第13話 帝都博物館
美術館見学を終えた俺たちの次の目的地は博物館。
正直、美術館は途中で飽きてしまった。
やはり芸術品の価値が分からないやつが行っても駄目なんだなぁって。
まぁ図鑑登録できたから損したわけじゃない。
それに……俺やナビ子と違って、アズリアは十二分に堪能したみたいだし。
戻ってきたときの満足そうな表情を見たときは行ってよかったと思ったものだ。
ってことで、これからは俺たちが満足する番と。
博物館の展示品はモンスターの剥製やら魔石やら素材。
日本に住んでいた頃、恐竜博物館に行ったことがあるが、恐竜の骨格標本に模型、化石とか見ごたえあった。
帝都のモンスター博物館も、きっとあんな感じに違いない。
だとしたら、芸術的価値が分からなくても十分楽しめるはず。
そして何よりもモンスター図鑑の登録。
図鑑に登録さえできれば、簡易説明文と合成方法が分かる。
ブラックドラゴンだけでなく、未登録のモンスターを登録する絶好の機会だ。
さて、どれだけ登録が増えるか。
俺は逸る気持ちを抑えながら博物館へと向かった。
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「これっこれなんだよ!」
見たこともない格好いいモンスターの剥製。
骨のみで組み立てられた骨格標本。
そして美術館同様、モンスター名に生態や攻撃方法などの説明文が記載。
併せて素材や魔石の展示。
展示品はショーケースに入っており、触れないようになっている。
そのショーケースには、スキルを使わずともハッキリ分かるレベルの防御魔法……いや、ショーケース自体が魔道具かな?
とにかく防犯面はしっかりとしているようだ。
また素材や魔石しかないモンスターは説明文プラス絵画付きで紹介。
うん。俺が思い描いていたとおり……いや、それ以上だ。
とりあえず俺は目の前の赤い魔石にハイアナライズしてみる。
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フレイムホースの魔石【素材】レア度:☆☆☆
フレイムホースの魔石。
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よし、問題なく登録できるな。
一応、ショーケースに書いてある説明文も確認してみる。
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フレイムホースの魔石
砂漠地帯に生息する炎を纏った馬の魔石。
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おおう。
図鑑説明文よりもしっかりと書かれている。
生息地が書かれているのは嬉しい。
欲しくなったらそこに行けばいいんだしね。
とりあえず登録できたので、美術館同様登録内容は後で確認すればいいだろう。
今は博物館を楽しまなくては。
「シュート! こっちこっち! ウサギ!」
いつの間に移動したのか、ラビットAがウサギの剥製の前でぴょんぴょんはしゃいでいる。
うん、かわいい。
「え~と……へぇバルバラロップっていうのか」
剥製の下にバルバラロップと書かれてある。
生息地域は帝都付近と。
バルバラートに生息しているからバルバラって名前になっているのかな?
大きさはホーンラビットと同じくらい。
角はなく、長い耳が左右に垂れているのが特徴的だ。
「垂れ耳が可愛いわね」
「きゅい。かわいいの!」
うん、にへらとだらしなく破顔しているラビットAがかわいい。
「なになに……一般的なホーンラビットよりも美味しく、高級食材として扱われると」
「きゅむむ」
それを聞いてラビットAが複雑な表情を浮かべる。
まぁ同族が食材として書かれてて嬉しいわけないか。
「ホーンラビットのほーが美味しいもー」
……違った。
単純に美味しさで負けたプライドが許さなかったらしい。
考えてみりゃ平気で同族を殺すラビットAに哀れむ感情なんかあるわけなかった。
「え~っと、とても臆病なモンスターで、すぐに気配を消すため、見つけるのが困難と」
なるほど。中々見つからないのもあって高級食材と。
気配察知とか隠密とかのスキルを持っていそうだ。
戦闘能力はホーンラビット並のようなので、見つけることさえできれば、簡単に倒せそうだ。
「まっアタイだったら一瞬で見つけちゃうけどね」
そりゃ俺たちなら簡単に倒せるだろうよ。
この辺に生息しているみたいだし、帝都にいる間に捕まえてもいいかもしれない。
「おっお隣もウサギ……なのか?」
「えっ? これウサギなの? ただの毛玉じゃない」
「きゅい! もふもふなの!」
「ああ。これはフルフラビットですね」
どうやらアズリアは知っていたみたいだ。
ぱっと見綿毛の塊のような物体で、ナビ子の言うとおりただの毛玉にしか見えない。
しかし、確かにアズリアの言うとおりフルフラビットと書いてある。
……あっ、よく見ると毛玉に隠れて顔が見える。
毛をかき分けたらちゃんと見えるんだろうが……触れないのがもどかしい。
……触ったら気持ちよさそうだ。
「このふわふわな兎毛が高く売れるんです」
なるほど。
素材を取り扱ったことがあるのか。
確かにフワフワしているから何にでも使えそうだ。
「んで、その隣は……これもウサギなのか?」
名前はレオナイト。
ウサギなのにライオンのたてがみのようなものがある。
「きゅえ~かっこいーの!」
えっ!?
