第32話 ここはどこ?
「…………」
ぷくーっと。
頬を膨らませて不貞腐れているラビットA。
うん、かわいい。
って、そんなこと思っている場合じゃない。
「もー! うみ、きらいって言ったでしょ! なんで呼び出すの!?」
「ああうん。そうなんだけどさ……ちょっとね」
やっぱり昨日の今日じゃご機嫌斜めのまま。
だからこそ本当なら色々と対策を立ててから呼び出したかったのに。
「ごめんねラビットA。でも、どうしてもラビットAの力が必要なの」
「そうなんだ。すまんが助けてくれ」
「きゅい? どーしたの?」
俺とナビ子の態度にただ事ではないと感じたのか、怒りを抑えるラビットA。
「とりあえず……ここをどう思う?」
俺はラビットAに周囲を見渡すように言う。
もう日が暮れて真っ暗なので、ラビットAはライトの魔法を使い、キョロキョロと辺りを確認する。
「きゅぺ……ぇ?」
砂浜で顔をしかめながらも、昨日とは違う砂浜だと気づいて。
そして森やら山やら……周囲の見覚えのない景色にあれっ? と首をかしげる。
「きゅぴぃ? ここ……どこ?」
「……さぁ? どこなんだろうな」
いやマジで。
「ひとつだけハッキリしていることは、ここは無人島だってことだ」
「むじんと―!?」
無人島と聞いてラビットAは耳がピンっと逆立てするくらい驚く。
「そうなのよ。まっ、それもこれもぜーんぶシュートのせいなんだけどね」
おいこら待てと。
半分はナビ子のせいだろと。
いや、半分どころか9割ナビ子のせいだろ。
「きゅートはいっつもむけーかくだから」
うんうんとラビットAが頷く。
いや、無計画なのはラビットAもナビ子も似たようなものだから。
でも……そんな事を言ってラビットAの機嫌を損ねる訳には行かない。
俺は我慢してラビットAに何があったのか説明することにした。
****
海でシーモンキーを捕まえた後、空飛ぶエイを見つけたナビ子。
――――
フライングレイ
レア度:☆☆
固有スキル:滑空、適応力、貯水、水射、毒生成
個別スキル:持続
魚系初級級モンスター。
エイ型のモンスターで、水上に飛び出し滑空しつつ海面付近の獲物を狙う。
体内に蓄えた海水を鰓孔から勢いよく射出することができ、攻撃や滑空の調整を行う。
また体内で毒を生成し、射出した海水や尾から毒を排出して攻撃する。
――――
水鉄砲というべきかウォータージェットとでも言うべきか。
空を飛びながら海面の獲物を狩るエイだったようだが。
逆に上からの攻撃に対しては無抵抗だったようで。
さらに上空から攻撃するグリフォンにあっさり倒された。
星2なのにガッカリはしたものの、スキルは中々のもので。
特に適応力のスキル。
――――
適応力
レア度:☆☆☆
どんな環境の変化にも適応して生活する。
――――
多分、えら呼吸なのに、長時間空中にいるからだろうか。
それとも毒に対する交代を得るためなのか。
どちらにせよ、このスキルはかなり有用ではないか?
環境に適した生活ってことは……海の中って環境でも普通に生活できるような。
……流石に呼吸ができるようになるとは思えないけど。
それでも、海中でも動きやすくなるように補正がかかるとか。
呼吸自体はソリッドエアで賄えるから、鈴風じゃないが、それこそ猫型ロボットの道具のような効果が期待できるんじゃ?
