第21話 覚醒スキルの秘密
「もー! いつまできゅぎゅかのことを話してるの!!」
鈴風の話ばかりしていたので、ラビットAがキレる。
そういえば、青春ごっこが出来なくて拗ねてたな。
機嫌を直してもらわないとだし……ここはご褒美作戦だな。
「あ~はいはい。ラビットAは頑張ったもんな。ほら、にんじんステーキだ」
「うんうん。悪いのは全部シュートだけど……ラビットAは頑張ったもんね。あっにんじんジュース飲む?」
「ええ。全部シュートさんが悪いですが、あそこで勝利を喜べなかった分、今から喜びを分かち合いましょう。にんじんケーキもありますよ」
考えることは一緒なのはいいけど……お前ら、とことん俺を悪者にするのな。
そしてさも当然のように、にんじん料理を用意すると。
いつの間に準備していたか知らないけど……きっとこんな時のために、準備していたんだろうなぁ。
「きゅわわ……」
予想通りというか。
目の前に用意されたにんじんフルコースを見て目を輝かせるラビットA。
「たべていーの!?」
「ああ。もちろんだ」
「うん。ラビットAの勝利のお祝いだもんね」
「お代わりもありますよ」
「いっただっきまー!」
元気よくにんじん料理にかぶりつくラビットA。
「きゅい! おかわりー!」
はやっ!? 一瞬でにんじんステーキを平らげたぞ。
「……まぁ今日だけはお代わりしてもいいけど、もっとゆっくり食べろよ」
「きゅい! わかったもー」
全く。返事だけはいいんだから。
それからもラビットAはフライに甘辛いため、きんぴらにグラッセと次々に片付けていく。
「きゅぷ。もうおなかいっぱー」
……俺は山盛りになった皿を見て唖然とする。
一体この体のどこに入ったのか。
「……これで満足したか?」
これで機嫌が直ってくれたのならそれでいい。
だが俺の言葉にラビットAは首を振る。
「まだまだだもん。もっと褒めるの。ちやほやするの」
パンパンになったお腹を擦りながら答えるラビットA。
……少し甘やかしたらすぐ調子に乗りやがる。
これ以上増長させるわけには……ナビ子と目が合う。
うん。と互いに頷く。
ナビ子も似たようなことを考えているようだ。
「そういえばさぁラビットA。俺まだお前が決闘中にやった秘密兵器のこと聞かされてないんだけどなぁ」
「そおねぇ。そろそろじっくり教えてもらわないとね」
「きゅるる!?」
俺とナビ子の雰囲気が変わったのを察知したのか、ラビットAがビクッと震える。
「きゅい~。もーつかれたから、かえろっかなー」
立ち上がろうとするラビットAの肩を後ろからガシッと掴む。
「はいはい。帰るってどこに帰るつもりなのかなぁ」
ふふっ逃がすわけないよなぁ。
「さてと。色々と白状してもらおうかね」
「きゅぴぇ~」
あの女の子の秘密をな。
逃げられないと察知したのか観念したようにラビットAが話し出す。
「あれは~せいちょーした姿なの」
決闘中もそう言ってたな。
「成長ってことは、あの姿は将来のラビットAってことか?」
「きゅい! そのとーり」
俺の言葉にラビットAが何故かドヤ顔で頷く。
「何で将来の姿って分かるんだ?」
普通、将来の姿って分からないだろ。
しかもそれが人型の姿ならなおのこと。
グリムのように人化と言われた方がまだ納得できる。
「きゅう? なんとなーく?」
どうやらラビットAもよく分かっていない……感覚的なもののようだ。
「そもそもだ。覚醒スキルなんていつ手に入れたんだ?」
「きゅい? さいしょから?」
いや、最初からはないから。
ラビットAだってあの時確認しただろうに。
要はラビットAにもいつ覚醒スキルを手に入れたか分からないってことか。
それもどうよ……って思うけど、俺だってラビットAのカードを持っているのに気づかなかったから人のこと言えない。
う~ん。とりあえずその問題の覚醒スキルについて確認してみよう。
――――
覚醒
レア度:☆☆☆
力を蓄えることにより、使用者の真の力を引き出すスキル。
――――
あれっ? 思ったよりもレア度が低い。
星3とか普通に手に入りそうなスキルだ。
「この力を蓄えるって……何の力を蓄えるんだ?」
「いろいろー。魔力とか月の力とか。ちょぞーこみたい」
そういえばラビットAは以前、貯蔵庫のスキルを持っていたな。
貯蔵庫は日頃余らせている魔力を別の場所に蓄えておいて、いざという時に使用できるスキル。
その貯蔵庫と蓄える使用感が似ているってことか。
違いは魔力以外の力も蓄えることができること。
ラビットAは月の力と言ってたけど、多分それはラビットAだからであって、他の人が覚醒スキルを持っていたら別の力になるんだろう。
ティータが持っていたら自然の力とかな。
ふと気になったので、覚醒スキルの合成レシピを確認してみる。
――――
覚醒
貯蓄系スキル✕魔力操作系スキル✕特殊攻撃系スキル
――――
「なぁ確かラビットAがカグヤに進化した時って、大量のスキルを覚えていたよな?」
複数枚合成の枚数以上のスキルが欲しいってことで、20個以上のスキルを覚えていたはずだ。
「正確には25個だね。覚醒スキルのレシピから考えると……貯蔵庫と魔力変換か魔力操作、それと同族キラーかな」
なるほど。同族キラーは特定のモンスターに対して特攻になるスキルだから、特殊攻撃系ってことになるのか。
ってことはだ。
ラビットAが言った最初から取得していたってのが現実を帯びてくる。
なら、何で最初から表示されないんだ?