ラビットA的にはこのウサギは格好いい部類に入るのか?
「へぇラビットAってこういうのが好みなんだ」
「きゅみぃ」
恥ずかしがるラビットAは可愛いが……将来ラビットAがレオナイトと結婚するとか言い出したらどうしよう。
……もしレオナイトの魔石が手に入ったとしても、登録だけでモンスターカードにしなくてもいいかな。
「……シュートってさ。絶対親バカだよね」
「ですよね」
俺の心を読んだかのようなナビ子とアズリア。
ほっとけ。
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ウサギコーナーの後も博物館内を色々と堪能した。
推定五メートルはある巨大なカマキリの剥製。
「ジャイアントシザーマンティスだってさ。かっこいー」
「きゅしゃー!!」
毛を逆なでして威嚇するラビットA。
……カマキリが苦手なのだろうか?
頭がふたつあるオオカミの剥製。
「ツインヘッドウルフか……ウチにはオルトロスとケルベロスがいるからなぁ」
オオカミの頭が二つに増えたくらいじゃ迫力に欠ける。
「ブランドボア……ものすごく美味しいらしいですよ」
えっ? もしかしてブランドってそういう意味?
そして……広い空間に出る。
いよいよメインのブラックドラゴンの剥製のお出ましだ。
「……でかいな」
「……でっかいね」
「……きゅっかい」
10メートル以上あるグリムと比べると一回り小さいが、それでも7、8メートルはありそうな漆黒のドラゴンがたたずんでいた。
「鈴風さんというプレーヤーはたった一人でこれを討伐されたのですか?」
「ねぇ。ビックリだよね」
ぶっちゃけ、ソロで倒すだけならラビットAでもできるだろう。
遠距離から魔法を使えばラビットAに勝てる相手はいないもんな。
ただその場合、ブラックドラゴンが原型を留めているかは微妙だけど。
鈴風の場合、剥製にできるくらい原型を留めた状態で倒しているってことだ。
「あっここに首を切り落としてって書いてあるよ」
……本当だ。
音速の鈴風により首を切り落とされるって書いてある。
多分ドラゴンだからブレス攻撃とか爪での物理攻撃とか、下手したら魔法攻撃もあったと思う。
ブラックドラゴンだから闇魔法かな?
仮に近づけたところで、威圧系スキルもあっただろうし……そもそも防御力だって半端ないはず。
それら全てを掻い潜って、首を切り落とすなんて……うん。やっぱり鈴風とは絶対に戦っちゃだめだな。
そんなブラックドラゴンの強さを象徴しているのが剥製の直ぐ側に展示されている漆黒の魔石。
今までで一番大きな魔石でも直径30~50センチだったが、これは1メートル近い。
「こんなデカい魔石……体のどこにあるんだろうな? ちょっとナビ子。探してきてくれないか?」
「んじゃあ口から入って……って!? なにアタイのトラウマを呼び起こそうとしてんのさ!」
う~ん。今日のナビ子はテンションが上がっているからかノリがいい。
ってか、結局グリムの口の中に入ってないんだから、そろそろトラウマを克服しようよ。
さてと、じゃあお待ちかねのハイアナライズをしましょうかね。
「ありゃ? 図鑑で確認すんの?」
確かに今までの分は登録だけして確認しなかったけど。
「流石にブラックドラゴンは気になるからな」
それにここが最後で、見回るところはないしね。
ってなわけで、魔石から確認。
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ブラックドラゴンの魔石【素材】レア度:☆☆☆☆
ブラックドラゴンの魔石。
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「ありゃ。星4だ」
てっきり星5かと思ったのに。
「やっぱりただの色系ドラゴンは星4なんじゃない?」
なるほど。
確かに星5のグリムはレッドドラゴンの進化系と考えると、ブラックドラゴンは星4なのかもしれない。
「となるとブラックドラゴンの進化系は何になるんだろうな」
「そだねー。イメージ的にはダークネスドラゴンとかトワイライトドラゴンとか」
確かにレッドからのクリムゾンを考えるとナビ子のイメージ通りになりそうだ。
「じゃあその星5ドラゴンを手に入れるためにブラックドラゴンのレシピを……」
ブラックドラゴンを登録して合成レシピを手に入れれば……。
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ブラックドラゴンの剥製【芸術品】レア度:☆☆☆
ブラックドラゴンの素材を使用した剥製。
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……おんやぁ?




