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第15話 挑戦状

 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら、こちらに近づいてくるごろつき達。

 1、2……5人か。


「よぅ。ここはテメェみてえなガキが来るような場所じゃねえぞ」

「そうそう、ここは大人の遊び場、女を置いてさっさと帰んな」

「アンタもこんなガキと飲んでねえで俺達と楽しもうや」

「そうすれば俺たちがアンタを天国に連れて行ってやるよ」


 うわぁ。予想通りというかそれ以上に下品というか。

 まさにお約束って感じだ。


 ラビットAがやっちゃう? 的な目で俺を見つめる。

 うん。可能な限り穏便に済ませたいから、ちょっと待ってようね。


 こいつ等はどう高く見積もっても中堅冒険者って雰囲気。

 なら冒険者カードを見せて俺がベテラン冒険者ってことをアピールすれば、離れていくだろう。


 ――だと思ってたのにさ。


「御冗談を。あなた方に私の相手がつとまるはずがないでしょう。それより耳が汚れてしまうので、二度と話しかけないでもらえます?」

「そうそう。正直アンタらを見てたら目が腐りそうだから、さっさと視界から消えてくんない?」

「くさいからあっちいけー」


 何で三人で煽っちゃうんだろうなぁ。

 案の定、ごろつき達が怒りだす。


「くっ優しく言ってやったのに調子に乗りやがって。いいからお前だけこぺっ!?」


 男の一人がアズリアに手を伸ばすが……アズリアの肩を掴む直前に、透明な壁にぶつかる。


 ――――

 インビジブルカーテン【無属性】レア度:☆☆☆


 無属性中級魔法。

 指定した場所に透明な幕を作り出す。

 物体を弾く性質を持つが、物体以外は素通りする。

 ――――


 適当に合成して作っていた無属性の防御魔法。

 透明なので発動しているか見破ることは難しい。

 さらにカーテンのように薄い幕なので、店内のような狭い場所でも使える。

 魔法などの実態のない攻撃には通用しないので、防御魔法的にはバリア系やウォール系の方が優秀ではあるものの、今回のように魔法は使わないだろうって場合や防御魔法を知られたくない場合には重宝する。


