第18話 鈴風VSラビットA
そして決闘当日。
昼間は通常の闘技場の興行が行われるため、ラビットAと鈴風の決闘は夕方からになる。
「どうせなら夜にしてくれればいいのにね」
昼間でも普通に活動できるラビットAではあるが、固有スキルの月の加護があるお陰で、実は夜の方が強かったりする。
――――
月の加護
レベル:10
レア度:☆☆☆☆
月に愛されし者のスキル。
月の光を浴びている間、様々な恩恵を受ける。
月の満ち欠けにより恩恵の効果は増減する。
レベル1:身体能力向上
レベル2:消費魔力減少
レベル3:自然治癒促進
レベル4:魔力回復量向上
レベル5:魔法威力上昇
レベル6~10:倍率アップ
――――
俺の仲間ではラビットAとメーブが取得しているスキル。
月に関するスキルは月光浴とか月の光とかあるけど、全部が合わさったようなスキルになっている。
それと……これは月以外もそうだが、器系スキルと加護系スキルは特別な進化をする条件のスキルのようだ。
「ただ流石に夜の興行はやってないみたいだからなぁ」
ライトの魔法や灯りの魔道具を使ったとしても、闘技場全体を照らすには限界がある。
野外の闘技場では、地球のナイター観戦みたいにはできないってことだ。
個人的には観客とかいらないから、夜にしてくれと言いたいが……闘技場だって慈善事業じゃなく興行だから、稼げそうな試合に観客を入れないはありえないと。
「今日の闘技場は朝の時点でいつもより賑わっていたらしいですよ」
夕方の試合のために朝から席取り……興行としては大成功だよな。
にしても……別に鈴風の試合とか毎日のようにやってるんだろうに。
それほど鈴風から決闘を申し込んだことが衝撃的だったのか。
だとしてもだ。その対戦相手がウサギだってことも知れ渡ってるんだろ?
「いくら鈴風の方から決闘を申し込んだと言っても、ウサギが相手だと知っても興味が湧くのか?」
「むしろウサギだと言われて逆に興味を持ったんじゃない?」
物珍しさってことか。
「俺はラビットAが緊張しないかが心配だよ」
「きゅい! ぜんぜんへーき!」
いつもどおり元気なラビットA。
確かにラビットAが緊張とかしたところを見たことがないけどさぁ。
でも、これだけの人前で戦ったこともなければ、自分がその中心になったこともない。
今は平気でも、闘技場に入った瞬間、すべての人に好奇的な視線を感じて萎縮するって可能性もある。
となればだ。普段の実力を発揮できず……なら最悪負けるだけ。
だが、普段なら自重するようなことを思わずやってしまう可能性だってある。
「いいか、最悪負けてもいい。だが……約束を破って広範囲魔法をぶっ放すなよ。いいな」
今回、ラビットAとは決闘するに際してひとつだけ約束をした。
星5の魔法を使用しても構わないが、広範囲魔法だけは使うなと。
ベテラン冒険者でさえ星2~3の魔法までしか使えないから、本当は星4以上の魔法は使ってほしくないんだが……それだと鈴風には絶対に勝てない。
なので今回は星5の魔法も制限しないが……それでも広範囲に影響する攻撃魔法は禁止した。
今のラビットAなら闘技場に隕石を落としたり、闘技場全体を炎に包んだりできる。
闘技場のルールとしては闘技場を破壊してはならないとか、そんなルールはないが、そんなことすれば、観客の目がすぐに好奇の目から畏怖の目に変わるのは間違いない。
もし観客にまで被害が……なんてことになったら、その瞬間、人類の敵認定されてしまいそうだ。
「きゅい。わかってる。シュートは心配しょーなんだから」
いや、心配にもなるだろ。
「本当、シュートって親バカよね」
「そこは過保護って言ってあげた方がいいかと」
「きゅート、おバカ!」
……娘に色々と言ってウザがられる父親の心境ってこんな感じなのかなぁ。
****
「きゅっきゅいー!」
「…………」
ラビットAと鈴風が闘技場で向かい合う。
予想通りラビットAの容姿に観客からは様々なざわめきが。
まぁ対戦相手が向日葵を持った可愛いウサギだもんなぁ。
戸惑っても仕方がない。
でも、その観客の戸惑いに対してラビットAは意に介してないようだ。
ナビ子たちの言うように俺の気にしすぎだったようだ。
そして俺たちは控室と闘技場の入口で観戦。
一番近い場所ってことである意味特等席なのかな。
「さぁいよいよ世紀の一戦、ラビットA対鈴風の決闘が開始! 実況・解説はアタイ、ナビ子。そしてゲスト解説にムサシをお迎えしてお届けするよ!」
「うむ。よろしく頼むでござる」
……ナビ子のハイテンションっぷりに俺とアズリアは顔を見合わせて思わず苦笑い。
テンションが高いにも程があるだろう。
というか、ちゃっかりとゲスト解説に居座っているムサシ。
鈴風の相棒が何でここにいるのか。
「ムサシ。お前は鈴風の側にいなくていいのか?」
「うむ。主は己が力のみで勝つと言っておられだ。セッシャが力を貸すわけにはいかぬ」
鈴風から離れなくてはならないから、どうせならとここにやって来たみたいだ。
「ムサシってば、久しぶりの再会なのにちっとも喋ってくんないでさ」
「セッシャは主の影でござるからな。主の許可無く会話はせぬ」
う~ん。ムサシも半年前と殆ど変わっていない。
ただナビ子が言うにはムサシも以前はルースと同じような普通の電子妖精だったらしいが。
それが今や忍者みたいなコスプレをしてセッシャとござると。
というか、ムサシだったら忍者じゃなくて侍だろうと言いたい。
「ムサシって……何でそんなんになっちゃったの?」
「うむ。主に感銘を受けてな。これぞセッシャの生きる道と相成ったのである」
ようするに鈴風に唆されて今の姿になったと。
……実は薄々感じていたんだが、鈴風もキャラを作ってるよな?
