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第36話 予想外の進化

 テーブルに並んだ塩鮭に味付けのり。

 そしてワカメの味噌汁。


「ああ……これぞ日本の朝ご飯」


 海産物が手に入るだけでこんなにも充実した朝食が拝めるなんて。

 これだけでも、この町に来た価値があったというものだ。


「これに明太があれば最高だったのだが」


 そういえば日本にいた頃は毎日のように食べていたけど……明太って何の魚卵だっけ?

 ……タラだっけ?

 う~ん。自信ない。

 他にも数の子とかとびことか……この辺りも何の魚卵か分からないなぁ。

 何の魚の卵か分かれば、売ってなくてもこっちで加工できるのに。

 まぁ俺が知らなくても、ナビ子なら知識として知っているだろうから、今度聞いてみよう。


 食後は少し贅沢にもふもふタイム。

 最近仲間になったホワイトフォックスのユキコを膝の上に乗せる。

 まだ朝だからか、くわぁと欠伸をしながら眠たそうなユキコ。

 う~ん。声が出せないのが残念で仕方がない。

 そのユキコのひんやりとしたもふもふを堪能……。


「うはっ。なんだこれ。最高かよ」


 グリフォンやラビットAのような温かいもふもふもいいけど、ひんやりしたもふもふってのも格別だな。

 ここで更にコーヒー片手に、コレクション鑑賞と洒落込めば……なんという贅沢。

 まさに至福の時間とはこういう時間のことを言うんじゃなかろうか。


「ああー!! シュートなにしてんのさ!」

「きゅート。おはー」


 ちっ時間切れか。


「別に……ちょっと早起きしたから、先に朝食を食ってまったりしていただけだ」


 本当はコレクションの整理とか、色々と準備をしていて寝てないだけなのだが……まぁ似たようなものだよな。


「ほんとう~……って!? なにアタイのユキコを勝手に出してんのさ!」

「きゅしゃー!!」


 いや、そもそもナビ子のじゃないし。

 ラビットAも威嚇するんじゃない。


「まったくもう……もふりたい気持ちは分かるけど、ユキコは暑さに弱いんだから……あれ?」

「きゅぺぇ……してない?」

「ふっ俺が何の対策もなしにユキコを呼び出すと思うか?」


 ばたんきゅーしないように、ちゃんと昨晩のうちに暑さ対策済みなんだよ。

 ……とは言っても、単純に適応力のスキルを覚えさせただけだけど。

 どんな環境にも適応するってことは、寒い場所以外でも大丈夫になるってことだよなってことで試してみたけど……どうやら大丈夫そうで一安心。

 後でイエティとアイスワイバーンにも覚えさせてやろう。


「じゃあアタイももふっていいってことよね!?」

「きゅしゃー!!」


 だからラビットAは威嚇すんなっての。


「まぁいいって言いたいところだけど……まだレベルが低いから、また今度な」


 というわけで、ユキコをカードに戻す。

 レベルが低いと言うかレベル1だし。

 もう少しレベルが上がれば……毎日少しずつ呼び出してレベルを上げるしかない。


「ああっアタイのユキコが……」

「きゅふ~」


 だから断じてナビ子のではないと。

 それから同じカード仲間なんだから、ラビットAも良かったと安堵するんじゃない。


「それにしても、今日のシュートは本当に早かったのね。なに? 無人島探索に興奮して早起きしちゃったとか?」

「ぷぷぷ。きゅート。こどもみたい」

「いや、違うから」


 むしろ二人の方なんじゃないかと。


「大体……俺は無人島探索をする気はないぞ」

「えっ!? そうなの?」

「きのー約束したのに!」


 いや、鈴風とラビットAが勝手に言い出しただけだろ。


