空気になるんじゃないかと心配していたようだ。
「あっ別にシュートがお説教したことを責めてるんじゃないよ。アタイだってあれは必要なことだったと思うし。でもね、アイビーの時はすっごく重たい空気になっちゃったからさ」
俺はあの時のことを思い浮かべる。
あれは……アイビーが調子に乗ってたから、お仕置きの意味でアイビーの本体をカードにして無理やり謝罪させた。
正直、あれは少しやり過ぎたと思ったが、あれっきりアイビーは引きこもるし、俺も意固地になった部分もあったから……あの数日間の空の旅は本当に空気が重く辛いものだった。
今回の場合、鈴風が開き直ったりしていたら、ああなっていた可能性もあったわけで……ナビ子が心配するのも無理はないな。
「きゅきゅえ!? シュートシュート。あっちにいっぱーのタコさん!」
「なにっ!?」
ラビットAが指した方向へ移動すると……兜を冠り、武器を持ったタコの集団。
――――
オクトソルジャー
レア度:☆☆☆
タコ系中級モンスター。
知性を得、道具を使用するようになったパワーオクト。
集団で行動するオクトの特攻隊長。
――――
――――
オクトメイジ
レア度:☆☆☆
タコ系中級モンスター。
知性を得、魔法を使うようになったパワーオクト。
集団で行動するオクトの特攻隊長。
オクトソルジャーなどと組んで行動する。
――――
初めての星3!!
しかも集団で!?
「倒していーの?」
「一匹残らず捕まえろ! ただし、魔法を使う個体のいるみたいだから無茶はするな!」
「きゅっきゅいー! きゅぎゅかー! 行くよー!」
「待ちなさい……ウサコ。左右から挟み撃ちにしますよ!」
「きゅい!」
また勝負……と言い出すかと少し心配したが、上手く連携して倒すみたいだ。
うんうん。良きかな良きかな。
****
「でゅふふふ」
手元には多数の海のモンスターカード。
ニマニマが止まらない。
「……やっぱり類友よね」
「あん? どういう意味だ?」
俺が誰と似てるって?
「きゅート、アザレアみたーな笑いかた」
「むっ失敬な。俺はあんなキモい笑い方はしてないぞ」
「いや、してたし。やっぱり趣味に没頭する時はああいうキモい笑い方をするんだね」
……はたしてナビ子は俺をディスってるのかアザレアをディスってるのか。
「アザレアとはアズリアの姉ですよね? あんな笑い方をする人物なのですか……」
何やら鈴風がドン引きなのだが……俺はどんな笑い方をしていたんだ?
って、カード化スキルを付与した時のアザレアみたいな笑い方か。
うん。
自重……したいけど、目の前にこんなにカードがあったらさ。
自重なんて無理でしょ。
タコの集団を倒した後も、周囲にいたモンスターを狩りまくり。
全員の探知にも引っかからなくなったところで、俺たちは一旦休憩として戦果確認をすることにした。
「とりあえずメガロバラクーダが200枚以上手に入ったのは大きいな」
「半分以上をわたくしが倒しましたけど」
「きゅむむ……だってきゅぎゅか、ズバーってズルいんだもん」
そういや、お説教で勝負のことには触れなかったけど、鈴風が124匹でラビットAが83匹だっけ?
ラビットAはほとんどの魔法が封じられていて、ボーパルソード中心で戦っていたことを考えると、薙刀の鈴風とはリーチも違うし、やっぱり
あの飛ぶ斬撃で複数体まとめて倒すのも大きかったと思う。
それを考えるとラビットAも頑張ったと思うよ。
まぁ褒めたらお説教の意味がなくなるから褒めないけどさ。
ともあれ、枚数が多いとゴブリンのように合成の種カードとなれるから、メガロバラクーダは今後海のモンスターを合成する際の元となるだろう。
「あとタコもいっぱい手に入ったね」
「魚だけじゃなく、他のモンスターも枚数が欲しかったから助かったよ」
あのタコの集団は星3オクトソルジャーが10枚、オクトメイジが5枚、オクトアイが1枚、星2のパワーオクトが10枚と中々な枚数を手に入れることができた。
もちろん、それ以外のモンスターも何種類か手に入った。
中には星3もいてテンションだだ上がりだ。
星1
・シーキラー
・ハンマヘッド
・アクアホーン
・ゼラチンクラゲ
シーキラーは牙魚と同じピラニアみたいな魚。
ハンマヘッドは地球にもいた……シュモクザメだっけ?
