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第26話 ラビットAの敗北

 う~ん。騙された気がする。


 最初は、アズリアと鈴風が面倒な手続きをやってくれる言ったことで、悪いなと、申し訳ないなという気持ちになった。

 まぁ道中ずっとアズリアと鈴風には振り回されたことを考えるとチャラって気もするが。

 それでも全部任せっきりにするのは流石になぁと。


 でもさ……アズリアと鈴風の二人と別行動になった後で気づいたんだ。


「ねーラビットA。楽しみだねー!」

「きゅい! うみ、たのしみー!!」


 面倒な手続きを任せたんじゃなくて、面倒な二人を押しつけられただけなんじゃないかって。


 だってそうだろ。

 よくよく考えてみたら、ギルドの滞在報告なんか受付に一言伝えるだけですむし、家捜しも金に関してはそこまで問題にしてないから、不動産で条件を伝えてその中で一番のお薦めを聞けばいいだけ。

 面倒なことなんてほとんどない。

 後は集合時間までまったりお茶でもして過ごせばいい。


 対して俺は元気っ子二人に振り回され続ける。

 このテンションに付き合うのは疲れるから……だから別行動をとったんだ。

 どうせ長期滞在するんだから、海なんてナビ子とラビットAのテンションが落ち着いた後日でいい。


 ……やっぱり騙された気がする。


「ほらほらシュート! 早くしないと海が逃げちゃうよ!」

「きゅーだよ! はやくはやく」


 だから逃げないっつってんだろ!?

 はぁ。二人を野放しにするわけにはいかない……か。


 アズリアが別れ際に言ってたが、海は漁業ギルドってのが管理しているらしい。


「港と砂浜……どっち行く?」


 船を見るなら港。

 船といっても遊覧船のような観光向けの船はない。

 あるのは漁船と……近場の町とやり取りするための貨物船のみ。

 観光のための旅客船や遊覧船はない。

 なので、行っても見るだけで、船に乗ることはできないだろう。

 ただ、船自体は興味あるし、魚市場も近いから、新鮮な魚を仕入れることもできる。


 砂浜の方は、ライラネートのギルマスが言ってたごく稀に海竜石が打ち上げられる場所。

 なので海水浴を楽しむわけではなく、一攫千金を狙う人が石拾いや……潮干狩りをする場所らしい。

 まぁ海水浴には時期外れだし、サーフィンとかを楽しむ習慣もないしね。

 行っても海に直接触れるくらい。


 ちなみに漁業ギルドが管理していることから、砂浜に入るだけでもお金がかかるらしい。


 もちろん町の外の砂浜ならお金を払う必要はないが……モンスターが出たりするから、その辺は自己責任でってことらしい。


 さて、ナビ子とラビットAは間近で船を見ることを選ぶか、砂浜で海に触れることを選ぶか。


「もちろんどっちもだよ」

「どっちも!」


 まぁそう言うと思ったけどさ。

 どちらにせよ進行方向は同じだからいいんだけど。



 ……そう思って歩き始めること数十分。


「きゅみぃ……」


 海に近づくにつれてラビットAのテンションが下がっていく。

 さっきまであんなにハイテンションだったのに。


「どうしたのラビットA。大丈夫?」

「シュート……ここ……くさい」


 ナビ子の心配そうな声に、しかめっ面を浮かべるラビットA。


 ……なるほど。

 海に近づいたせいで、潮の香りというか。

 それだけならまだしも、魚市場が近いから魚の生臭い匂いが……うん、苦手な人は多いもんな。

 人よりも嗅覚のいいラビットAがしかめっ面になる理由もわかる。


「どうする? カードに戻るか?」

「きゅみぃぃ……やーの」


 ラビットAは首を振る。

 臭いのよりも、好奇心が勝つみたいだ。


 でもここはまだ港でも魚市場でもない。

 それなのにこの状態じゃ……これ以上近づいてラビットAは我慢できるのか?