「力が溜まって使えるようになるまで表示されなかっただけじゃない?」
「……そんなことあり得るのか?」
「さぁ? 聞いたことないよね」
だよなぁ。
「スキルに関しては姉さんが詳しいですが」
あ~スキル研究者のアザレアがいたか。
でも……今から連絡して尋ねるのは面倒。
まぁとりあえず覚醒スキルのお陰で将来の姿になれたってことが分かっただけでいいか。
「にしても……まさかラビットAの将来の姿が完全な人型とはなぁ」
一応ウサ耳は残ってたから、兎獣人みたいな感じだが……流石に驚いた。
「あれ。アタイはそこまで驚かないよ」
「ウソつけ。滅茶苦茶驚いてたじゃないか」
一緒になって声が震えてたぞ。
「あれは突然だったから驚いただけ。将来の姿だって言われても驚かないって言ってんの」
「どうしてだ?」
「だってラビットAって魔兎族……魔族じゃない」
ああ……そういうことか。
この世界の魔族の特徴は二種類。
エイジやサテラのような完全な人型に翼や尻尾などが生えたタイプ。
もう一つが、アルケニーやセイレーンのように、半人半妖のタイプ。
だから本来ならラビットAが魔族なのに兎が二足歩行の魔物タイプ。
「幼少期の魔族は魔物型なのも多いって話だから、ラビットAも別におかしくはないけどね」
だから成長すれば人型になるってことか。
うん。大体の事情は把握したな。
「あとは……ラビットA。次に力が溜まるのはいつになるんだ?」
「んー? 分かんない!」
分からんのかい!
「じゃあさ。前回はいつ使ったの?」
「んと……一番ちゃっぷいとき」
ちゃっぷいて……つまり真冬ってことだよな。
ってことはだ。
一ヶ月以上前ってことか。
ってことは、次使えるようになるのは一ヶ月後?
「しかも、それで5分くらいしか人型になれないのか……かなり厳しいな」
今度は近場でじっくりと女の子になったラビットAを見たかったんだが……一ヶ月に一度しか使えないとなると、奥の手として残しておきたいから、安易に使えないじゃないか。
……覚醒のレベルが上ったら、もっと溜まるまでの時間が短くなったり、長い時間変化し続けたりできるのかな?
「あっそーだった」
突然何かを思い出したようで、ラビットAがゴソゴソと自分のポケットをあさり始める。
そして取り出したのは……一枚のカード。
「これあげる!」
なんだろう?
俺はラビットAからカードを受け取り……絶句する。
――――
月の羽衣【服】レア度:☆☆☆☆
月の加護を得た羽衣。
魔力障壁により、ある程度の魔法攻撃を遮断する。
着ているだけで魔力の回復量が大幅に上昇する。
月の満ち欠けにより効果が増減する。
――――
「おまっこれ!?」
あの時闘技場で着ていた服!?
カードって……俺はこんなカード知らないぞ!
「サナにもらったー!」
……つまりサナは覚醒スキルのことを知ってたと。
まぁ十中八九ラビットAに口止めされてたんだろうが……サナとは一度じっくり話さないといけないな。
「あっそうでした!」
今度はアズリアが……何かを思い出したようで、胸の間に手を入れる。
「見ちゃ駄目―!」
「きゅにしてるの!?」
慌てて俺の視界を遮ろうとするナビ子とラビットA。
「どうせ何か探してるんだろ」
いつものことだ。
「ええ。……っと、はい取れました」
アズリアはそう言って一枚のカードを取り出す。
「アズリアねぇ……アンタ、なんちゅうとこに入れてんのさ」
「きゅいい……むりー」
ナビ子が呆れてラビットAが自分の胸を見て凹む。
「そしてシュート。アンタは何でアズリアがあそこに何か入れてるって知ってんのさ」
「……まぁそんなことはいいじゃないか」
俺は誤魔化しながらアズリアからカードを受け取る。
「シュートさいてー」
「きゅいてー」
はいは……俺はアズリアから貰ったカードを見て絶句する。
――――
静嵐刀【武器】レア度:☆☆☆☆
風属性の魔力を秘めた薙刀。
刀身に魔力を流すことで切れ味を増加させる。
風属性の魔法の威力を増加する。
――――
「おまっこれ……」
「鈴風さんが決闘で使われていた武器です。壊れる前の状態でカードにしてますので、シュートさん。修理をお願いします」
……ねぇ。
サナといいアズリアといいラビットAといい。
何でみんなこんなに秘密主義なの?