あれがハンマーヘッドって呼ばれていたと思うけど、まんまあれと同じ。
最初はモンスターじゃないんじゃないかと思ったけど、一応モンスターで間違いないみたいだ。
動物で言うワイルドシリーズみたいなものかな?
アクアホーンは鈴風が倒した一本角のアザラシみたいなの。
アザラシに角が生えた程度だから星1が妥当だろう。
ゼラチンクラゲは名前の通りぶよぶよしたクラゲ。
スライムの海版って感じのモンスターだった。
星2
・アクアウイング
・レモラ
・ホワイトオルカ
・デスシャーク
・シーワスプ
アクアウイングはラビットAが倒したエイ。
ヒレが翼みたいだから海の翼でアクアウイングらしい。
ホワイトオルカは光属性の白いシャチ。
シャチって黒に白い模様があるイメージだけど、全身白ってのも美しい。
デスシャークは闇属性の黒いサメ。
ホワイトオルカの真逆って感じの真っ黒なサメ。
星2のくせにかなり強いモンスターだった。
シーワスプはクラゲ。
海の蜂の名が示すとおり、毒針を仕込んでいるクラゲだ。
星3
・スカーシャーク
・ファンガスクラゲ
スカーシャークは一見すると傷だらけでボロボロのサメ。
ただ説明文によるとキラーシャークが傷だらけになりながらも強敵と戦い続けたレア個体とのこと。
体中の傷は勲章らしい。
ファンガスクラゲはキノコに擬態したクラゲ。
海にキノコが生えてると不用意に近づくと毒性の胞子を噴き出して相手を狩るらしい。
お説教をしていたから、ラビットAも注意していたが、もしお説教をしていなかったら……もしかしたら今頃ラビットAが被害を受けていたやもしれん。
これにメガロバラクーダとタコが四種。
初日にしては上出来なんじゃない?
「シュート。サメも手に入りましたので、わたくしの乗り物を所望します」
あ~サメに乗りたいって話だったもんな。
今後のことを考えると鈴風にも乗り物は必須だし、そもそも鈴風が退治したモンスターだから断れない。
「ああ、別に構わないが……どれにする? というか、サメじゃなくシャチもいるぞ」
サメはハンマヘッドにデスシャークにスカーシャークの三種。
そしてシャチのホワイトオルカ。
俺なら真っ白で見た目も美しいシャチの方がいい。
「ではスカーシャークで」
鈴風シャチじゃなく傷だらけのスカーシャークに決める。
この中では唯一の星3で、戦闘能力だけは抜きん出ているとは思うが……正直、見た目はお世辞にもいいとは言えない。
「強敵と戦ったという生き様が気に入りました」
なるほど。
バトルジャンキーの鈴風だからこそ感じるものがあったというわけか。
それなら別に異論はない。
ああでも星3か……。
俺のジェット君は星4だし、ラビットAのコールは星5。
星3だと少し物足りない。
「もしかしたら傷はなくなるかもしれないが……合成して強くさせてもいいぞ」
「ええ。それでしたらお願いします」
鈴風ももっと強くしたいという思いがあったようだ。
「どうせなら、わたくしの乗り物に相応しく、わたくしと同じ雷と風を……それから……」
ぶつぶつと呟く鈴風。
……変な魔改造だけは止めてくれよ。




