第37話 一週間の検証
「やーだー! アタイ、マスターのお嫁さんになる-!」
そんなわがままを言うアタイっ子のEセイレーンと。
「シュートさいてー」
「きゅいてー」
さいてーしか口に出さないナビ子とラビットA。
そんな風に喧しくしていたら、残ったアズリアと鈴風が起きてこないはずもなく。
終いにはアズリアの護衛のティータや……チームリーダーを務めるメーブも出てきて。
「これだからアタイは……」
「やはりアタイは問題児……」
「なんでさ!? アタイは関係ないでしょうが!!」
とまぁナビ子がディスられたりと、すったもんだあったものの。
Eセイレーンが飛行型から人魚型へと変化したことで一区切り。
「アタクシとしたことが……お恥ずかしい」
子供向けプールに入ったEセイレーンは、今までの行動を思い出し、恥ずかしそうに顔を覆う。
……どうやら、セイレーンは飛行型と人魚型で性格が違うみたいだ。
飛行型は活発な子供で人魚型は大人しそうな女性。
それだけでなく、女子高生くらいだった見た目が20代くらいに成長していて。
もし、こっちのEセイレーンに抱きつかれでもしていたら、さっきのように冷静でいられただろうか?
……そう考えると、人魚型の性格が常識的で本当に良かった。
「やっぱりアタイが粗忽な証拠……」
「これだからアタイは……」
「あんたら……いい加減にしなさいよ」
……はぁ。妖精三人は今日も仲が良くて何よりだなと。
そんなことを思いながらも、まだそんな時間が経ってない、さっきの至福な時間を懐かしく思った。
****
俺のチーム分けして行動する案は無事に採用された。
「いいことシュート。アタイの目がないからってセレンに変なことしちゃ駄目だかんね」
「きゅーだかんね」
だからしないっての。
まぁ色々と言いつつも、ナビ子も無人島チームに入ったから、信じてはくれているんだろうが。
それからナビ子とラビットAは鈴風と一緒に森へ、俺は砂浜の方へと向かう。
そこで今度はメーブやカーバンクル達を召喚。
「主。こちらは妾にお任せ下さい」
「うん、メーブ。頼むよ」
メーブもナビ子をからかう時以外はいたって普通。
合成で無くなったシザークラブの補充などを頑張ってもらいたい。
そして海辺でEセイレーンを召喚。
もちろん今度は最初から人魚型の方で。
「ま、マスター。さっきは失礼なことをして本当に申し訳なく……」
どうやら思った以上に気の弱い性格っぽい。
本当、飛行型とは正反対なんだな。
「別に気にしなくていいから」
そもそも好きって言われて抱きつかれただけだから、こっちとしては嬉しいくらいだ。
まぁ結婚はしないけど。
「というわけでセレン。よろしく頼むよ」
会話もできるようになったし、いつまでもセイレーン呼びはどうかってことで、セレンと名付けた。
「は、はい。マスター。不束者でありますが、よろしくお願いいたします」
……いや、その言い方だと別の意味に聞こえてしまうんだが。
まぁ突っ込んで、また恥ずかしがられても面倒だから言わないけど。
「ではマスター。魔法を……」
「そうだな」
俺はライファスキンのカードを取り出して解放する。
ライファスキンは俺を服の上から薄い膜で包み込む。
これで海中でも溺れない……よな?
とりあえず片足を海に入れ……冷たさは感じるが、足を上げると……よし、濡れていない。
「ではマスター。お手を」
俺は言われるがままセレンの手を取る。
「もし少しでも違和感がございましたら、すぐに仰って下さい」
「あ、ああ。分かった」
仮に声を発せない状態になっていたら、握った手を二回強く握ることで合図とした。
俺とセレンはそのまま海へと入っていく。
残るは顔のみ……となったところで、意味もないのに思わず大きく息を吸い、目をつぶりながら一気に潜る。
……風呂場で何度もやったことではあるが、やはり初めての海だと緊張する。
そしてゆっくりと目を開け……よし、ゴーグルをしているかのように目に海水が入ってこない。
いや、ゴーグルよりもハッキリと海の中の様子が見える。
「おお~」
思わず感嘆の声を上げるが、もちろん口に海水が入ってくることはない。
まるで全身に頭から足先まで透明のラバースーツを着ているかのような感じに近いか。
呼吸に関してはする必要がなく、全然息苦しくないが、出来ないってわけではない。
すーはー。
こんな風に大きく深呼吸もできるし……本当、魔法って不思議だよな。
「セレン。俺の声が聞こえるか?」
「はいマスター。聞こえます」
俺もセレンの声が聞こえるし、どうやら会話も問題ないようだ。
俺は改めて海中をじっくりと観察する。
……少し離れた場所に魚がいるのを確認する。
幸いなことにモンスターではなさそうだ。
モンスターが襲ってきたら訓練どころの騒ぎじゃないもんな。
「じゃあ……少しだけ手を離すぞ」
一応周囲が安全そうなことを確認してから、セレンから手を離す。
……そのままじっとしていても、沈んでいく気配もなければ浮かび上がる気配もない。
その場に留まるだけだ。
「マスター。そろそろ」
セレンが手を差し伸べたので、その手を掴む。
流石にまだ手を離した状態で動くのは危険だ。
「じゃあセレン。少し動いてくれ」
「はいマスター」
セレンが俺の手を引きながら少しずつ移動する。
水の抵抗は……殆どない。
でも移動するのに一番最適なのは泳ぐ動作。
地に足がついていていれば、普通に歩けそうでもある。
そうだな……浮遊の魔法を使って空に浮かんでいる状態に近いか。
うん。慣れたら普通に移動できそうだけど、慣れるまでは少し掛かりそうだな。
次は持続時間の確認と……慣れてきたらもう少し深海へ。
光の届かない場所でもちゃんと見えるのか。
あと……この状態でも魔法やスキル、カードが使えるか。
それと武器の使い勝手も確かめないと。
……ブラストガンやラビットファイアって使えるんだろうか?