 絶対に今よりも匂いがきつくなるはずだ。

 というか、我慢しているラビットAを見ているこっちの方が辛い。


 ……よし。



 ****


 結局、船に関しては今日のところは諦めてもらった。

 ラビットAが辛そうな状態では二人とも楽しめないしね。


 そしてたどり着いた場所は……町の外の砂浜。

 港じゃなくても、町の中の砂浜もどうしても匂いはあるだろうしね。


 一方、町の外だと海の……潮の香りはあるものの、魚の生臭い匂いはしない。


 それに周囲の人を気にしなくていい。

 町の砂浜に人がいるか知らないけど、潮干狩りをしている中で海ではしゃいでいるラビットAやナビ子がいると迷惑極まりない。


 モンスターの危険はあるかもしれないけど……俺たちならその心配はしなくていいだろう。

 うん、最初から町の外しか選択肢はなかったな。


「海だー!!」

「きゅみだー!!」


 誰もいない海に向かってナビ子とラビットAが駆け出す。


「おい、いきなり飛び出すと……」


 ドテッと。

 砂に足を取られたラビットAが前のめりにずっこける。


「ああもう。言わんこっちゃない」


 飛んでるナビ子はともかく、ラビットAは砂浜を歩いとないんだから、もう少し気をつけないと。

 俺はラビットAに近づいてラビットAを立たせる。

 あ~あ。せっかくのワンピースが砂まみれじゃないか。


「ほら、じっとしてろ」


 俺はラビットAの体をはたいて砂を落とす。

 くそっワンピース部分はともかく、素肌の部分は毛に絡んで……。


「きゅうう……しゅ~と~。口がじゃりじゃりする~」

「はいはい、ぺっしなさい」


 口の中にも砂が入ったようで、涙目のラビットA。


「ねぇシュート。ラビットA大丈夫?」


 ラビットAがコケたことに気づいて慌てて戻ってくるナビ子。


「ナビ子もいきなり駆け出すんじゃない」

「うう、ごめんなさい」


 ったく。テンション上がりすぎだ。


「いいか。初めての海なんだから、もう少し気をつけて行動すること。分かったか二人とも」

「はい……」

「きゅい……」


 とまぁ返事はして、今度は歩いて海に近づくんだが。


「うわっ冷たい!?」

「きゅいっ!? しょっぱっ!?」

「「きゃははははっ!?」」


 何が面白いのか二人で笑いだす。

 そして互いに海水を掛け合って……うん。

 殊勝なのは最初だけだったな。

 ナビ子もラビットAもさっきのことを忘れたようにはしゃぎ始める。


 そして……バシャンと。

 今度は海水に足を取られたラビットAが海に向かって盛大にコケる。


「きゅわ~~~ん。しゅ~と~」


 海水でビチャビチャになったラビットAが半泣き状態で戻ってくる。


 ――バタンッ。

 そして戻ってくる途中でまた砂浜でコケる。


「きゅわああああああん!?」


 ラビットAが大声で泣き始める。

 海水でベタベタな上に、砂まみれ。

 きっと口の中にも海水や砂利まみれに違いない。


「はぁ……一回カードに戻すからな」


 俺は呆れつつもラビットAをカードに戻す。

 そして修復(リペア)で元通りにしてから、もう一度解放(リリース)


「だから気をつけて行動しろと言っただろ」

「きゅい……ごめんなさい」


 今度は本当に反省しているみたいだ。


「……それで、まだ遊ぶつもりか?」

「きゅいっ!?」


 ……あんな目にあったってのに、まだ遊ぶつもりなのか。


「じゃあさじゃあさ。砂でお城を作ろうよ! これなら動き回らなくていいでしょ」

「砂のお城!? きゅいっつくる!」


 なるほど。ナビ子にしてはいいアイデアだ。

 確かに砂遊びならコケることもないし、泥遊びが好きだったラビットAにもピッタリな遊びだ。

 これなら危険もなさそうだし……俺もまったりできる。


 そうだ!

 どうせ砂の城を作るなら数時間はかかるだろうし、砂浜でお昼寝ってのも乙なものかも。

 確かガロン作の自立式ハンモックがあったはず。


 ――そう思ってたんだが。


「きゅぴゃああああ!?」


 しゃがんでいたラビットAが大声で悲鳴を上げて立ち上がる。


「ど、どうしたのラビットA!?」


 流石にただ事じゃない状況だと思い、ラビットAに近づくと……。


「きゅわあああん!? いたいっ!? いたいの!?」


 ――ザリガニっぽい何かがラビットAの尻尾を挟んでいた。

 多分このザリガニってモンスターだよな!?

 俺は思わず反射的にハイアナライズする。


 ――――

 シザークラブ

 ――――


 やっぱりモンスターだ。


「ちょっとシュート!? こんな時にそんなことしてる場合じゃないでしょ!?」

「きゅぴゃあああ! いたいのおおお!?」

「わ、分かってるけど……どうすれば」


 シザークラブのハサミががっちり尻尾に食い込んでるから、引き離そうとしたら尻尾が千切れそう。

 倒そうにも魔法じゃラビットAにも被害が及びそうだけど……どうせ大したモンスターじゃないだろ。


「ええい。ラビットA、すまん」


 俺はシザークラブにショックウェイブの魔法カードを使う。


 ――――

 ショックウェイブ【雷属性】レア度:☆☆


 雷属性の初級魔法。

 触れることで電流を流し、対象を痺れさせる。

 ――――


 スタンガンのような魔法なので威力は殆どないが……。


「きゅびびびび!?」


 うん。やっぱりラビットAにも影響はあるよな。


 ――ぽとり。

 ラビットAの尻尾からシザークラブが離れる。

 やっぱり大したモンスターじゃなかったみたいだな。

 俺はとどめを刺して死体をカードにする。

 早速カードの確認をしたいけど……それより先にラビットAだ。


「ラビットA……大丈夫か?」

「だいじょーぶじゃなーもー!!」


 シザークラブと違い、流石に星2程度の魔法じゃ痺れもしないようで、俺の言葉に怒りながらもラビットAは元気に立ち上がる。

 ……お尻を触りながら。


「もう! くさいの! しょっぱーの! べちゃべちゃの! ジャリジャリの! 痛いの! もー海やっ!!」


 ここまで我慢していたけど、さっきので完全に海のことが嫌いになってしまったみたいで、泣きながらカードへと戻っていくのだった。

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