「それだけじゃない。環境に適応するってことは……嫌なニオイも気にならないようになるかもしれないんだ」
「きゅんと!?」
まぁニオイ対策はアズリアがソリッドエアで実験中なわけだが。
ただ、こっちはソリッドエアと違って、ニオイを遮断するんじゃなくて、ニオイはするけど、気にならなくなるって感じだろう。
そう考えると完全遮断のソリッドエアよりも使い勝手が良さそうだ。
それに仮に適応力スキルが使えなくても、このスキルを元に新しいスキルを作れないかと。
使うだけなら複製すればいいから一枚あればいい。
合成するなら、複数枚必要。
今手に入れたフライングレイはすでにモンスターカードにしているから、現時点で適応力スキルのカードは持っていない。
そして大事なのは、この適応力スキルがフライングレイの個別スキルじゃなく固有スキルってこと。
要するにどのフライングレイも必ずこの適応力のスキルを持っているわけで。
「ってことで、俺とナビ子はフライングレイ狩りを開始したんだ」
「きゅむきゅむ」
ラビットAもその通りだと頷く。
あと何体か狩ろうとするのは当然の話。
「そこで新しく仲間になったフライングレイに同族がいそうな場所に連れて行ってもらったんだ」
「そしてね。最終的には5体も捕まえることが出来たの」
「きゅい!? すごーい!」
最初のを含め、計6体のフライングレイを手に入れて。
半分の3体をスキルに、残りをモンスターに。
「しかも……それだけじゃないんだ。もう一体、とんでもないモンスターに出逢ってさ」
「あれは凄かったよねー」
「きゅにきゅに?」
何? と期待の目をするラビットA。
「ふふん。聞いて驚け……なんとクラーケンだ!」
「……きゅらーけん?」
どうやらラビットAはクラーケンを知らないらしい。
まぁ知らなくて当然か。
「そうだな……一言で言えばグリムよりも大きいイカだな」
「そうね。しかもグリムよりも大きなクジラと戦ってたのよね」
「きゅぴえ!?」
クジラに巻き付くクラーケン。
潮を吹きながら抵抗するクジラ。
俺とナビ子の目の前で大海獣決戦が繰り広げられていた。
「きゅれで、それでどーなったの!?」
「それな。……そのまま海の中に潜っていってしまったんだ」
しばらく海面でバシャバシャ戦っていたけど、途中でクジラが取り付いたクラーケン共々海に潜り……結果、どっちが勝ったかも分からずじまい。
「きゅートは戦わなかったの!?」
「まぁ……そうだな」
「アタイも……録画するの忘れてて」
「なんで!?」
何でって……俺とナビ子は大海獣決戦をただただ呆然と眺めるだけで、戦うとか、倒してカードにするとか、録画するとかはその時は一切思い浮かばなかったからとしか言えない。
海に潜って見えなくなった後も、しばらく放心状態で……気づいた時にはもう完全に手遅れ。
巨大なイカがクラーケンだったことと、クジラの名前がバシロケトゥスって名前だったことが、自動登録されたモンスター図鑑にて後で判明した。
「にしても、カードに出来なかったのに、シュートがあんまり悔しがってないのが不思議なのよねぇ」
「いや、別に悔しくないわけではないぞ。でも……あれを見られただけで満足だろ」
「……そうかもね」
初めて会った時のグリムもそうだったが。
圧倒的な存在感を放つモンスターてのは、存在しているだけで尊いというか。
触れちゃ駄目な存在って感じがする。
そんな二匹の大海獣決戦。
それを見ただけで満足というものだろう。
まぁ今はそう思っているだけで、後になればなるほど、あの時手に入れていれば良かったと後悔しそうってのも事実だけど。
「きゅるーい!!」
突然ラビットAが叫ぶ。
「きゅートもきゅビ子も……二人だけ遊んで……ずるいずるい!」
「ずるいて……海が嫌いって戻ったのはラビットAだろ」
「そんなのかんけーなーもー!」
こいつ……。
「きゅれよりも! じまんするために呼び出したの!?」
「いや、自慢するためじゃないが……」
というか、流石にそんな性格悪い真似はしない。
「えっとだな。まぁ色々あってこの島を見つけてだな」
結局、フライングレイを捕まえたり、大海獣決戦を見たりしているうちに、アクアパッツァから離れすぎてしまったようで。
帰ろうかなと思ったところで、この島を発見した。
「せっかく見つけたから、探索したいんだけど……もう日が暮れちゃってるからさ。ラビットAにお願いしたいのは、この島をテレポート登録して、アクアパッツァまで送って欲しいんだ」
「きゅぴえっ!? つごーのいー女あつかい!?」
いや、都合のいい女ってのは人聞きが悪いから……タクシー扱いくらいで……はい、ごめんなさい。




