第47話 バトルジャンキーの暴走
鈴風のサメかイルカに乗りたいという要望により、早々に訓練を引き上げ、遠海へと向かうことになった。
正直、もう少し慣れてからの方がいいとは思うが……ラビットAと鈴風だし、訓練よりも実践の方がいいんだろうきっと。
まぁぶっちゃけると、俺も楽しみだしね。
俺が訓練した無人島から1キロ圏内に出てきたモンスターは変な魚が二種類とクラゲとイソギンチャクくらいで、ほとんどが普通の魚のみ。
早くまともなモンスターにお目にかかりたいものだ。
現在はセレンが先頭で、その後を俺が、さらにその後ろに鈴風とラビットAが続き、最後尾と周囲をEカーバンクルが固める。
「ウサコ。一概にサメと言っても中には6つの頭を持つサメがいまして」
「きゅええ~。きゅぎゅか、物知り!」
「そうでしょう、そうでしょう。サメのことなら何でも聞きなさい」
「きゅい!」
すぐ後ろから頭が痛くなりそうな会話が聞こえてくる。
……鈴風もB級映画好きなのな。
「本当、どんなサメモンスターがいるんだろうね」
胸ポケットにいるナビ子まで……何故サメ限定で話を進めるのだろうか。
俺はコレクションが増えさえすれば何でもいいよ。
「にしても、この辺りは平和だな」
「だね~」
正確な距離は分からないが、無人島から離れて2、3キロってところか?
未だに新しいモンスターが現れる気配はないのだが……アクアパッツァでは、陸から30キロ以上離れないとモンスターが出てこないって言ってたし、そう考えるとモンスターが出るのはもっと先?
それはそれで退屈かも……まぁモンスターが出てくるまでは普通にダイビングとして楽しめばいいか。
「きゅわわ! シュート。あっちから知らないモンスターがいっぱー!」
と、そう思っていたらモンスターか。
真っ先に気づいたのはラビットA。
海中でも第六感と千里眼のスキルは通用するみたいだ。
「アタイより早く見つけるなんて……なんか複雑」
「……やりますね。ウサコ」
「マスター。どうかアタクシにも察知系スキルを……」
「きゅっへん」
ラビットAに負けて悔しそうなナビ子と鈴風。
二人の探知能力は海中では少し鈍くなっている模様。
セレンに関しては……うん。
真面目にあった方がいいと思うので、カーバンクルたちと一緒に、後でスキルを覚えさせることにする。
やがてラビットAが示した方向からモンスターが集団で……。
「多っ!?」
えっ? これ何匹いるの?
多分軽く百匹は超えていそうな……いや、確かにラビットAはモンスターがいっぱいと言っていたけど。
多すぎだろ!?
しかも一匹一匹が多分俺よりも大きい……2メートル以上の巨大な魚。
幸い、俺たちを襲ってきているわけではなく、近くを通りかかっている回遊魚の性質を持つモンスターのようだが。
「シュート。いいこと。いくらカードが欲しくても、あの群れに襲いかかっちゃ駄目よ」
「当たり前だろ」
それくらい俺だって分かっている。
慣れない海中で、更に魔法も上手く使えない状況、しかもどんな能力を持っているかも分からないモンスターの群れを相手にするなんて厳しすぎる。
大人しく過ぎ去るのを待って、可能なら何匹か捕らえるのが妥当なところだ。
「ウサコ。どちらが多く倒せるか勝負です」
「きゅい! 望むところ!」
「「ちょっとまてえええ!!!」」
だと言うのに、この空気を読まないバトルジャンキー二人は!!
「うるさい。静かにしないと襲われますよ」
「きゅート、真剣しょーぶの邪魔しないで」
えええ……俺が責められるの?
「察知能力では負けましたが、倒した数では負けません」
「きゅしし。返り討ち!」
「では……カーバンクルはわたくしとウサコが逃した残党の処理を。コールとセレンはシュートの護衛を。頼みましたよ」
「きゅい、シュートを守ってて」
そう言ってモンスターの群れに向かって飛び出す二人。
そして鈴風の命令に従うセレンたち。
……ねぇ。誰がマスターだっけ?