「別に無人島探索をするなと言っているわけじゃない。鈴風とラビットAがやってくれるなら、俺は別のことをするって言ってるんだ」

「別のことって?」

「きゅう?」


 なにせやることはたくさんある。

 無人島探索もそうだけど、昨日作った魔法の検証。

 本当に快適な海中生活を送れるか。

 それから当初の予定通り、海中探索に向かう際に海のモンスターを量産したいから、他にも現状手に入る海のモンスターの確保。

 砂浜にいるシザークラブや海上からでも倒せるモンスターはできるだけ確保したい。


「ってことで、チーム分けもしておいた」


 まずラビットAと鈴風の無人島探索チーム。

 ここには牧場にいるホブAを中心としたゴブリンチームやビーパラディンなどの昆虫チームにも参加してもらうつもり。

 ぶっちゃけ一日で無人島の野生モンスターを狩りつくせそうなくらいの過剰戦力だと思う。


「牧場の方には昨日のうちに連絡済みだ」


 昨日の夜に、サナに連絡して無人島探索に呼び出すかもとは言っている。

 もちろんサナも賛成してくれた。

 やはり牧場だけじゃなく、たまには別の場所で羽根を伸ばさないととのこと。

 ついでにユキコのことを自慢したら、早く帰ってこいとブチ切れられた。

 本当、生き物のこととなると性格が変わるよなぁ。


「なんか本当に準備万端って感じね」


 そりゃ一晩考えましたから。


「ラビットAも問題ないよな」

「きゅい! シュートと一緒じゃなーのは残念だけど、みんないるなら問題なー」


 俺と一緒がいいって言ってくれるのはちょっと嬉しい。

 まぁ俺も一日くらいは無人島探索にも参加してもいい。


「次のチームはメーブを中心とした砂浜探索チームだ」


 このチームにはラビットAのトラウマ砂浜や無人島の砂浜の調査及びモンスター退治をやってもらう。

 可能なら海竜石も……って流石に見つからないだろうけど。

 無人島の砂浜だけならともかく、トラウマ砂浜の方は人目を考えて、できるだけ小型の仲間のほうがいいと考えた。

 ってことで、メーブやピクシー、あと戦力兼収納スキルも持っている三匹のカーバンクル。

 砂浜のモンスターも大したことはなさそうだから、この戦力で十分だと思う。


 あと、申し訳ないけどティータには引き続きアズリアの護衛。

 これも必要なことだしな。


「ああ。あとナビ子には無人島チームに入って欲しい」

「えっ? アタイも? シュートと一緒じゃなくて?」

「ああ。じゃないと、無人島チームにカードを使える人がいないだろ?」


 牧場のモンスターを管理するためにも、無人島で倒したモンスターを回収するためにもカード化スキルはあった方がいい。

 しかし、カードモンスターにはカード化スキルの貸与が使えないから、ラビットAたちは使えない。

 鈴風にカード化スキルを貸与するって方法もあるが……貸与するだけならともかく、俺のカードモンスターを鈴風に任せるのはねぇ。

 片っ端から呼び出して決闘をふっかけそうだ。


 ってなわけで代理人スキルを持っているナビ子に任せたいと思っている。


「う~ん。理由があるなら仕方ないけど……じゃあシュートのチームはどうなんの?」

「別に俺は魔法の検証をするだけだから……。一応セイレーンに手伝ってもらうつもり」


 ライファスキンとテキトーオーの魔法が海中でも通用するかの確認。

 Eセイレーンにはインストラクター兼護衛ってことで。

 まぁ無人島のすぐ近くで検証するし、深くは潜らないから危険は少ないだろう。


 だがそれを聞いた途端、ナビ子とラビットAがジト目になる。


「セイレーンと二人っきりになりたいだけじゃない! シュートさいてー」

「きゅいてー」


 何でそうなるんだよ!?