う~ん。
まだまだ確かめないといけないことはたくさんある。
気長にやるしかないな。
****
それから、あっという間に一週間が過ぎた。
一応、どのチームも毎日アクアパッツァに帰還して、その日の報告をしている。
ナビ子たちの無人島探索は順調そのもので、3日で無人島を余すこと無く探索しきった。
中には面白いモンスターもいたようで……図鑑確認しながら俺も驚いたものだ。
探索が終了した後は、俺と一緒に海に潜って海中訓練をしたり、鈴風が俺のカードモンスターと無人島で決闘したり。
ホブAたち一部のゴブリンが釣りにハマったりと好き勝手している。
メーブたちの方も順調で、シザークラブを始め、砂浜モンスターの回収に成功している。
ただ残念なことに海竜石は見つからなかったようだけど。
そして俺の方はと言えば。
魔法の検証も海中訓練も順調そのもの。
そして時間を作ってはナビ子やメーブ達が手に入れたコレクションを眺めたり。
昨日と今日に至っては、幹部や古参も交えた大合成会も行った。
その甲斐あってセレンを中心とした海中モンスターも増え、戦力も充実した。
だから……明日からは本格的に海中探索を開始する。
その間、アクアパッツァには戻らないつもりだ。
「だからしばらくの間一人になるが……それでも本当にこの町に残るのか?」
俺はアズリアに確認する。
近場で海中バカンスならともかく、本格的な海中探索にアズリアは連れていけない。
となると、一人だけアクアパッツァに残ることになる。
もちろんティータは護衛で常駐させるし、他の海中探索に参加できないカードモンスターの分身カードは持たせている。
ただ……もし万が一、俺が死ぬことがあれば。
アズリアに貸与したカード化スキルが使えなくなる可能性がある。
そうなるとカード分身のラビットAもグリフォンも使えず、帰れなくなる。
だから、念の為ラビットAのテレポートで帰ったらと思ったのだが。
「長くても数日ですよね? それでしたら……まだまだこの町でやることもありますし。一度帝都に戻ってもいいかもしれません。だから……私が帰れるように、無事に戻ってきてくださいね」
そういうことらしい。
なんとなく、その言い方がフラグかなとか思わなくもなかったりするが。
「……そうだな。お土産でも期待して待ってろ」
「ふふっ。では大きめの真珠でも期待しておきましょうか」
真珠か……そうだな。
今回の旅はアズリアに頼りっきりだったし、少しでも恩に報いるためにもいっちょデカい真珠を探してみるか。
……それからあと一人。
「じゃあ明日に備えて早めに休むから」
「ええ。おやすみなさい」
俺は断りを入れて部屋に戻る。
そんな俺にアズリアは笑みを浮かべているが……もしかして気づかれた?
……まぁいいか。
部屋に戻ると俺は通信機を取り出す。
――ん。ああ、俺俺。
通信機の向こうから久しぶりの声が聞こえる。
――あ? 詐欺じゃないっての。
ったく。分かってるくせにさ。
――もっと連絡をよこせ? ……気が向いたらな。
頻繁に連絡したら……照れくさいだろ。
――それで用件? そっちはどうしてるかなって思ってさ。
本当は声が聞きたかったから……とか言えないよな。
――らしくない?
まぁそうかもな。
――こっちの話も聞きたい? そうだなぁ……何から話せばいいか。
話したいことはいくらでもあるんだ。
――そうだな。じゃあまず帝都に着いてから話そうか。
…………
……




