第46話 最初の目標
「じゃあラビットA。魔法を頼む」
鈴風に海鳴刀を返した俺はラビットAに魔法をお願いする。
俺がカードで使うんじゃなく、ラビットAにお願いする理由はただ一つ。
持続時間が違うから。
海中で活動できるようになる魔法はライファスキンとテキトーオー。
どちらもカードで発動すると一時間しか効果がなかった。
アズリアが試してくれたソリッドエアも一時間だったし、どうやらカードで魔法を発動した場合は持続時間が一時間が限界のようだ。
ただ、試しにラビットAが使うと半日は持つことが判明している。
やはり使う際の魔力やイメージに左右されているのだろう。
「きゅい! ……どっち使うの?」
この二つに殆ど差はない。
強いてあげるとすれば、ライファスキンは表面に膜を張るから、服や身につけているものも濡れない。
つまりカードも濡れない。
一方テキトーオーの方は膜を張らないので濡れはする。
つまり地上に戻った際に、カードも濡れる。
ただライファスキンのように膜を張る感覚はないので、海中での自由度は高い。
ってことで、俺の場合はカードを濡らしたくないのでライファスキン一択なのだが、ラビットAや鈴風のように、戦闘メインで細かい部分も気になるようならテキトーオーの方がいいだろう。
まぁ二人も武器を濡らしたくないのなら、ライファスキンになるだろうが。
「りょーかい!」
ってことで俺とナビ子はライファスキン。
ラビットAと鈴風とムサシはテキトーオーを使う。
ちなみに、この場で二回使って一日……のように重複させて持続時間を延長させるのは無理。
最後に使用した分から半日が持続時間となる。
「いいかラビットA。10時間毎に全員に魔法を使うからな」
「きゅい! 分かってる!」
切れてから唱え直したら間に合わないから、余裕を持って10時間で唱え直すことにする。
2時間も余裕があれば万が一はないだろうしな。
ただ……それでもラビットAが魔法が使えなくなった場合。
離れ離れになったとか、戦闘中で魔法が使えない状態とか。
俺とナビ子はカードが使えるから問題ない。
問題は鈴風だ。
鈴風はカードが使えないし、ムサシは魔の覚醒スキルを持っているが、星5のライファスキンとテキトーオーは使用できない。
一応、下位魔法のソリッドエアは魔の覚醒スキルでも使えるから、死ぬことはないだろうが。
「心配せずとも、いざとなれば海を割ってしまえばいいだけのこと」
だから怖いって!
仕方ない。
俺は鈴風にカード化スキルを付与することにした。
付与するのはカード化スキルのレベル1の基本能力とレベル5の能力であるクールタイム短縮、それからカード複製の三種類。
クールタイム短縮は普通に便利だからあって困るわけじゃないし、万が一武器が壊れても一日一回なら補修ですぐに元通りになる。
カード複製はライファスキンとテキトーオーを自分で複製して使用するために必要。
「合成はできないのですか?」
「……必要ないだろ」
というか、合成を渡したら、何をしでかすか分かったもんじゃない。
同様に分解を渡すのも、勝手に倒したモンスターのスキルを手に入れる可能性があるから絶対に渡せない。
「いいか。もしモンスターを倒したら、全部カードにして俺に渡すんだぞ。それが守れないとカード化スキルも与えないし、海中探索にも参加させない」
「ここまできて条件を突きつけるとは卑怯な」
卑怯とはいうけど、お前の危険を避けるためなんだぞ。
倒したモンスターのカードを報酬として貰うくらい普通だろうに。
「分かりました。わたくしは強いモンスターを倒せれば良いだけですので、その条件を飲みましょう」
そういうわけで俺は鈴風にカード化スキルを付与し、全員で海に潜ることにした。
****
「きゅわわ~やっぱー、変な感じ~」
「……上着を着ても問題なさそうですね」
海中に潜ったラビットAと鈴風が動きを確かめる。
前回の訓練の時点で三日間訓練した俺と同じくらい上達してたから、二人に関しては問題なさそうだ。
一方、元電子妖精の二人は苦戦中。
俺としては空を飛ぶ感覚に近いと思っていたのだが、普段空を飛んでいるナビ子によると全然違うらしい。
まぁ羽を使って泳ぐわけじゃないから、そういう意味で勝手が違うっぽい。
それから元の体が小さいこともあるから、少しの海流で流されそうになる。
魔法で海に適した体になっても、地上での風のように、海流の影響はある。
常に風が吹き続けることと、地に足を付ける場所がないってことで、ナビ子とムサシにとっては厳しい環境のようだ。
結果、ナビ子は俺の胸ポケットにムサシは鈴風のパーカーのフードに収まった。
「ナビ子、大丈夫か? バグってないか?」
「バグるわけないでしょうが!! アタイはもう電子妖精じゃないんだし!」
よし、冗談に反応できるくらいには元気と。
ラビットAみたいに海が嫌って引きこもる気配がないだけで十分だ。
「主……申し訳ないでござる」
「気にすることはありません。……が、わたくしの知るムサシなら、すぐに慣れると信じていますよ」
「はっ。必ずや主の期待に答えるよう努力するでござる」
……こっちはこっちで、いいコンビなんだろうなぁ。
しばらくの間は俺が訓練した範囲の近海でラビットAと鈴風も訓練。
「ラビットAは魔法の確認もするように」
魔法にはテキトーオーもライファスキンも掛かってないから、使える魔法が極端に制限される。
火属性は弱い炎なら一瞬で消えてしまうだろう。
土属性の岩は海底に沈むし、植物系も近くになければ使えない。
雷属性に至っては、効果は抜群だろうが、俺たちにまで被害があるだろうから、絶対に使用できない。
光属性は……光の屈折とか科学的な話になりそうで、考えたくない。
残るは風と水と闇。
水は……効果があるのかどうか。
少なくとも氷魔法は溶けてしまいそう。
風は……ウインドカッターみたいに水を切る魔法は期待できそうだけど、トルネードのような魔法は別の水魔法になりそうな気がする。
闇は……これも二次災害に巻き込まないようなものなら大丈夫か?
