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第20話 鈴風の本当の目的

「な、なぁナビ子。あれって本当にラビットAだよな?」

「ね、ねぇシュート。あの女の子、本当にラビットA?」


 未だに目の前の光景が信じられない俺とナビ子。

 だってあのラビットAが女の子になっているんだぞ!?


 身長は……140センチくらいか?

 ウサ耳を入れると160は超えてそうだ。

 体つきはモフモフだったウサギの頃と比べるとシュッとしている。

 女性の体つき……にはなっていない。

 顔も……可愛い顔してるけど、まだまだ子ども。

 見たことない服を着ているけど……あの服はどうしたんだろう?


 う~ん。小学生よりは上って感じだけど、中学生にも見えない。

 うん。入学したばかりって感じの女子中学生かな。


 あれが……本当にラビットA?


「ごめん。おまたせー」


 闘技場では女の子になったラビットAがハッキリと話す。

 いつもの『きゅ』でも片言でもない。

 ……若干軽そうだけど。


「……それが本当の姿ですか?」

「本当ってか将来の姿ー? あっ時間がないからそっこー行くよ」


 ラビットAがそう言ってボーパルソードを拾う。


「流石に音速よりは遅いけど……ほい!」


 いつものラビットAより速い!?

 ラビットAが一気に鈴風との距離を詰める。

 鈴風も負けじとラビットAに向かっていく。

 そして薙刀の射程範囲に入る。


「行きます!」

「きゅしし……えい!」


 あっ、笑い方にどことなくラビットAの面影がある。

 鈴風が薙刀を振るいラビットAが受ける瞬間、ラビットAの姿が消える。


「こっち!」

「甘い!」


 テレポートで背後に回ったラビットAの攻撃を鈴風が受け止める。


「まだまだ!」

「こっちも!」


 ラビットAは何度もテレポートで裏をかこうとし、鈴風は素早くそれを受け止め、逆に反撃をしようとするも、ラビットAはテレポートでそれを避ける。


「うそ……。テレポートは集中するから、多発出来なかったのに」


 そう。だからさっきまでは開始時と逃げる際の二回しか使ってなかった。

 それが今や息をするようにテレポートを使いまくっている。

 ナビ子が驚くのも無理はない。


 驚くべき点は他にもある。

 決闘開始時は鈴風の猛攻を受けるのもしんどそうだったのに、今は互角に打ち合っている。

 あっ、しかも今の鈴風って、虎視眈々で強化されてるんだっけ?


 ――女の子になっただけじゃない。

 魔力も身体能力も思考も……全てにおいて成長しているんだ。


 だが、それでも現状は互角。

 ったく。鈴風のやつ、どれだけ強いんだって話だ。


「う~ん。牽制で他の魔法も使えたら良さそうだけど……流石にテレポートと併用して使うのは難しそうね」


 そりゃいくら成長したからって、テレポートの連発で集中しまくっているだろうから、他の魔法を使う余裕なんてないだろう。


「先ほどみたいに一度遠くにテレポートしてから遠距離で戦えば?」

「多分、無理。鈴風もそれを常に念頭に入れてるから、遠くに逃げてもすぐに間合いを詰められると思う」


 さっきはテレポートで逃げた時に、鈴風が一瞬見失っていたからロックランスで足止めできたけど、テレポートの存在がバレた今、テレポートで逃げても鈴風が見失うことはないだろう。

 ラビットAが魔法を使う前に距離を詰められたり、まだ使用していない魔法を使われたりすれば今度はラビットAの方が不利になる。


「それに……ラビットA、時間がないって言ってたでしょ。多分、さっきみたいに悠長にやってる時間がないのよ」


 確かに時間がないって言ってた。

 その時間がないってのは……考えるまでもない。

 今の姿には時間制限があるんだ。


 真っ先に接近線を選んだってことは、さっきのソレイユみたいに時間をかける攻撃は無理ってこと。

 となると……あの女の子の姿になれる時間は5分とか3分とか。

 もしかしたら、もっと短いのかもしれない。


 今の攻防でどれくらい時間を掛けた?

 後どれくらい今の状態を維持できるんだ?