だって今日日の日本人で一人称がわたくしなんて女性はいない。
……偏見かもしれないけどさ。
でも間違っていないと思う。
多分、素はサナのような普通の女性なんだろう。
会話中、本人は気づいていないけど、言葉の節々で普通の敬語で話しているし。
まぁ自分の姿が変わって心機一転ロールプレイしているんだから野暮なツッコミはなしってことで。
「あっ本当に始まるみたい」
ルールの最終確認が終わったようで、お互い少し離れた場所でスタンバイする。
今回の決闘のルールは単純で、相手の降参及び戦闘不能にした方の勝ち。
ただし相手を殺した場合、罰則はないが勝負は負けとなる。
最悪ラビットAは死んでもカードに戻るだけだから、ラビットAが鈴風を殺さなければ問題ない。
それ以外は魔法だろうがスキルだろうが暗器だろうが何を使っても問題ない。
ちなみにラビットAが主に使っている武器はラビットステッキとボーパルソードと向日葵ワンドの三つ。
――――
ラビットステッキ【武器】レア度:☆☆☆☆☆
幸運の魔法のステッキ。
魔法の威力が大幅に上昇する。
また、持っているだけで、魔力の自然回復量が上がる。
幸運率が大幅アップ。
様々な恩恵が得られる。
――――
――――
ボーパルソード【武器】レア度:☆☆☆☆
別名ラビットソード。
使用者よりも体格の大きな相手に対して、急所に当たりやすい。
――――
――――
向日葵ワンド【杖】レア度:☆☆☆☆
向日葵型の杖。
魔力を込めることでサンフラワーとソレイユの魔法を使うことができる。
火属性と土属性と光属性の威力増。
――――
この中から今回はメインに向日葵ワンドとサブにボーパルソードを選んでいた。
一番強いのは間違いなくラビットステッキなのだが……向日葵ワンドは最近のお気に入りだからなぁ。
防具の方は流石に向日葵のワンピースではなく、マジカルワンピースの方を選んでいる。
――――
マジカルワンピース【服】レア度:☆☆☆☆☆
魔法耐性のある子供服。
あらゆる魔法攻撃を軽減する。
装備している間、自然治癒促進の効果がある。
――――
鈴風の攻撃は物理攻撃がメインだから魔法軽減はあまり効果がないかもしれないが、自然治癒促進の効果もあるし、向日葵のワンピースよりは防御力もある。
対して鈴風の方は相変わらずの薙刀と着物。
「なぁムサシ。あの薙刀と着物って運営製?」
「うむ。そうでござる」
やっぱり異界シリーズか。
タクミのバトルジャケットは着こなせば威力が上がるってことで、世紀末風になっていたが……鈴風の方も似たようなものなのかもしれない。
「……鑑定していい?」
「……決闘後に主に相談するでござる」
流石にムサシの一存では許可が出せないようだ。
そうこうしている間に、わあああと観客の歓声とともに試合開始のゴングが鳴る。
「きゅい!」
「……いきます!」
二人が互いに動いた……次の瞬間。
ラビットAは鈴風がいた場所に。
鈴風はラビットAがいた場所に。
互いが攻撃の構えをした状態で位置が入れ替わっていた。
「きゅむむ……」
「……やりますね」
多分……やろうとしたことは二人とも同じ。
開始直後の先制攻撃だろう。
だがその結果、二人の攻撃は空振りと。
「あの……解説のナビ子さん。今の解説をお願いしたいのですが?」
「はっ!? そうだった」
おいおい、ノリノリで解説するって言ってたくせに。
アズリアには多分一瞬で互いの位置が入れ替わっただけにしか映らなかっただろうから解説を求めたくなったんだろうな。
「えっと……多分ラビットAはテレポートで鈴風に先制攻撃しようとして、鈴風は……ムサシ、お願い」
「うむ。先程のは主の能力のひとつ『先手必勝』。対戦直後のみ使用でき、一瞬で相手の間合いに入ることができるのでござる」
先手必勝……ナビ子が教えてくれた疾風迅雷のレベル5までの能力にはなかったので、それ以上のレベルの能力と。
今の一回しか使えない能力のようだが、瞬間移動並みに移動できるスキルと。
そりゃあブラックドラゴンに一気に間合いを詰めて首を切り落とせるよ。
「シュート。ラビットAが戦ってくれてよかったね」
「ほんとにな」
俺が相手だったら、確実に今のでやられてたね。
うん、間違いない。




