第37話 ナビ子のいない日
次の日、起きるとすでにナビ子がいなかった。
どうやらもう日本へ帰ったようだ。
ナビ子の本体である『旅のしおり』はそのままある。
か、その本にナビゲーションボタンがなくなっており、呼びかけても出てこない。
一応『旅のしおり』を読むことは出来るのだが……不在中に勝手に読むと、ナビ子は絶対に怒るだろうな。
ただ、俺にはひとつだけ気になることがあった。
以前ナビ子が教えてくれなかった情報だ。
そのことに関して、ある程度予想できているんだが……一応確証が欲しがった。
だから……そのページだけ確認させてもらった。
もしナビ子が戻ってきたときにバレたら……その時は全力で謝ろう。
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俺は朝の筋トレと銃の訓練の日課を行う。
筋トレは少し少なめ。
ナビ子がいないからケアしてもらえないもんな。
そして銃の訓練だが……そこで命中補正のスキルを実感できた。
まず銃を持って的を見ると、いつもより的が大きく見える……気がする。
もちろん的が変わったわけではない。
そして銃を持っていなかったらいつも通りに見える。
それだけじゃなく、銃を構えると、弾の軌道がなんとなく見える。
そしてその軌道通りに弾が発射される。
流石に動きながら軌道を確認して撃つのは難しいが、今までよりもはるかに命中精度が上がった。
これ……レベル10になればどうなるんだろう?
しかし……いつもなら、スキルの解説をしてくれたり、銃の扱いが上手くなったことを喜んでくれるナビ子がいないのは……寂しいな。
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「きゅむ~!」
目の前にいるラビットAが不満そうに唸る。
どうやらかなり怒っているようだ。
原因は俺が返還で無理やり呼び戻したせいだろう。
「まぁまぁ。ラビットAなら数日くらい遅れても大丈夫だって。それよりも、俺の話し相手になってくれよ」
ナビ子がいなくて、カードモンスターも全員出払っている。
一応定期的に戦利品を持ち帰ってくるのだが、すぐに戻ってしまう。
本当にボッチだから、寂しくて仕方がない。
「きゅうう……」
ラビットAは少し悩んでいるようだ。
俺と一緒にいたいけど、外にも出たいってところだろう。
「なぁ……だったらラビットAにもメリットのある実験をしないか?」
「きゅう?」
おっ実験と聞いてラビットAが興味を示した。
「ああ……ラビットAは魔法を覚えたくはないか?」
「きゅきゅ!!」
その言葉にラビットAが大いに喜ぶ。
本当なら魔法習得は街まで……魔道書を手に入れるまで温存しておくつもりだった。
ただもうそれは必要ない。
それどころか、先ほど知り得た情報が確かなら、今後は魔道書を買う必要がなくなる。
「ラビットAは魔の素養のスキルだから、どの属性も適性はあるはず。……とりあえず最初は無難にアクアから覚えていくか」
何せ魔法を見るのは初めてだからな。
どれくらいの威力があるのか予想もできない。
ファイアの魔法は攻撃性が高く、怪我する可能性がある。
その点、アクアなら水浸しになるくらいで、危険は少ないだろう。
「確か魔法を覚えるのはセットだったよな」
間違えて解放したら大変なことになる。
俺はラビットAの頭にカードを当ててセットと唱える。
すると、カードがラビットAに吸い込まれるように消えていった。
俺がスキルを覚えたときと全く同じだ。
ってことは、ラビットAはもう魔法が使えるのかな?
「ラビットA……魔法は使えそうか?」
「きゅう?」
よく分かっていないらしい。
まぁ俺もスキルの時は全然分からなかったもんな。
「多分もう使えるはずだから……外に出て確かめてみようか?」
「きゅきゅっ!」
ラビットAも早く試してみくてウズウズしてるので、早速外に出て試してみる。
「いいか、ラビットAが覚えたのは、アクアという水が出る魔法だ。角強化の要領で、魔力を集中して、アクアと念じてみろ」
俺は簡単にアクアの魔法の効果をラビットAに説明する。
魔法の効果が分からないと、完成した魔法のイメージが出来ないもんな。
魔力のコントロールに関してはあまり心配していない。
角強化はスキルだけど、魔力を消費して強化されるスキルだ。
魔力の込め方は変わらないので、ラビットAならすぐにできるはずだ。
「きゅむむむむ……」
ラビットAが唸りながら角に魔力を集中させると、角が光り……
「きゅきゅっきゅー!」
ラビットAの叫びとともに角の先端に水の塊が現れる。
「おおっ! やったな!」
「きゅきゅ!」
俺とラビットAが喜んだ瞬間……水はバシャッと地面に落ちる。
どうやらラビットAが油断して制御を怠ったようだ。
「きゅぅぅ……」
ラビットAがしょんぼりと鳴く。
ペタンと垂れた耳がかわいい。
「そんなに落ち込まなくても……魔法は成功したんだしさ。制御に関してはこれから練習していこう」
「きゅっ!」
俺の励ましにラビットAが耳がピンとなる。
どうやら元気を取り戻したようだ。
「次は……試したいことがあるから、さっきよりも少しアクアの持続時間を長くしてくれ」
「きゅきゅ!」
ラビットAは先ほどと同じように魔力を角に込め、アクアを唱える。
2回目だからか、先ほどよりも手際よく感じる。
慣れていけば、魔力を込める時間が短縮されそうだ。
「よし、ラビットA……俺が今からアクアに触るから、しばらくそれを維持しておくんだ」
「きゅっ」
ラビットAが短く鳴く。
集中している証拠だろう。
俺は……アクアに手を突っ込む。
冷たくて気持ちいい。
本当にただの水のようだ。
「…………変化」
俺がカード化スキルを発動させると、アクアが一瞬にして消え去る。
「きゅびぃっ!?」
アクアが無くなったことに驚くラビットA。
そして俺の手の中には……アクアの魔法カードがあった。
「よし、成功だ!」
「きゅぅぅ?」
ラビットAは何がどうなったか分かっていない。
「あのな、今のはラビットAのアクアの魔法をカードにしたんだ」
魔法をカードにする方法は2種類ある。
俺はその内1種をナビ子から聞き、もう1種は危険だからと教わらなかった。
1つは魔道書をカードにすること。
そして危険な方の方法は……魔法を直接カードにすること。
つまり直接この手で触ってカードにすることだ。
ゲーム風に言えばラーニングってやつだな。
それからもちろん発動している魔法をカード化するだけなので、ラビットAが魔法を忘れるってこともない。
ただし、発動中の魔法はカードに取り込まれてしまうけど。
これ……カードにしたいから使うんじゃなくて、魔法から防ぐためにカードにするって手もあるよな。
まぁタイミング次第では大怪我しそうだけど。
ナビ子が危険だと言って俺に教えない理由もわかる。
でも……初級魔法で、しかも仲間が使う分には危険はほとんどない。
そう思ってラビットAに使わせたんだが……大成功だったな。
「よし! じゃあ片っ端から魔法を覚えて、魔法カードの量産を始めようか!」
「きゅー!!」
今週末は予定がありますので、2投稿ではなく土曜日は午前中、日曜日は夜の1投稿とさせていただきます。