「だって他にインストラクターになりそうな仲間はいないだろ」

「シーモンキーがいるじゃない」

「じゃない」

「いや、シーモンキーは流石に……」


 流石に星2で弱いし。

 同じ理由でフライングレイも駄目だぞ。


「ヒュドラーがいるじゃない」

「じゃない」

「デカすぎるわ!?」


 確かに星4で水の中で活動できるけどさ。

 どう考えてもインストラクター向きではない。

 むしろクラーケンとか呼びそうだ。


「でもほら、セイレーンって話せないから、意思疎通難しいし」

「話せるぞ」

「ええっ!?」

「きゅぴえ!?」


 ふふん。

 海中で会話できないと不便だろうと思って、昨日のうちに対策していたのだ。


「どどど……どーやったの!?」

「きゅーしたの!?」

「どうやったって……簡単に言えば、俺が倒したモンスターと合成しただけだけど」


 一応、俺が倒したモンスターは何体かストックがある。

 殆どがブルームで倒した星1とか星2で、しかも昆虫や爬虫類だけど。


 ただ……会話をするためとは言え、既に星5のEセイレーンを星の低い、しかもジャンル違いのモンスターと合成していいのかって葛藤はあった。

 それこそ最初は我慢して海中で良さげなモンスターを俺が倒してから合成してもいいし。


 そこでEセイレーンに直接聞いて……結果、今合成したいと主張したので合成することにした。


「いったい何と合成したのよ!」

「きゅたのよ!」

「あーうん。それがな……セイレーンが選んだのはコイツなんだ」


 俺は図鑑の白黒になったページを見せる。


「し……シザークラブ!?」

「きゅしゃー!!」


 そう。つい数日前に俺が倒したシザークラブ。

 それをEセイレーンは選んだ。

 考えてみりゃシザークラブは魔法カードを使ったけど、俺が倒したモンスターだから、シザークラブと合成しても会話できるようになるだろう。

 それに爬虫類や昆虫よりは海のモンスターつながりでマシな気がする。

 ……見た目ザリガニだから殆ど昆虫みたいなものだけど。


 でも、今までも当人が選んだ相手で失敗したことはなかったので、シザークラブと合成した結果……。


 ――――

 Eセイレーン

 レア度:☆☆☆☆☆

 固有スキル:水の極意、風の極意、歌姫、魅了、砂泳

 個別スキル:変身、適応、硬質化


 半人半魔の上級魔族。

 海のセイレーンと空のセイレーンの能力を持つ特別個体。

 砂中に潜ることもできる。

 どんな環境にも適応できる。

 ――――


「な、なんじゃこらあああ!?」

「きゅらあああ!?」


 まぁ驚くよな。

 俺だって昨日見たときは驚いたもん。

 名前とレア度は変わってないのに、固有スキルにシザークラブが持っていた砂泳が増えている。

 固有スキルって所に驚いたが……まぁ三匹のカーバンクルのように、種族は同じでも微妙に違うってのもあるみたいだから、そんな感じだろう。

 しかしこれでEセイレーンは空、水、砂で生活できるようになったと。


 あと、個別スキルに不協和音が無くなって、硬質化が増えている。

 不協和音は……声が発せないのに歌姫スキルがあるからのデメリットスキルだったようなので、声を発せられるようになった今、消えたんだろう。

 硬質化は……シザークラブって硬かったからなぁ。

 それから……当時はまだハイアナライズを覚える前だったから、気にしてなかったけど、Eセイレーンは適応スキルを持っていた。

 調べてみると……適応スキルは適応力の上位スキル。

 まぁカードとして持ってないので他の人には覚えさせることは出来ないけど。

 適応力二枚でできるなら……でも、適応力自体が貴重なので、合成するにしても慎重にしないと。


「うん。ちょっとビックリしちゃったけど、デメリットまで無くなったのは良かったね。ねぇちょっと呼び出してみてよ」

「きゅい! みたいみたい」


 ……俺としてはあまり見せたくないのだが。

 しかし見せないわけにもいかない。


 俺は覚悟を決めてEセイレーンを呼び出す。

 呼び出されたEセイレーンは地上なので空形態。

 キョロキョロと見渡し、俺を見つけると……。


「マスター! アタイ、マスターのお嫁さんになる!!」


 そう言って俺に抱きついた。


「おまっ!? だからお前はそんなキャラじゃなかっただろ!?」


 しかもまさかのアタイっ子。


「そんなことないもーん。マスター大好き!」

「……シュートさいてー」

「……きゅいてー」


 ……本当、どうしてこうなった。

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