「きゅい! まーかせて」
……激しく不安である。
それでもラビットAに任せるしかないんだけど。
「そういえばシュートの銃はどうなの? 試してみたんでしょ?」
「……海では俺は役立たずってことで」
「……使えなかったってことね」
いや、別に使えないことはないんだが……ラビットAに確認しろって言った魔法に関して言えば、全部試して微妙だったと。
……サンダーの魔弾を使って自爆したのは内緒ってことで。
俺は仲間に守られながら大人しくするよ。
ってことで、その仲間も召喚。
Eセイレーンのセレンと、海中で自由に動けるようになったコーラルヘアのコール、そしてクコ、チコ、リコの三匹のEカーバンクルの五体を呼び出す。
彼女たちは元々海中で過ごせるから魔法を使う必要はない。
ただセレン以外は初めての海だから、一緒に慣れてもらわないと。
セレン以外はナビ子と鈴風に近づき、一緒に遊び始める。
「マスター。アタクシはこの辺りの調査に行ってまいります」
セレンは慣れるまでの間に野生のモンスターが近づかないか見張りに行く。
やっぱりこの海では一番頼りになるよなぁ。
「ねぇねぇシュート。あのカニは出さないの?」
「……カニじゃなくて、ジェット君な」
ナビ子の言っているカニとは、俺が移動用に準備したアーマーヘッドクラブのジェット君のことだろう。
乗り心地も確かめなくちゃいけないし、もちろん出すに決まっている。
召喚されたジェット君は嬉しそうにハサミを鳴らす。
「よしジェット君。前進だ」
俺はジェット君にまたがり支持すると、ジェット君がまっすぐに前進する。
グリフォンに乗って空を飛んでいる時と同じように、海流の抵抗は殆ど感じない。
そのまま俺はジェット君に曲がってみたり一回転させたりしてみる。
「あああー!! きゅート、なにそれなにそれ!」
それを見ていたラビットAが興味津々といった感じで俺に近づく。
そういえばラビットAはジェット君を紹介した時はその場にいなかったな。
「ふふん。ジェット君だ。いいだろ」
うんうんと頷くラビットA。
「きゅわわ~かっこいー!!」
そうだろそうだろ。
アズリアやナビ子には良さが分からなかったみたいだが、ラビットAはジェット君の良さを分かってくれるみたいだ。
「どうだ? ラビットAも乗りたかったら用意するぞ」
アズリアとナビ子の評判が悪かったから、合成はしていないけど、鈴風とラビットAにも乗り物は必要だと思っていたから、素材の準備はしている。
「きゅむむ……ちょっとおっきーかもー」
あ~確かにラビットAにはジェット君は大きすぎるかもしれない。
かといって、合成で大きさまでは指定できないしなぁ。
「あっそーだ!」
なにか思いついたのか、ラビットAはコールに近づき……そのままコールに乗る。
コールの二本の角が手で掴むのにちょうどいいっぽい。
「きゅい! どーお?」
……ウサギにまたがるウサギ。
うん、かわいい……というより、どことなくシュール。
別にコールも嫌がってなさそうなので、ラビットAとコールさえ良ければいいんだけどさ。
「……サメかイルカはいないのですか?」
いつの間にかこちらに近づいていた鈴風。
……鈴風はアズリアやナビ子と同じか。
「残念ながら、サメもイルカも手に入れていない」
いるのは俺も諦めた手の生えた魚とピラニアみたいな魚だけ。
……そういえば、砂の中を泳ぐサンドシャークならいるが、それじゃ海はねぇ。
「では、最初の目標は白いイルカを捕まえることとしましょう」
いや、何で白いイルカ限定なのかと。
そもそも勝手に目標を決めるなと。
目標はアクアパッツァに帰ることだぞ?
「そしてわたくしは海のトリートーンと呼ばれることに」
……いつの間にか完全に自分の世界に入っているし。
ネタが古すぎて分からねーっての!




