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第14話 お約束

「ううううう……なんでだよぉ」


 俺は悲しみに打ちひしがれていた。

 こんなに悲しかったことなんて、この世界に来て初めてのことかもしれない。


「なんでハイアナライズの結果がモンスターカードじゃなくてアイテムカードなんだ!」


 ブラックドラゴンを始め、博物館にある全ての剥製がモンスターカードではなく剥製としてアイテムカードに登録された。

 俺の予定では全部モンスターカードになるはずだったのに。


「そりゃあ剥製なんだから当然でしょ。むしろ何でモンスターカードに登録されると思ったのさ」

「いやだって見た目が完全にそのものだし」

「完全に見た目だけでしょうが! 実際は皮と骨の一部は使用してるでしょうけど、9割は偽物なんだし」


 うう……言われてみりゃ確かに剥製って中身はただの詰め物。

 表面だって、一部皮や鱗は使われているが、半分以上の素材は回収されていて残りは偽物。

 そりゃナビ子の言うとおり、モンスターカードになる方がおかしい。


 むしろ貴重なブラックドラゴンの素材を一部でも剥製に利用しているだけでも立派なことかもしれない。

 なにせ鱗1枚ですら立派な盾が作れるらしいから。


 ――――

 ブラックドラゴンの鱗【素材】レア度:☆☆☆☆


 ブラックドラゴンの鱗。

 魔力全般に強い耐性、特に闇属性と火属性に非常に強い耐性を持つ。

 ――――


 数少ない本物部分を登録した結果だ。

 金銭価値はこれ1枚で金貨300枚はするとのこと。

 たった1枚で炎竜石よりも高い金額になる。

 竜の魔力を帯びた石よりも竜の素材そのものの方が高くてもおかしくないけど。

 爪や骨ならもっとするだろう。


「素材の販売ってしてない……よなぁ」


 モンスターカードが手に入らないのなら、せめて素材だけでも手に入らないものか。

 ブラックドラゴンの素材なら、ガロンも喜んでくれるだろう。

 金貨3万までくらいならなんとかなるけど。


「美術館でもそうでしたが、一般販売すると買い占めが予想されるしてないそうです」


 そりゃあそうか。

 同じ状況なら俺だって買い占めるし、星5の絵画だって購入する。

 なら金に糸目をつけない商人や貴族が買い占めてもおかしくない。


「……一般販売は?」


 だがアズリアの説明が微妙に引っかかる。

 わざわざ一般販売って言うってことは別の販売方法があるのか?


