第29話 釣り道具
過去にソリッドエアを使用した時は……あの時は無酸素空間を防ぐためだったので、ニオイを遮断したかは分からない。
まぁ多分遮断できるだろうが。
それでも、ラビットAを呼び出す前に実験する必要はある。
じゃないと、効かなかった場合、更に引きこもる可能性が高い。
「そこで明日一日私が使用し続ければいいんですね」
ってことで、その実験をアズリアに頼んだ。
どうせなら、ラビットAと同じくニオイが苦手なアズリアがやった方が効果がハッキリわかる。
「調査内容は、消臭効果、持続時間……その他、影響があるかですね」
本当にニオイを遮断するのか。
一枚のカードでの有効時間。
また、使用中の弊害はあるか確認。
ニオイがなくなることで、食事や普段の生活に悪影響がないか。
人通りがある場所で正常に作動するかなど。
「明日は商会に挨拶と、おそらく魚市場にも行きますから……ええ。問題ありません」
「それだけど……本当に明日は一人で行動するのか?」
「ええ。それが同行する際のお約束でしたよね? シュートさんは自由にされて下さい」
……確かにアクアパッツァでは俺の邪魔をせずに、別行動をとるって話だったけど。
でも、自由にって言われても、ラビットAが復活するまでは本格的に動けないから護衛くらいはするけど?
俺はそうアズリアに言ったが、アズリアが首を振る。
「それでしたら、帝都と同じくサポート役としてティータさんを貸していただけませんか?」
「……それでいいなら」
どのみち最初からティータにはお願いするつもりだったし。
「じゃあ俺は明日はやっぱり釣りでもしようかな」
少しでもモンスターが釣れたら御の字ってことで。
「鈴風はどうするんだ?」
「わたくしは釣りには興味ありません。わたくしは冒険者ギルドの依頼でもこなすことにします」
どうやら鈴風も別行動するみたいだ。
多分、周辺のモンスター討伐の依頼でもするつもりだろう。
できればモンスターの魔石だけでもこちらに渡してくれたら……って、どうせタダで渡したりはしてくれないだろうけど。
結局、同行を許可した時の魔石もまだ貰えてないし。
……今日の夕食を対価にひとつくらいせびってみるか。
****
そして次の日。
「絶好の釣り日和だね」
俺とナビ子がやって来たのは波止場。
とりあえず今日の所は波止場で釣れるか確認。
本当は沖に出た方がモンスターが釣れそうな気がするけどね。
沖に出るための船が……ねぇ。
昨日、アズリアが漁業ギルドで話を聞いたきたみたいだけど、やはり漁船と貨物船しかないようで、一般人に貸し出したりもしてないようだ。
一応、冒険者は護衛依頼を受ければ乗れるようだけど……それじゃあ自由はない。
ただ、個人で船を所有しては駄目ってこともないようだから、船に乗りたかったら作ればいいってことらしい。
……レシピがないから材料があってもかなり厳しいけど。
「そういえばシュートって釣りってしたことあるの?」
「自慢じゃないが、生まれてこの方一度もやったことがない」
「……本当に自慢じゃないのね」
だって釣りって時間がかかるって言うじゃん。
そんな時間があれば、コレクションを集めることに時間を使うっての。
「釣り初心者じゃ成果は期待できないじゃない」
「バカだなぁナビ子は。初心者にはビギナーズラックってのがあるんだよ」
「馬鹿はシュートの方よ! ただの運任せじゃない!」
そう言ってナビ子キックが炸裂する。
「痛ったいなぁ。……別にビギナーズラックにだけ頼るわけないじゃないか」
「なら、さっさとそれを言いなさいよ」
……秘密兵器だったから、ちょっと出し惜しみしたかったんだよ。
まぁこれ以上蹴られたくないので、秘密兵器をカードから取り出す。
「……釣り竿?」
「ふふん。ただの釣り竿じゃない。アンブロシアの釣り竿だ」
「あ、アンブロシア!?」
――――
アンブロシアの釣り竿【釣具】レア度:☆☆☆
アンブロシアの枝を使用した釣り竿。
魔力を含んだ枝を使用したことにより、魔力を伝えやすい。
――――
「あ、アンタ。貴重なアンブロシアを釣り竿にしちゃったの!?」
「いや、貴重って言ってもさ。まだ残ってるし」
ちゃんと毎日の実の確保分の枝は残っているし、どのみち生えている場所は知ってるんだから、いつでも取りに行ける。
「釣りのことはサッパリ分からないけど、木の枝で作るんだよな? だったら、アンブロシアの枝を使うのが一番だろ」
魔力を流すことで釣れる……ってわけではないが、折れにくくなるので、大物を釣ったとしても安心。
「更に釣り糸は……アルケニーの万能糸を使っている」
星5アルケニーの糸だから、切れることはまずない。
「……本当はグリムの髭と悩んだんだけど」
――――
クリムゾンドラゴンの髭【素材】レア度:☆☆☆☆☆
クリムゾンドラゴンの髭。
多大な魔力を秘めており、あらゆる魔道具への素材に使える。
――――
ただこれを使ったら、グリムの魔力に恐れてモンスターが逃げちゃうだろうから、泣く泣く却下した。
グリムの魔力に恐れず、逆に襲いかかってくるようなモンスターがいれば、逆に使えるかも。
「そして一番肝心の餌だけど……」
――――
発光ルアー【釣具】レア度:☆☆
発光することで注意を引くルアー。
――――
ほら、チョウチンアンコウって光って獲物を取る……よね?
そんな感じで、ルアーが定期的に光ることで獲物の注意を引くルアーってわけだ。
光はライトの魔法を合成素材にすることで可能にした。
――――
デコイルアー【釣具】レア度:☆☆
美味しそうな餌を装い獲物を引きつけるルアー。
――――
こっちは光らないけど、ほとんど同じ効果のあるルアー。
デコイのスキルを合成素材に使用した。
――――
スタンルアー【釣具】レア度:☆☆☆
引っかった獲物を痺れさせ無力化させる魔法のルアー。
――――
獲物が引っかかっても、中々釣られない……ってのをよく見かけるから、餌にかかった瞬間に無力化させれば簡単に捕まえられるんじゃないかなと。
合成素材はショックウェイブ。
流石に威力はシザークラブに使用したよりも劣るはず。
「とまぁ三種類準備したんだけど、どれがいいと思う?」
「……少なくとも光るのは止めたほうがいいと思う」
発光ルアーはお気に召さないらしい。
「なら、残り二つから……両方試してみればいいか」
ふふっ。人生初の釣り……楽しみだなぁ。