「これでとどめー!!!」

「させません!」


 ラビットAが鈴風の頭上にテレポートして、ボーパルソードを渾身の力で振り下ろす。

 鈴風はそれを薙刀の柄の部分で受け止め……


 ――バキッ


 薙刀がへし折れた。


 だが、それでも鈴風は折れた部分を無理矢理ボーパルソードに当て……上手く攻撃の軌道を逸らす。

 その流れで鈴風が蹴りを放つ。


「はっ!」

「なんのっ!」


 ラビットAはボーパルソードの腹でガードするが、反動で後ろへ飛び……


 ――ボフンッ


「きゅぺぇ」


 白い煙とともにラビットAはいつもの姿に戻って尻餅をついていた。


「ありゃりゃ。時間切れ」


 元の姿に戻ったラビットAは殆どばたんきゅー状態。

 一方の鈴風の方は、薙刀を失ったが、本人はまだ戦える状態。


 ――流石に勝負あったか。


 武芸百般の能力で格闘術もマスターしている鈴風相手に疲れ切ったラビットAは勝てないだろう。

 ただ、もちろんラビットAを責めるつもりはない。

 むしろこんだけ頑張ってくれたんだから精一杯労ってやらないと。

 ……まぁ最後の女の子化に関しては詳しく聞き取る必要があるが。


 しかし……えっ?

 この後、俺が戦うの? この鈴風と?

 無理無理無理。

 いくら鈴風がラビットAと戦って消耗しているとしても。

 仕切り直しで戦うってことは、先手必勝がまた使えるってことだろ?

 あんなの分かってても防げない。

 その時点で俺の負けだって!?


 と、俺が頭を抱えていると……。


「この決闘……わたくしの……負けです」


 ……あれ?

 まさかの鈴風の敗北宣言である。


「えええ!! ちょっと何でさ! どう見たってラビットAはもう戦えないよ!」

「おい待てナビ子。お前どっちの味方だ!」


 こんな時だけ公平にならなくていいんだよ!

 せっかく鈴風が負けで良いって言ってんだから、それでいいじゃないか。


 ……ただナビ子だけじゃなく、観客も同じ気持ちだったようで、どういうことだと騒ぎ始める。


 すると鈴風は折れた薙刀を掲げ闘技場中に響き渡るように大声で叫ぶ。


「見なさい。この折れた武器を。剣闘士として、命よりも大事な武器を折られた時点でわたくしの敗北です」


 武器が折られたから敗北。


 別に武器がなくてもまだ戦えるのに……でも、俺にはなんとなく鈴風の気持ちがわかる。

 ジャンルが違うけど、俺だって似たようなもの。

 俺が運営男のスキルを使わないのと同じ……プライドなんだ。

 プライドを捨ててまで勝とうとは思わない。

 それをしてしまったら、何のためにこの世界に残ったか分からなくなるから。


 うん。誰がなんと言おうと鈴風の敗北宣言を撤回しない。


「それに……例えこのまま戦い続けても結果は同じ。わたくしは負けていました。……そうでしょう?」


 鈴風がラビットAに問いかけると……ラビットAの目の前に炎の壁が出現。


「ほら。もしわたくしがトドメを刺しにいっていたら、今頃火だるまになっていたことでしょう」

「きゅへへ……バレちゃった」


 今のばたんきゅー状態が嘘って訳ではないだろうが……そんな状態でも、勝つための罠を仕掛けてたってことか。


 流石にここまで見せられて勝敗に異論を唱えることは誰もしない。

 ラビットAの勝利が確定した。



 ****


「きゅートのばか! あほ! おたんこなす!」


 ラビットAが泣きながら俺をポカポカと殴る。


「いっぱい、いっぱーがんばったのに……」


 ああうん。

 俺が思ってた以上にラビットAは頑張ってたな。


「まってたのに……なのに……きゅわーん!!」


 大きく泣き崩れるラビットA。


 ……まさかラビットAがこんなに悲しむなんて。

 ラビットAがそんなに期待していたとは思わなかった。



 どうやらラビットAは勝利が確定した後に、俺やナビ子がラビットAに駆け寄って来てくれると。

 あれだ。甲子園の優勝が決定してベンチから全員グランドに出てくるみたいな。

 あんなふうに皆で抱き合って勝利を分かち合うと。

 そんな青春みたいなことを期待して……あの場で俺たちを待っていた。


「きゅれなのに、こんなむごい仕打ち……おにー!!」


 その期待を裏切って俺がしたことは……ラビットAには近づかず、その場でラビットAをカードに返還(リターン)

