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第30話 釣果

「あははははっ! ヤバい。釣り、めっちゃ楽しい!」


 俺が用意していた三つのルアー。

 発光ルアーは……ライトの魔法との合成だったのが駄目だったのか、海の中で眩しすぎるほど光って……目立つけど、あんな光に引き寄せられる魚はいねーよと。


 そしてスタンルアーは……魚が引っ掛かれば効果が発揮するだろうが、引き寄せられる術がなかったので、意味はなかった。


 最後のデコイルアーが大活躍で……これがもう面白いように釣れる釣れる。


「大漁じゃああああ!!」


 いや、マジで囮スキルって素晴らしい。

 次から次に引っかかってくれる。


 釣った魚はその場で締めてカードへ。

 魚の名称を見てみると、サバだのキスだのクロダイだのカサゴだのフグだの……日本の魚と一緒の名前がちらほらと。

 動物でもウサギとか馬とか牛とか……生き物だけじゃなく、野菜や植物も一緒の名前だったので、どちらにも存在しているものに関しては言語翻訳のスキルが活躍しているんだろう。

 こちらとしても、分かりやすくて大変ありがたい。


 カードにした魚は料理本のレシピを使えば、鱗を取るだけでも三枚下ろしでも、簡単にさばくことができる。

 さらに、料理本にはちゃんとした料理だけでなく、刺身のページも。

 切るだけなのにちゃんとレシピがあるんだから……すごく助かる。


 その出来上がった刺身の盛り合わせ。

 川魚だろうが、海魚だろうが、カードになった時点で寄生虫の心配はいらない。

 もちろんレシピ通りにさばかれ、調理されるのだから、フグの毒だって気にする必要はない。

 安心して食べられるってわけだ。


「まさかこの世界で刺身を食べられる日が来るとは」


 そしてお供のお酒は……日本との繋がりがなくなって貴重品になった日本酒。

 ビールも日本酒もファーレン商会で似たような物を作らせているけど、まだ美味しさでは日本酒にも缶ビールにも追いついてない。

 缶ビール共々在庫はもうほとんど残ってないけど……ここで飲まずしていつ飲む。


「くあ~。ったまらん」


 ここが天国か!?

 うん。大事に取ってて良かった。


「次は……天ぷらもいいなぁ」


 キスの天ぷらとか最高かよ!?

 あっでも天ぷらならビールでいきたいな。

 ……缶ビールも開けちゃおうか。


「くぅぅ……悩ましい!」

「……いいよねシュートは。随分と楽しそうで」


 俺が楽しんでいる傍らでブスッとご機嫌ナナメのナビ子。

 ナビ子も……最初は楽しんでいたようだけど、自分は釣りをするわけじゃなく見ているだけ。

 そして、一緒に食べるわけでもないから……俺が一人で楽しんでいるのをボケ~っと見ているだけ。

 そりゃ退屈で不機嫌にもなるか。


「ナビ子も一緒に食べればいいのに……」


 電子妖精だった頃は食べることで不具合が起きるから、食事を取れなかったナビ子。

 なんちゃって妖精になった今、不具合なんて起きることはないから、食事も取れるはず。

 ……なのだが、ナビ子は今も食事を取らない。


 運営に逆らえない、プレーヤーを傷つけない、嘘をつかないと同じ。

 電子妖精の頃の名残で食事を取れないのだ。


 運営に逆らうのは、運営の影響が途切れたことで逆らうことが出来た。

 プレーヤーを傷つけないは……以前は俺がピンチなど、必要に迫られたときにしか使えなかったナビ子キックを平然にやれていることから克服できたと思う。

 嘘をつかないは……正直、微妙。

 冗談は増えたけど、嘘と言えるまでは、いってない気がする。


 そして食事に関してはサッパリだ。

 何も考えずにパパッと食べてしまえば楽になれるんだろうが、それが出来れば苦労しない。

 以前、夜中に水を飲もうとして……それでも飲めなくて泣いている姿を目撃したことがある。

 口に食べ物を突っ込ませて無理やり食べさせる……ってことも考えたけど、余計トラウマになりそうだし、これもナビ子が自力で克服するべき問題だと思う。

 多分、全部のトラウマを克服できたら……なんちゃっても取れるんじゃないかな?


「……ト。シュートってば!?」

「えっ!? ああ」


 どうやら考えている間もナビ子が呼びかけていたようだ。


「なに? もう酔っちゃったの?」

「いや、流石に酔ってはないけど……美味すぎて感動してたんだ」


 うん。美味すぎるのは事実だしな。


「そんなに美味しいの……独り占めしたら、アズリアや鈴風に怒られるよ」

「むっ。いいんだよ」


 鈴風のこととか考えたら酒が不味くなる。


「まだ昨日のことで拗ねてるの?」


 昨日、晩飯にアクアパッツァを作って、それを対価に魔石を強請ったら……鈴風のやつ。

『この程度の料理でドヤりますか?』

 とか言って、ササッと俺よりも美味しいアクアパッツァを作りやがった。


 そりゃあ、レシピ通りに作った料理よりも、料理上手が作ったアレンジ料理の方が美味しくなるけどさ。

『あの料亭の日本料理を伝授したのはわたくしですよ』

 と、どうやら鈴風は料理が得意だったようだ。


 というわけで、昨日は魔石を手に入れることができず。

 悔しいから、この刺身と日本酒は絶対にやらん。

 後で思う存分ドヤってやるのだ。


「ふっ。料理上手の鈴風と言えど、釣りたて新鮮の刺身を食うことは出来まい」


 魚市場で買った魚とは鮮度が違うのだよ鮮度が。


「そんなに美味しいなら、今度こそ魔石が貰えるかもしれないのに」

「…………鈴風がお願いしますと言えば、考えてやらんでもないかな」

「シュートが鈴風に丸め込まれる姿がアタイには見えるわ」


 ……ほっとけ。



 ****


 それから数時間。

 ナビ子に文句を言われながらも、釣りを続ける。

 ナビ子には悪いけど……こんなに大漁なんだから、辞める理由はないよね。


「でもさシュート。釣れてるの、普通のお魚だけじゃない」

「……そうだけどさ」


 人が気にしていたことを。

 釣りの釣果に騙されつつあったけど、何十匹もの魚を釣っておきながら、モンスターは一匹も釣れていなかった。


「……やっぱり沖に出ないとモンスターって出ないのかな?」

「それか町の波止場だからじゃない? 砂浜だけじゃなく、近場の海もモンスターの管理をしているんじゃない?」


 ……それは考えてなかった。

 湾内に魔除けの魔道具とか設置している可能性は十分にある。


「えっ? てことは、また町の外に行くか……沖に出ないとモンスターには釣れない?」

「こんだけやって釣れないんならそうなんじゃない?」


 なんてこった。

 今から場所を変えるか?

 しかし、今から場所を変えてもあまり時間がないし……。


「ねぇねぇシュート。いっそのこと沖に出てみない?」


 沖に? でも船が……と、そうか。

 そうだな。モンスターを倒すとかより、とりあえずモンスターの存在を確認したいし。


「そうだな。ちょっとだけ遠出をしてみようか」

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