 たとえアズリア達が煽らず、穏便に済ませようとしたところで、ごろつき達は絶対にアズリアに触ろうとすると思って事前に魔法カードから発動させておいた。

 こんな奴らに指一本触れさせたくはなかったしな。

 ……もしかしたら、発動していたからアズリア達が煽ったのかもしれないが。


「くぅぅ……なにが……」


 アズリアを掴もうとした男は痛みに手を抑えている。

 思いっきり壁に指をぶつけたようなものだからな。

 流石に折れてはいないだろうが、突き指くらいはしているだろう。


「てめぇ! なにしやがった!」


 残ったごろつき共が今にも襲わんばかりと武器に手をかけようとする。

 そんなごろつき共に俺は自分の冒険者カードを見せながら言う。


「はいはい。煽ったこっちも多少悪かったと思うが、人を見かけで判断したお前らも悪い」


 ――――

 名前:シュート

 職業:コレクター

 レベル:35

 ――――


 もちろんスキル部分は伏せおく。


「れ、レベル……35だと!?」


 流石に俺のレベルを見て驚いている。

 というか、ごろつきが大声で叫ぶから、店内が俺のレベルを聞いてざわつき出したんだが。

 やっぱり俺みたいに若くてレベル30を超えたベテラン冒険者って帝都でも少ないんだろうな。

 まぁ殆どラビットA達カードモンスターのおかげで、俺は殆ど貢献してないんだけどね。


「こ、こんなガキがレベル30を超えているわけねーだろ!」

「そ、そんなの偽物に決まってる」


 ……ビビりながら言ってる時点で本物だって思ってるってことだよね。


「冒険者カードが偽造できないってことは知ってるよな? それとも……試してみるか?」


 追い打ちにスキル共有でホブAの威圧を借りて言葉を発する。


「ひっひぃ」


 一番手前にいた男がその場にへたり込む。

 威圧を受けたことがあるから、男が感じている恐怖はよく理解できる。

 残りのごろつきがへたり込んでないのは、この男が一身で受け止めて効果が少し下がったからかな。

 まぁ顔が真っ青になっているから、効果がなかったってことはなさそうだ。


「ほら、いい勉強になっただろ? これ以上突っかかってこないなら何もしないから、そこでへたり込んでいるやつを連れてさっさと席に戻れ」

「わ、わかりましたすいません」


 残った男たちは、へたり込んだ男と突き指男を連れて自分の席……ではなく、店の外へ逃げていく。

 ……まぁいいけどね。


 さて、穏便に済ませたぞ……と、三人を見ると、三人は何故か不満顔。


「シュートさん。俺の女に手を出すな、は?」

「ねー。そう言ってぶっ飛ばすまでがお約束なのに」

「きゅート、へたれ!」


 いや、言うわけないから。


「というか、ぶっ飛ばしたら店に迷惑がかかるだろ」


 ごろつきが怪我するのは自業自得だけど、店に迷惑がかかるのは極力控えるべきだ。

 ……うん。多少ざわついているが店に殆ど迷惑をかけていない。


 それに、ごろつき達も出て行ったし、もう俺たちにちょっかいをかける人はいないだろう。


「ってことで、このまま居座って料理を楽しまないか?」

「どちらにせよ目立っちゃったから、居心地は悪いよ」


 ……確かにチラチラと見られている気はするけど。

 でも、さっきまでのアズリアへの視線とは違い、俺への興味の視線に変わっているので我慢できなくはない。


「それに……どのみち料理は楽しめそうにないわよ」

「どうしてだ?」


 理由がわからずにいると、ナビ子が店の入口に視線を動かす。

 もしかして、ごろつき達が戻ってきたのか?


 ――だが入ってきたのは着物姿の長身で黒髪のポニーテール女性。

 自身の身長よりも長い薙刀と肩にはブラウニータイプの電子妖精。

 半年前と全く変わらない姿の鈴風がそこにいた。


 もちろん偶々店にやって来たわけはなく。

 鈴風はまっすぐに俺たちの席にやって来る。

 当然さっきよりもざわつく店内。

 ……完全に半年前とデジャブってる。


「きゅく……きゅく……きゅはぁ」


 慌ててにんじんジュースを一気に飲み干すラビットA。

 ……この後起こることは予想できるもんなぁ。


「やはりここにいましたか」


 大方ギルドか料亭で俺の存在を聞いて探してたと。

 んで、宿に行っても戻ってきてないから、前回と同じここに来たって感じかな。


 ――たださぁ。


「ったく。何でこんなにタイミングが悪いんだよ」


 どうせ来るならあと5分早く来るか、2時間後に来いっての。


 せめて後5分早ければ、あのごろつき達が被害に遭うことはなかった。

 あのごろつき達がどんなに馬鹿で無知だったとしても、帝都に住んでいて鈴風を知らないはずはない。

 となれば鈴風の知り合いだと分かった俺たちにちょっかいをかけようとは思わなかっただろう。


 そして後2時間後なら……いや、2時間と言わず30分でいい。

 30分後なら、ごろつき達には間に合わないが、最低限の料理は食べているはず。

 それなのにごろつきは被害に遭って俺たちは何も食べられないこんな時間に来るなんて……誰も得しないじゃないか。


「タイミング? 何を訳のわからないことを……河岸を変えます。ついてきなさい」


 はぁ予想通りというか。

 どうせ断ったところで無駄なのはわかり切っている。

 が、このまま何も食べられないのは悔しいので、少しだけ抵抗してみる。


「今回、俺は用事はないんだが?」

「貴方になくとも、わたくしにはあります」

「前回は俺たちの方が用事があったから大人しく付き合った。でも今回はそっちの用事なんだろ? なら俺たちが食べ終わるまで待て」


 俺が言った瞬間に店内が一層ざわつく。


「おいおい正気か?」

「あっあいつ死んだわ」


 うん。さんざんな評価である。

 というか、少し反論しただけでこの反応は……むしろ鈴風の評判の方が気になる。


「食事ならわたくしが用意しますが? 先ほど追い返されたのでしょう?」


 やっぱり知ってたか。

 どうやら料亭の方で聞いたみたいだな。


「酷いよな。鈴風の名前を出したのに門前払いだったんだぞ」

「むしろわたくしの名を出したことで通報される所でしたが」


 オーナーの名前を悪用している不審者と思われたとのこと。

 幸い対応した女将が半年前に俺……というかナビ子とラビットAのことを覚えていて通報は免れたようだが。


 ……やっべ。不審者扱いされるかもってのは全く考えてなかった。


「え~っと、じゃあ用事ってのはそのこと?」


 うう……一気に形勢逆転された気分だ。


「いえ、そうではありませんが……」


 と、ここで鈴風はなにやら考え込む。


「……ふむ。連れ出すよりもここの方がむしろ都合がいい?」


 なにやら不穏なことを口走る鈴風。

 ……このままここにいたら絶対にマズい気がする。


「よ、よし分かった。じゃあ……」

「シュート! わたくしは貴方に決闘を申し込みます!」


 ……遅かった。


「「「決闘おおおおお!!!」」」


 その瞬間、店内に今日一番の叫びが響き渡る。


「さぁ。ここまで騒ぎになって受けないなんて……そんなことは言いませんよね?」


 ふふんとドヤ顔の鈴風。

 ……やっぱり大人しくついて行けばよかった。

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