 そのまま闘技場を離れ、宿に戻って改めてラビットAを召喚し……これだ。

 うん。ラビットAからするとあんまりな仕打ちと思われても仕方がない。


「うんうん。シュートってば酷いよね。流石にアタイもあの行動はないわーって思ったよ」

「ええ。まさに悪の所行。私もドン引きです」


 ここぞとばかりに俺を責めるナビ子とアズリア。


「……ちょっと待て。お前らだってラビットAに近づこうともしなかっただろ」


 ラビットAならともかく、俺の側から離れていない二人に言われる筋合いはない。


「あ、アタイは行こうと思ったもん。それより早くシュートがラビットAを回収しちゃったんでしょ!」

「わ、私は三人が抱き合って喜んでいるのを微笑ましく見つめる係ですから」


 いやいや、俺がラビットAを返還(リターン)するのに少し間があったし。

 それに微笑ましく見つめる係なんてない。

 ……ちょっと似合ってると思うけどさ。

 それにだ。


「それを言うなら俺だって本当は勝利でラビットAが駆け寄ってくると思ったから、その場で待ってたんだよ」


 ラビットAなら勝ったー! って元気に近寄ってくると思ったんだよ。


「でも結局カードに戻したよね?」


 ……まぁそうだけど。


「でもそれは全部鈴風のせいだろ! まさかあんなこと言い出すなんて……」


 そう全部鈴風が悪い。

 鈴風は敗北宣言をした後、続けざまにとんでもないことを言い出した。


今日(こんにち)をもって、わたくしは剣闘士を引退します』


 まさかの引退宣言である。


『敗北者が闘技場の覇者なのはおかしいでしょう』


 なんか色々言っていたが、要約するとそういうことらしい。

 挙げ句の果てにはラビットAにリベンジ宣言をする。


『よいですか! 貴女にはいつか必ずリベンジします! 強くなって戻ってきますので……それまで誰にも負けてはなりませんよ!』

『きゅい!』


 ラビットAも変なとこで返事をするなよと。

 あれじゃあラビットAが新しい剣闘士になるって言っているようなもんじゃないか。

 というわけで、俺はラビットAを連れて、急いで闘技場から逃げ出すことにした。

 どちらにせよ勝ったラビットAが注目の的になるのは避けられなかったし。

 俺の顔も知られているだろうから、フェイクスキルで別人に見せかけて逃げるように宿に戻って来たんだ。

 多少ラビットAには悪い気もするが、間違ってなかったと思うぞ。


「本当、なんでいきなり引退宣言なんかするんだよ」

「……もしかすると、あれが鈴風さんの目的だったかもしれませんね」

「ん? どういう意味だ?」

「鈴風さん。元から剣闘士を辞めたかったんではないでしょうか?」

「そういえば弱い相手ばっかで退屈って言ってたもんね」


 アズリアの言葉にナビ子も同意する。

 確かにナビ子の言うとおり弱い相手で退屈だと言っていた。

 それで辞めたいと思っててもおかしくないと思う。


「じゃあ何か。ラビットAと決闘したのは戦いたかったからじゃなくて、あの引退宣言をしたかったから?」

「その可能性は高いかと」

「ってことは……最初っから負ける気だったと?」


 あのバトルジャンキーが?

 しかも武器まで失って?


「いえ、おそらく互角の勝負ができれば勝敗はどちらでも良かったかと。仮に勝ったとしても、力を出し尽くして満足したから、もう思い残すことはないとでも言えば皆さん納得されるでしょうから」


 負けても勝ってもどっちでもいい。

 ただ体のいい言い訳が出来るような戦いができれば。

 それなら……まぁ俺が何度も勝てないって言っているのに、決闘したがったたかがわかる。

 俺ならそれなりに善戦できるかもって思ってたのだろう。

 ……先手必勝さえ使われなければだけど。


「でも、わざわざ引退宣言しなくても、辞めたいならさっさと辞めればいいだけだろ?」

「バカねシュート。闘技場で一番強い人が簡単に辞められるわけないじゃない。そんなん引き止められるに決まってるでしょ」

「ええ。それに契約の問題もあるでしょう。ナビ子さんの仰られるように、契約解除を申し出ても受け入れてくれません」


 剣闘士として活動していたんだから契約書くらいはあるだろう。

 んで、辞めたいって言っても契約だから……って辞めさせてもらえないと。


「そこで、今回のようにハッキリと引退宣言をすれば……大衆が味方になり、闘技場側も契約解除せざるをえないと」


 要は俺が酒場で受けざるを得ない状況と一緒ってことか。

 ただ辞めるってだけじゃ大衆は味方にならないかもしれないが、リベンジするために修行する……とかなら応援したくなるもんな。

 となると、何で辞めさせてやらないんだと闘技場側を非難する。

 もちろん契約解除となれば、法外な違約金を要求されるだろうが……金で解決できるなら安いもんだと。

 ブラックドラゴンやアイスワイバーンを倒した鈴風ならたっぷり稼いでるだろうしな。


「もちろん私の想像で、真実は分かりませんが……」


 本当の真意は鈴風にしか分からない……か。

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