「……シュート。アタイたちは大人しく下がってようか」
「……そうだな」
結局、獲物を前にしたバトルジャンキーには何を言っても無駄。
俺とナビ子は邪魔にならないように下がって見守ることにする。
「――せい!」
先制攻撃は鈴風。
離れた場所から海鳴刀を振り下ろしただけで、正面にいた何匹かの魚から血を噴きながら倒れる。
「ねぇねぇ。あれってさ。飛ぶ斬撃ってやつかな?」
「……海を割るって話もあながち冗談じゃないよな」
この世界には剣術とか武術とかのスキルはあっても、スラッシュとかゲームにありがちな戦闘系特技ってのは存在しない。
もちろん魔法でもないから、完全に自力でやっちゃってるんだよなぁ。
本当、規格外と言うか一人だけやってるゲームが違うって感じだ。
「ふふん。どうですかウサコ」
「きゅむむ……こっちだって!!」
ラビットAは負けじとボーパルソードを振り……同じく遠くにいた魚が斬られる。
「……ラビットAの方は斬撃にウインドカッターを被せたわね」
「ああ、ズルいな」
一見、同じような剣技と見せかけた風魔法。
まぁ別に剣技で勝負しているわけじゃないだろうが……なら別に誤魔化さなくても最初から魔法だけでいいだろうに。
「きゅふふ。どーお!」
「……やりますね」
そこからは二人群れの中に入っての大立ち回りが始まる。
二人は襲いかかってくるモンスターを避けたり斬り落としたり。
……不利な海中であれだけのモンスターを相手にしてもバトルジャンキーたちには何の問題もないっぽい。
「って!? 誰があのモンスターの死体を回収するんだよ!?」
モンスターの死体が流れていってるぞ!?
鈴風は倒すことに集中していて一切カードにしてないし……おいおい、何のためにカード化スキルを与えたと思ってるんだ。
「もしかして……俺があの中に入ってカードにするの?」
回収しないって選択肢はないけど。
えええ……あの中に行くの?
「あっほら、あれみて。リコたちが回収してる」
「えっ、あっ本当だ」
ナビ子の言葉にリコたちを見てみると、鈴風とラビットAの邪魔にならないように死体に近づき、収納スキルで死体を回収している。
収納スキルに入りきれなくなった分は、魔法を使って死体が流れないようにしている。
――――
ダークチェイン【闇属性】レア度:☆☆
初級闇魔法。
闇の鎖を召喚し、対象を縛る。
――――
リコたちは縛るんじゃなくて、鎖をぶっ刺してる。
死体だから外すような真似もしないから、それでいいんだろうけど……愛くるしいリスが魚に鎖をぶっ刺しているところを見るのはある意味トラウマになりそう。
ちなみにクコだけは闇魔法が使えないので、鎖を持つ係になっている。
「あれが風船だったら可愛いって言えるのに」
鎖の先が魚の死体だもんなぁ。
でもまぁこれで俺が回収に行かなくてもいいわけだ。
「よし、安心して見学できるな」
「……シュートって本当に役立たずよね」
ほっとけ。
むしろ邪魔にならないように待機するほうがいいんだよ。
「とりあえず……あのモンスターを確認するか」
「そだねー」
俺はハイアナライズであのモンスターを鑑定。
目の前にカードが現れる。
「海中でも普通に鑑定カードが現れるのね」
「ああ。便利だろ」
俺は訓練中に確かめていたから知っていたが、ハイアナライズの鑑定カードは普通に目の前に現れる。
他にもカード呼び出しでもちゃんとカードは呼び出される。
ただ、急いで取らないとすぐに流されてしまうが。
それに現れたカードライファスキンの効果がないので濡れてしまう。
鑑定カードはコレクションにはならないので、濡れても構わないが、カード呼び出しのカードは本体のカードなので、出来ることなら濡らしたくない。
もちろん一日経てば、濡れたカードも普通に戻るけど……やっぱり出来る限り濡らしたくはないもんなぁ。
俺はカードを図鑑に入れて鑑定結果を確かめる。
図鑑にはライファスキンの魔法が掛かっているから、開いても濡れない。
――――
メガロバラクーダ
レア度:☆☆
魚系初級モンスター。
群れをなして行動する非常に獰猛な回遊魚。
体内に毒を持っているため食用には向いていない。
――――
星2なのは鈴風とラビットAが無双している時点で何となく察していたからいいとしてだ。
「……コイツ、毒持ちかよ」
こんなにデカくて食いごたえがありそうなモンスターなのに食べられないとか。
それだけが残念である。
「フグみたいに毒の部分を取り除いたり、火を通したら食べられないか?」
もしくは光魔法で毒を浄化したり。
俺がそう言うとナビ子は呆れた顔をする。
「アンタ……どんだけ魚を食べたいのよ」
「食べたいってか……単純にもったいないだろ」
そりゃあ日本人なんだから、魚は大好きだけども。
それよりもあんだけの数を退治しておきながら肉は無駄ってのがもったいなさすぎる。
「分解して食べられる部位が残ってたら大丈夫なんじゃない?」
「そっか。そうだよな」
こういう時に便利な分解の能力。
「でもでも! 絶対に食べる前は誰かで試しなさいよ!」
中々最低な発言をするナビ子ではあるが。
別に鈴風やアズリアで試せって言ってるわけじゃなく、毒があっても死ぬ心配のないカードモンスターに食べさせろと。
じゃあ……ホブA辺りに実験台になってもらおうかな。