「展示が終了した物や、在庫過多なものに関しては不定期に開催されるオークションに出品されるそうですよ」

「マジか!? んで、そのオークションていつ開催されるの?」


 ブラックドラゴンの素材や星5の絵画が買えるチャンスなら……。


「ですから不定期です。いつになるか分かりません」


 ガクリ……と再度落ち込む。


「俺……オークションが開催されるまで、帝都に住む」


 そしてブラックドラゴンの素材や星5の絵画を買うんだ。


「シュートってさ。たまに馬鹿だよね」

「たまにと言うよりコレクター関係に関して頭が働いていないような」

「きゅート、おばか!」


 散々な言われようである。

 ただまぁ今回に関してはぐうの音も出ない。


「でもでも、何で今回はブラックドラゴンのレシピにこだわったの?」

「そりゃ欲しいからだけど」


 なんでそんな疑問が出るのか。

 普通、ドラゴンのレシピが手に入るなら欲しいと思うだろ。


「だってシュートって自分から仮想合成の能力を封印するくらいネタバレ嫌いじゃん」

「確かに。レシピも仮想合成も結果が分かる点でいえば同じこと。レシピが欲しいのであれば封印を解除すればいいだけですね」

「きゅート、やっぱりおばか!」


 う~ん。三人とも微妙に勘違いしている。

 ……ラビットAは別の意味でだけど。


 俺が仮想合成を封印したのは合成結果を知ることで楽しみがなくなるから。

 だからブラックドラゴンを登録したことで手に入る合成レシピは楽しみを損なうんじゃないかと思うのも勘違いしても仕方ないとは思う。


「う~ん。なんて言うのかな。うまく説明できないけど、与えられたネタバレと手に入れたネタバレは違うっていうか」


 ゲームで言うと分かりやすいか。

 仮想合成で得られるネタバレってのは、攻略サイトみたいなものだ。

 対して今回の登録によるネタバレはゲーム内で得た情報。

 流石に俺もゲーム内で得た知識まで封印はしない……というか、これもコレクションを手に入れるための苦労の一つ。

 という感じで説明したんだが……。


「うん。ちっとも理解できないや」

「すいません。私もちょっと……」

「きゅート、へんてこ!」


 誰にも賛同は得られなかった。

 やっぱりコレクター魂を布教するのは大変だなぁ。



 ****


「かんぱーい!」

「きゅい! かんばー!!」

「お疲れ様です」


 本日の帝都観光の締めに酒場で乾杯する。


「色々あったけど、今日は楽しかったね!」

「きゅいっきゅいっ」

「私も今日は楽しませてもらいました」


 そうだな。

 モンスターカードが登録できなかったことは残念だが、図鑑埋めはできたし、なんのかんの楽しかった。


「このお店は一度来たことあるのですよね?」


 アズリアの言うとおり、ここは半年前にも訪れたことのある大衆向けの酒場だ。

 料理が美味しいことで評判の店で、今も店内は賑わっている。


「一応……まぁあの時は1杯飲んですぐに出たけど」

「きゅぅぅ。きゅぎゅかのせー」


 前回は飲み物を飲んだところで、鈴風がやって来て、別の店に連行されてしまった。

 まぁ連行された先は和風の料亭っぽい場所で素晴らしいところだったけど。

 というか、本当ならその料亭に行きたかった。

 あそこはマジで美味しかったし、アズリアに少しでも和風っぽい雰囲気を体験してもらいたかったのだが……。

『当料亭は会員制となっております』

 と門前払いだった。


 前回はあの料亭のオーナーである鈴風がいたから入れたってだけだったと。

 もちろん鈴風の知り合いってことを強調しても駄目だろう。

 まぁ証拠としてオーナーに確かめますと言われても面倒だしね。


 なので前回食べられなかった料理のリベンジでここを選んだんだけど……。


「またすぐに河岸を変えることになりそうだな」


 俺はため息をつく。


「そうね。これじゃあせっかくの楽しい雰囲気が台無しだもん」


 賑わっている店内から視線を感じる。

 前回はそんな視線感じなかったんだけど……まぁ理由はひとつ。


「すいません。私のせいで」

「別にアズリアのせいじゃないよ!」

「そーなの! ぜーんぶシュートが悪いの!」


 そう。アズリアは何も悪くない。

 もちろん俺だって悪くないからなラビットA。


 ただアズリアが店中から視線を集めているのは事実。

 まぁアズリアは間違いなく美人だし、なによりもその胸が……ねぇ。

 男なら誰しも気になるってもんだ。


 しかし……あくまでもそれは一般論。

 俺個人としては、仲間であるアズリアがそんな視線を受けるなんて不愉快極まりない。


 特に……ほら、あそこにいる如何にもごろつきですって見た目の男ども。

 ヤクザなのか冒険者なのか知らないけどさ。

 アズリアのことを下心満載って感じの下卑た笑みを浮かべながら見てて……くそっ無茶苦茶腹立つ。


「ほんっと男ってみーんなさいてー」

「きゅいてー」


 うん、その意見には激しく同意なんだが……ナビ子さんとラビットAさん。

 なんで俺にジト目を向けながら言ってるんですかねぇ。


「きっとこの後『おぅねーちゃん。こんなガキと飲んでないで俺たちと飲まねえか?』ってくるわよ」

「きゅートはガキだから」


 うん、とりあえずラビットAには後でお仕置きだな。

 しかし……本当にありそうだから困る。

 アイツらからしたら、見た目17歳の俺なんかガキ同然だろう。

 そして事実あのごろつき達がこっちを伺いながら相談をし始めた。


 ……この後絶対にやってくるよ。


「ヒロインが絡まれる所で助ける主人公。お約束ですよね」


 なんでアズリアが人事のように言っているのか。

 というか、誰がヒロインで誰が主人公だ。

 ったく。そんなお約束はいらないんだよ。


「はいはい。そんなことにならないように、この一杯を飲んだらさっさと店を出るぞ」


 前回に引き続き今回もまた食事が取れないが、この際仕方ない。

 だがそう思っていたのは俺だけのようだ。


「別に絡まれても返り討ちにすりゃいいじゃん。余裕でしょ?」

「きゅい! よゆー!」

「私……シュートさんに助けてもらいたいな……なんて」


 よし。アズリアはスルーするとしてだ。


「そりゃ、アイツらを返り討ちにするのは簡単だよ。けど、わざわざ諍いを起こす必要はないだろ」


 アイツらアズリアをエロい目で見ててムカつくし、あんなのが何人いたって負けることはない。

 けど回避できる諍いは回避してしまった方がいい。


「けどさ。あの様子だと多分店を出ても追いかけてきそうだよ」

「むしろ人目に付かない方が危険かもしれません」


 確かに追いかけてくるのもテンプレと言うかお約束。


「……そしたらもう知らん」


 相手が追いかけてくるようなアホなら、遠慮する必要はない。

 ただ、俺が思うよりも早くお約束が始まりそうで。

 俺たちが席を立つよりも早く、ごろつき達が席を立ち俺たちに近づいてきた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラビットAの居るところに、喧嘩を売りにいくとは、なんと命知らずな(合掌)
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